これは我儘なのだろうか
「俺は…次期国王に…なりたい!」
俯きながら声をふるわせるネクスの姿…正人は目を見開き、シーナとミアに尋ねた。
「これは…どういう事なんだ?」
正人からすれば屋敷に戻れば色々な人が散々な目にあい、仲間も殺されそうになっていた。だが、ミアとシーナは殺そうとしてきた奴に対し近寄り…さっきまでの立場がうそのようになっていた。
「ネクスは、国王になりたいのよ」
「うん…今聞いたけど…」
「とにかく!もう攻撃はしなくていいわ。ネクスもその気が無いみたいだし」
「お…おぅ…」
(マジでわからん。こいつ頭いいのにたまにこういうのがあるよな)
「ネクスさん…しっかりと話し合いましょう?」
「…すまない」
ネクスはミアの言葉に思わず涙し、謝罪していた。
ミアがこの屋敷のメイド、執事の怪我を治療させ、正人はシーナと一緒に傷ついている屋敷を魔法出直した。
広間に座る面々は異質で…執事長のロイ、メイド副長のサラ、そしてネクス。流星の魔術団の3人。最初に口を開いたのは執事長…
「ありがとうございます皆様…屋敷を守り、誰一人死人が出なかったのは奇跡です。」
「正人様がきて治癒魔術を広げてくれなかったらどうなっていたのか分かりませんでした。」
ロイに続きサラが口を開く…正人は確かに屋敷に来て治癒魔術を広げたがあまり記憶にないらしい。体が勝手に動いたような…そんな感覚だった。
「…ご無事で何よりです」
正人は二人にそう返して、ネクスの方へと視線を送り話を切り出した。
「それで?次期国王になりたかったら…俺たちを殺すように国王に言われたと…」
「…あぁ…」
やはり国王は屑だった。似たような話をギルドでもしていた正人は思わず拳を握った。
「次期国王になるには…これしか無かった」
本当に…これしか無かったのだろう。色々な葛藤があり、その上で降り注いできたひとつの希望。それを見せられたら誰だって縋ってしまう。だからこそ…そこに漬け込む国王が許せなくてしょうがなかった。
それはシーナもミアも同じで…
「あんたの気持ちはわかるわ…でも他のやり方もあると思うわよ」
「…他の、やり方?」
「どうしてネクスさんが…今もこの屋敷にいれているのか分かりますか?」
「……?」
ネクスは首を傾げていた。一体何を言っているんだ?といいたげな顔をしていた。そこで、ロイが口を開く。
「わたくし達はネクス様が嫌いだとか…そんな感情になったことは一度もないです。」
「はい。女好きのクズですが…人柄は嫌いではないです。確かに…裸で──」
サラがそこまで言ったところでゴホンッという音をわざとらしく鳴らし、ロイは正人の方に視線を向け、真摯に告げた。
「正人様なら…なんとなくわかったのではないでしょうか?」
一瞬…戸惑いを見せるが、深呼吸をして脳をリセットさせる。
この屋敷に来たとき、ロイは問題児を排除したいと言っていた。正人はてっきり、ネクスのことだと思っていた。でも…違う。全ての元凶である国王を排除したいと遠回しに伝えていたのだ。周りに立っている執事やメイドを見渡し、その反応を見るに本当なのだろう。
「もしかして…俺を外に行かせるようにしたのもこの状況を作り出すためか?」
「…左様です」
少し申し訳なさそうに頷き、キリッとした目を向けるロイ。
(こいつ…こえぇぇ…)
その場に正人がいたら間違いなく即戦闘になっていた。それを回避するために街に出向かせ、シーナとミアに内情を知ってもらう。それがこの執事長の企みだった。さすがユーノに従える執事長だなと考え…それと同時に確信する。
このネクスという人物は人望があるのだろう。メイドや執事の接し方でもわかる。
「ネクス…お前、リョウというやつを知ってるか」
正人が突然話をすっ飛ばすかのように言うので周りの人間は少し驚く。だが、ネクスはその名前を聞いて驚きはしたものの頷きながら答えていた。
「知っている…国と国を繋ぐ情報屋であり…俺に剣を教えてくれた人でもある」
「そうか…なら話は早そうだな」
「その…リョウ?って人と知り合いなの?」
シーナは怪訝な顔をしながら正人に聞いた。
「ああ…街中に出掛けた時にそいつに会ってな。王宮に行くための手助けをしてくれる」
「すごいじゃない!」
「良かったですね!ネクスさん!」
ネクスは肩を竦めながら正人の目をじっと見つめながら言った。
「よかったら…手を貸してほしい。」
「当然だ。ユーノを助ける手助けもしてもらうがな」
「…ああ」
ネクスは微笑し、正人たちと手を組む事になった。
正人はユーノを助けるため、王宮に入る出入り口を教えてもらう約束をした。いつ、どのタイミングが入りやすいのか…どこが手薄か…隅々まで。
「俺は国王になるために今まで努力してきたつもりだ。だがあのクソ親父が剥奪したせいでそれが無くなった。」
ユーノという圧倒的天才を前にしてネクスはその夢をあきらめる事になったが…今は違う。手を貸してくれる奴らがいる。
「クソ親父の行動に不満を持つ兵士や、国民が凄くいる」
「なら、そいつらを使おう」
正人はヌルッと提案。ほかのメンバーは目が点になる。
「国王を殺さないの?」
シーナが首を傾げながら正人に聞く。
「んなことしねぇよ。俺らがやるのはユーノの救出…国王云々は当人同士でやればいい。そだろ?」
「ああ…国民は使わないが、兵士を使ったら制圧は簡単だし大事にならずにすむだろうな。」
「お前のコミュニケーション能力ならすぐに国王になれるよ」
「…ありがとう。」
正人は視線を逸らして窓を眺める。別に照れ隠しをしているわけじゃない。
こういうのも今後は必要だ。人間世界に帰るためなら何でもすると決めた。こういうめんどい事もして行かなくちゃいけない。でもそれは最小限でいい。こういう問題なら特に。当人同士で解決できるように回せば後はそっちでやってくれるだろう。
だがそこまでしてくれる正人にネクスは少し疑問を抱いていた。
「なぁ…どうしてここまで積極的なんだ?」
正人はその言葉に怪訝な顔をするが…視線を食うに彷徨わせながら答える。
「もし今後…俺たちが困った時は助けてくれ。それだけだ」
正人の言葉にシーナとミアは微笑する。もっといい言葉があったのには間違いないのだが、変な言い回しをするよりこっちの方がよっぽど効果的だ。何故なら目的がはっきりしていた方が互いにやりやすいからな。
そしてネクスは笑いながら言った。
「ま…俺が国王になれたらの問題だがな」
「なれるだろ…この屋敷とユーノがいれば楽勝だ」
ネクスは苦笑しながらも頷いた。
それだけユーノの存在はこの国でも偉大だということだ。それが分かっただけで後は決めたことを順番にやればいい。
そこまでやった所で…正人はふと、自分が今やっていることについて考え始めていた。
(これで良かったのか…もっとほかにいい方法はあるんじゃないか)
…と。今後何かあった時に助けてくれというエゴのためだけに…ここまでしていいのだろうか。これはただの…我儘何じゃないかと思った。だが、ユーノが囚われているのはもう間違いなくなった今、変なことを考えるのは辞めて、仲間を救出することだけを考えようと頭を振った。
「それで、いつ決行するの?」
「ユーノさんが心配ですしなるべく早い方が…」
「そうしたいのは山々だが、今すぐ…は無理だ」
ネクスは顎に手を当てながら言った。正人もそれに同意して答えていた。
「明日、リョウさんと話をするまで決行を決めるのは厳しいかな。ネクス、ユーノが殺される可能性は?」
「ないな…親父もユーノの両親と面識があるからそれは無い」
「ならいい」
「だがもし心配なら俺が王宮に向かう時に兵士に無事かを確認してもらう」
「助かるわ」
「ありがとうございます」
シーナとミアはネクスに礼を言ってネクスは満更でも無い顔になる…のだが、すぐに戻し、周りにいるメイド、執事に目を向け、そしてロイとサラを見て…
「今まですまなかった。お前らに八つ当たりするようにして…ゴミみたいなことまでさせた。むしのいいことだってのは分かってる。だが今回は力を貸してくれ。」
額を机に付けながら懇願するネクス、サラを含めたメイドは白い目で見ていた。そしてサラが怒号を浴びせようとした時…ロイが手を挙げてそれを止め…ネクスに問うた。
「ユーノ坊っちゃまのことは…どう思われていますか?」
予想していなかった言葉でメイドや執事、正人たちも驚いていた。
「…あいつの事は今でも嫌いだ。でもこの嫌いは俺の嫉妬ゆえの物だ。尊敬もしているしあいつには勝てないところは無限にある。俺が勝てることなんて──」
「ありますよ。」
「え?」
「あなたは信念を曲げない強さを持っています。そしてその正直さ…ユーノ様は生まれつき魔力の特性が不便でしたからね。」
話が脱線しそうになったのでロイ自ら咳払いをして、話を戻す。
「ユーノ様を…ユーノ坊っちゃまを助けてくれるのなら、この屋敷一同…あなたを次期国王にするべく力を貸します。」
「…っ!?」
涙を流しそうになるのをぐっと堪え…ネクスは真摯に告げる。
「ありがとうロイ」
そういいながら手を出し、ロイも差し出された手を握る。
「よし、んじゃ俺は一旦自分の部屋に戻るわ」
和解もでき、目的が明確になった今…正人はその整理と魔法…魔術の訓練をしたいと考えていた。
シーナとミアもやりたいことがあると伝え、この部屋を出ていき…正人も出ていこうとした時…
「ちょっと待て正人…戦ってた時に思ったことがあるんだが…」
肩を竦めながら言うネクスを見て正人は首を傾げる。
「お前の魔術…特に炎がやばかったんだが、1番得意な魔術か?」
「いや、別にそんなことは無いが…」
「…そうか」
歯切れの悪い会話に正人はむず痒さを感じて、率直に聞いた。
「何が言いたい?」
「魔術って人によって得意不得意なものもあるから…最初はひとつに搾った方が伸びるぞ。お前まだ魔術使い始めたてだろ?」
「…よくわかったな」
「逆にわからないやつはいねぇよ。お前の魔術はなんか、おかしい。間がぐちゃぐちゃなのに魔力が高いせいで完成しきってる感じだな」
「そりゃあすまんね…」
肩を竦めながら言う正人。
(途中式がぐちゃぐちゃなのに答えだけあってるみたいな感じか。)
確かにそう考えればおかしいと言われるのも納得がいく。そのアドバイスを聞いて正人は礼を言ってこの部屋を後にした。




