第104話_逆転の一手
――西部大森林樹海上空。
隔離された魔法空間。
領域魔法――。
《シンギュラリティ・ヴェール》。
その世界の中に、三人はいた。
「私の領域に閉じ込めたわぁ」
イザベラの領域。
周囲に広がる――疑似宇宙。
上下の感覚はある。
だが、それ以外の方向が分からない。
「………」
次元断絶――アスカロン。
発動まで、残り一分。
「これで次元断絶が発動しても――」
クロムウェルが得意げに語る。
「顕現した“神”に――」
「攻撃が当たることはない!!!」
「………」
アルトリウスは答えない。
イザベラが手をかざす。
――重力弾。
無数の魔弾が飛ぶ。
一撃の重さよりも、手数。
それが――。
アルトリウスを動かす。
(方向が分からないな)
辛うじて上下だけは見失わないようにする。
身体が重い。
領域の影響が、出始めていた。
だが――。
王国十二守護騎士、第一位。
《神剣》アルトリウス。
黄金の魔力を纏った彼だからこそ、
生存できていると言っても過言ではない。
神剣を振るう。
一閃。
迫る魔弾を、
蟲型魔獣も纏めて切り伏せる。
「蟲は全滅ですか――」
「王魔獣の癖に、やはり幼獣では弱いですね」
(――残り二人)
アルトリウスは冷静に判断していた。
(だが――。時間か。)
「さぁ――」
イザベラが不敵に笑う。
「撃ちなさい」
「次元断絶なら――私の領域は簡単に壊せるでしょう」
「私たちに向かって放てば――無事では済まないでしょうけど」
「だけどぉ……」
彼女は笑みを深める。
「それでは、“ワルプルギス様”に――」
「届かないわよぉ――」
「………」
アルトリウスが口を開く。
「何か勘違いしてないか」
神剣を上へ向ける。
天に――。
「俺は――」
「最初から、お前たちが神と呼ぶ――」
「“ワルプルギス”を狙っていない」
その瞬間――。
世界そのものへ、命令が実行される。
空間に無数の魔法が展開された。
世界が震える。
『――Execute: "Ascalon". Severing all causalities.』
巨大な光の柱が、領域を貫通する。
空間が割れ――。
領域が崩れる。
「まさか……あなたの狙いは――」
イザベラが驚愕する。
「――断絶せよ」
そして――。
光の柱は、そのまま天へと伸びる。
黒い天井へ。
――永劫の帳へ。
パリィィィィィィンッ――!!!
ガラスが砕け散るような、甲高く、圧倒的な破砕音が鳴り響いた。
そこにあったもの。
全てを閉じ込めていた――。
《永劫の帳》。
大陸全土を閉ざす巨大な檻が――。
破壊された。
驚愕する二人。
「………」
だが、イザベラはすぐに笑みを取り戻した。
「でもぉ、いいの」
「必殺の神剣――」
「次元断絶は、もう撃てないわよぉ」
「あぁ――」
アルトリウスは静かに答えた。
「これで良い」
彼は手のひらを掲げる。
そこから放たれたのは――。
黄金の魔弾。
小さな光。
魔法が苦手な彼が放つ――。
あまりにも小さな光弾だった。
ふわり。
魔弾が上空へ浮かび上がる。
それを見て、魔人と魔女が失笑する。
黒く歪んだ異界。
そこに潜む――“神”。
まるで、その存在を照らすように。
小さな魔弾は、ふわりと飛んでいった。
――――
――
魔導王国仮設本部跡地。
一帯は瓦礫と化していた。
そこに立っているのは、数人の魔導士だけ。
「さて――」
アムリタが宣言する。
「終わりにしましょう」
《虚無》魔法――。
「くっ……!」
ネネは――。
ロザリアは――。
もう動けない。
魔法が発動される、その直前。
パリィィィィィィンッ――!!!
天が割れた。
否――。
《永劫の帳》が破壊された。
「……永劫の帳が――」
アムリタが不意に呟く。
何かが起きた。
計画とは違う何かが。
その瞬間――。
瓦礫の中で、魔導機器の通信が息を吹き返した。
『ザー……ザー……』
『――聞こ……ますか……』
だが、ほとんどのシステムは破壊されている。
通信が繋がったのは、奇跡に近かった。
「――のじゃ」
小さな声が響く。
にやり。
笑みを浮かべる。
レーゼは気づいたのだ。
大陸を蓋っていた帳が解除された。
誰かが、やってくれた。
(繋がったのじゃ)
(――魔力が繋がったのじゃ)
レーゼが魔力を解放する。
蒼と金の粒子が、周囲に滲み始めた。
まるで夜空の星々が溶け出したかのような――。
幻想的な光。
それは、星属性魔法。
「おや……」
アムリタが気づく。
「星間移動ですか
まさか、逃がすとお思いですか?」
「勘違いしとるのぅ」
レーゼが不敵に笑う。
「わらわの星属性魔法――」
「その特性を、知らぬのじゃな」
《星海を往く者》。
それは、魔導王国が、
ミスリードさせるために流した二つ名。
秘匿された、レーゼの魔法。
過去も含めて――。
世界に三人しかいない、星属性魔導士。
彼女が持つ特性。
『導きの星』から派生した能力の一つ。
――空間の導き。
《ベクトル・チェンジ・ナビゲーション》。
「わらわと――」
「一番仲がいい十二守護騎士にのぅ」
レーゼは笑みを深める。
「最強の殲滅魔導士がいるのじゃ」
「まさか……!」
アムリタが驚愕する。
レーゼが手を掲げた。
「召喚――
十二守護騎士」
そして――。
「――《蒼氷》セレナ」
蒼い魔力が迸る。
――ビシッ。
圧倒的な魔力の奔流。
空間が軋む。
氷結晶の杖。
《クリスタニア・レイヴン》が、鈍い輝きを放った。
アムリタが気づく。
だが――。
咄嗟に魔法を撃つよりも早く。
それは放たれた。
――領域魔法。
「――氷界終焉
《ニヴルヘイム・イクリプス》!!」
瞬間――。
目の前の空間、その全てが凍りついた。
作者( ゜Д゜):三人の星属性。『導きの星』の設定だ。
特性名:運命の導き(インテリジェンス・レガシー)
特性名:空間の導き(ベクトル / チェンジ・ナビゲーション)
特性名:魔力の導き(マナ / エボリューション)
オコジョ:ほぇ~。三人……??




