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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第二部

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第34話

「だぁ~……っ」


──ボスン!


呻き声を上げてレゼルヴがベッドにダイブする。


場所は普段彼が寝起きしている下宿ではなく、オルデン家使節団のために借り上げられた宿舎の一室。今回の一件を受け、カートンたちがレゼルヴとローラ──と名乗るアウラ──のために部屋を準備してくれた。


「お疲れ様です。相当絞られたようですな?」

「……ま~ね~。ガキだから脅せば何とかなると思ったんだろうね。ま~、しつこいしつこい」


アウラの護衛として宿舎で待機していたカートンが、疲れ切ったレゼルヴに労いの言葉をかける。


部屋の中には他にアウラとソフィア。皆、レゼルヴが帰ってくるのを待っていた。


「何か手がかりになる様な話はありましたか?」

「ん~ん~……学院への忠義やら僕の今後の身の振り方やら、詰まんない話ばっかだったよ。ま、騒いでたのは小者ばっかで、ホントに上の方の人たちは様子見って感じだったかな」


うつ伏せの状態から首の上だけを起こして答える。


レゼルヴは日がどっぷり暮れるまで学院内で一人、上層部からの事情聴取を受けていた。


その内容は学院内でアウラが殺害されたこと──ではなく、アウラの遺産の行方と遺言書について。要するに彼らはレゼルヴを懐柔するなり脅すなりして自分たちが彼女の研究成果を手に入れようと騒いでいたのだ。


遺言書の真偽についても調べられ、レゼルヴも【真偽判定トゥルーセンス】の呪文で遺言書が生前アウラ本人から託されたものであることなどを確認された。そしてその上で、婉曲に遺言書の破棄や研究資料の横流しなどを求めてくる連中の口撃に長時間晒され続けていた。


学院長の鶴の一声で一旦今日のところは解放されたが、明日以降はどう彼らの追及をやり過ごすか考えねばなるまい。


「──と、カートン。警備体制の方はどうなってる?」

「ご指示の通り、研究室に二名、この宿舎の周囲に四名。残りの者は休ませながら、時間差で交代して回しております」


カートンはレゼルヴの確認に淀みなく答え、ふと首を傾げた。


「今更かもしれませんが、研究室の警備はもう少し手厚い方が良かったのではありませんか? 学院側の妨害があったため資料の大部分はあちらに残置したままになっています。敵の狙いが研究成果であった場合、二名だけでは防ぎきることは難しいかと思いますが……」

「いいさ。核になる資料は先に持ち出してるし、残した資料が重要じゃないとは言わないけど、こっちの警備が疎かになったんじゃ本末転倒だ」

「……やはり、こちらを狙ってきますか?」

「さあ? ただ遺言を無効化して師匠の遺産を手に入れるには僕らを殺すのが一番手っ取り早いからね。可能性としては高いんじゃないかな」

「なるほど。では早速今後の動き方ですが──」


カートンは納得したように頷き、言葉を続けようとして苦笑。


「──坊ちゃんもお疲れのようですし、ややこしい話はまた明日にしましょうか。夕食はいかがなさいます? 簡単なもので良ければ私が準備しますよ」

「……カートンが作るの?」

「はい」


自信満々に頷く従士に、レゼルヴはあまり食欲はなかったが彼の作る料理には興味が湧いた。


「じゃあ、あまり重くない感じでお願い」

「かしこまりました。──お嬢様方はいかがしますか?」

「彼と同じものをお願いします」

「私は家で食べて来たので」


アウラとソフィアの返事を聞いてカートンは部屋を後にした。


「…………」


その足音が遠ざかり、警備の兵士たちが聞き耳を立てていないことを使い魔(ルフト)の視界を通じて確認した後、レゼルヴはおもむろにむくりと起き上がり、アウラとソフィアに向き直る。


「今の内に情報共有を済ませときましょうか」

「そうね」

「うん」


カートンを信頼していないわけではないが、彼らの前では特にアウラと踏み込んだ話をすることは難しい。


まず最初に口を開いたのはアウラだ。


「遺言書の方は大丈夫だった? 多分、相当怪しまれたんじゃないかと思うけど……」

「大丈夫です。遺言書の鑑定やら真偽判定の呪文やらで散々調べられましたけど、遺言書自体は師匠が作った本物ですし、内容に関しても何一つ嘘はついてないですからね。万一、師匠が死んだことに疑いを持ったなら話は別ですけど、そうなると遺産を争うって前提そのものが崩れてしまう。怪しまれはしても、遺言の存在自体を否定されることはないと思いますよ」


今更言うまでもないことではあるが、アウラの遺言書というのは事件が起きた後にレゼルヴがアウラに準備させたものだ。


だが遺言書自体は正式なもので、内容にも一切嘘はない。


アウラは自分の死後、娘を相続人とし、遺言執行者に弟子のレゼルヴを指定した。


ただアウラは実際にはまだ死んでおらず、娘のローラもまだ生まれていないというだけで、嘘ではない。


前者については一度死んでいたことは事実なので追及されてもどうとでも誤魔化せるし、後者についても『ローラは本当にアウラの娘なのか?』と疑われたが、


『私もローラという少女が師の股から生まれたところを見たわけではないので、真実二人の間に親子関係があるかを証明することはできない。だが、私は生前の師から彼女が娘のローラだと説明を受けた。であれば実際に師との間に血縁関係があろうがなかろうが、彼女が師の相続人であることに問題はない筈だ』


とレゼルヴは答弁し、【真偽判定】の呪文をかけられた上での追及を切り抜けている。


学院上層部も、これでレゼルヴが平民であったなら彼ごと遺言書を握りつぶすことも出来ただろうが、レゼルヴは曲がりなりにも男爵家の子息で、しかもその実家は王国屈指の武闘派。


アウラの遺産にハイエナのように群がった者たちは、しかしレゼルヴの妨害により手出しできず、ただただ騒ぐことしかできなくなっていた。


ただ、とは言え──


「そう、でも油断しちゃ駄目よ。昼間から堂々研究室に踏み込んで私を殺すような相手だもの。常識で判断してたら痛い目見るわ」

「……ですね」


アウラの忠告に素直に頷く。魔術的にも物理的にも厳重な警備が敷かれた学院の、しかも導師クラスの研究室となれば、その護りの堅さは並の城塞を遥かに上回る。それを突破してアウラを殺害した敵を常識的な思考で測ることは危険だろう。


またそうした相手を敵に回している現状、オルデン家の兵士たちが協力してくれているとはいえ、戦力も決して十分とは言えない。


「ソフィアの方は大丈夫だった? お膝元で僕らが勝手に動いて、閣下がご不快に思ってなけりゃいいんだけど……」

「…………」

「……ソフィア?」


何故か苦虫を噛み潰したような表情をするソフィアに、レゼルヴが首を傾げる。


「ゴメン。先生には先に説明したんだけど……ついてきちゃった」


──シュタッ


「お久しぶりです」

「うおっ!?」


突然、前触れなくその場に姿を現したひっつめ髪のメイド服の女性。その顔にレゼルヴは見覚えがあった。


「ブリギットさん!?」

「はい」


無表情でクールに頷く彼女は、二年前の事件の後、ソフィア付きになった専属メイドのブリギットだった。


「え? どゆこと……!?」


困惑するレゼルヴに、ソフィアは頬をかきながら申し訳なさそうに答えた。


「えっとね……お父様には先生が生きてることとかは伏せた上で事情を説明して、ウチの人間は関わらずにオルデンの人たちだけで対処するってことはすんなり納得してくれたの。ただ、私がそこに関わることは許してくれなくて」

「ああ……」


それはそうだろう。誰が危険な人殺しがうろついている学び舎に娘をそのまま関わらせたいなどと思うものか。


加えて辺境伯という立場上も娘が学院の問題に関与することは内政干渉を疑われるためあまり好ましくない。


「先生を殺した犯人が私を狙う理由がないって説明しても『そういう問題じゃあない』って納得してくれなくて」


まあ実際、そういう問題ではない。


「話をしてもお互い平行線で、結局私が引くつもりがないって分かったら、お母様がブリギットを護衛につけなさいって……ついてきちゃった」

「ついてきちゃったか~」

「ついてきちゃいました」


無表情で言うブリギットがちょっと可愛いと思ってしまったのはレゼルヴだけの秘密だ。


しかし実際これはどうなのだろう? 流石にアウラの正体しゅぞくまではバレていないだろうが、自分たちのやっていることがブリギットを通じて筒抜けになるというのは──


「ご安心ください。私の直属の主人はお嬢様です。例え御屋形様相手とは言え、主人の秘密をベラベラと喋るようでは使用人失格。御屋形様から命じられたお嬢様の護衛という任務を果たす上でそれが悪影響を及ぼさない限り、ここで見聞きしたことを口外するつもりはございません」

「…………」


そうは言っても、とレゼルヴはソフィアとアウラに視線を向けるが、二人は既に話し合い納得済みなのか諦めたように肩を竦めている。


まあ秘密が漏れて一番困るのはアウラだし、彼女が納得しているならいいかとレゼルヴはブリギットについて考えることを放棄した。


「ブリギットさんのことは一先ず置いておくとして、レゼ。あの三人に動きはあった?」


アウラが口にした『あの三人』とは、学院上層部でアウラの研究成果を狙っている可能性が特に高い者たち──所謂、容疑者候補だ。


「一応、三人とも事情聴取の場には顔を出してましたけど、あれはどうなんでしょうね……」


レゼルヴは学院関係者に囲まれ延々詰められた時間を思い出す。


容疑者候補の一人目はこの学院の最高責任者であり『基礎魔術』部門の学部長を兼務するガイウス学院長。頑迷な原理主義者で不法な行為に手を染めるようなタイプではないが、もしアウラがあのまま死んでいてレゼルヴが遺言書を持ち出さなければ、アウラの遺産について最終的な処分権限を握っていたのは彼だ。


二人目は『死霊術』部門のノード学部長。彼は長い黒髪と血色の悪い顔色が特徴の『悪』の魔術師の構成要素を煮詰めたような男でとにかく評判が悪い。『事件が起きたらノードを疑え』というのは学院では常識らしく、アウラやソフィアからもよく注意するよう言われていた。


最後の三人目は『変成術』部門に所属する導師ミリアルデ。若々しい見た目をしたエルフの女性で錬金術の大家。アウラと同様役職にはついていないが、その技量はこの学院で三指に入ると噂されている。物腰柔らかで素行も良く悪い噂のない人物だが、アウラとは犬猿の仲で、曰く『とんでもない腹黒』らしい。


事情聴取の時間を思い返してはみるが、騒いでいたのは上層部の中では下っ端連中が主で、先に挙げた三人はほとんど黙ってレゼルヴを観察していた。


あの全てを見透かすようなねっとりとした視線は果たしてどういった意図があったのか……


「あの三人はほとんど黙って話を聞いてただけですね。学院長に至っては疲れた僕に助け舟を出してくれましたし……ホントにあの三人の中に犯人がいるんですかね?」

「それは分からないけど、あの三人は仮に犯人じゃなかったとしても警戒が必要な連中よ。他におかしな動きをしてた奴はいなかった?」

「…………いえ、特にこれって人は」


疑えば全員怪しく思えるが、これといって疑う根拠のようなものもなかった。


「ま、仕方ないわね。私もいきなり尻尾を出すような間抜けに殺されたなんて思いたくないし」


アウラは元々期待していなかったのか、肩を竦めてあっさり納得する。


「こうなったら当初の予定通り、相手が焦れて手を出してきたところを迎え撃つ準備をしつつ、襲撃者の方を探っていきましょう」

「──宜しいでしょうか?」


そこで黙って話を聞いていたブリギットが挙手して口を挟む。


アウラが無言で頷き許可を出すと、ブリギットは疑問を口にした。


「私は現場などは見ておらず詳しい事情が分かっていないのですが、何か手がかりのようなものは残されていたのでしょうか?」

「いえ。それらしいものは皆無ね」

「でしたら探ると言っても──」

「ただ、犯人の行動にはいくつか不自然な点がある。まずはそこから候補を絞っていきましょう」

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