22.同じ轍は踏まない
「あんた、いつの間に女子と普通に話すようになってるの」
朱里はふとした疑問を投げかける。しまった。俺はこの時点では朱里以外の女子と関わりがないから普通に話せているのは変に映っているかもしれない。
「ああ、いや、俺だって何時までもほかの人と話せないのはやばいと思って」
正直かなり苦しい言い訳だと思うが咄嗟に出たので仕方ないだろう。
「……、ふ~ん、まあいいけど」
納得はしてないようだがそれ以上追及してこないようだ。助かった。しかしどうなっているかは分からないが俺の記憶と同じ事が起きているのは確かなようだ。という事は明日、朱里が死んでしまう可能性が高い。
つまり、明日の早朝までに朱里を助ける必要がある。助けるためには俺はどう動けばいいのだろうか。そんな事を考えながら授業を受けているが正直授業の内容は頭に入らなかった。
上手い方法が思い浮かばず気付いたら放課後になっていた。すると前の方から三波さんが歩いて来た。そういえばあの日の放課後俺に話しかけて来た気がする。
「ねえ、杉下君!!」
そんな事を考えていたら三波さんが俺に話しかけてきた。
「何で今朝、私に話しかけてきたの?杉下君から話しかけてくれたことなんて無かったからびっくりしちゃったよ」
「あ、ああ、驚かせちゃってごめん」
「いやいや、謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ急だったから」
そういう三波さんは照れているのか顔を赤くしながら話している。
「まあ、せっかく同じクラスなんだし仲良くってほどじゃなくても話すくらいはね」
俺は素直に思った事を話す。以前までは朱里以外と話をしなさすぎた。今まではそれで良かったかもしれないがそのままでは俺自身の為にはならない気がした。
「え、いやいや、私は杉下君と仲良くしたいって思ってるよ」
三波さんは慌てた様子で話している。
「本当?じゃあ今度何処か遊びに行く?」
「え?それって二人で?」
俺の提案に対して驚いた様子の三波さん。過去に戻っている今、あまりにも急な提案だったろうか。
「あ、いや二人じゃなくても全然……」
「い、いや、二人が嫌とかじゃなくて、わ、私と二人で遊んで佐藤さんに何か思われるんじゃないかって」
確かに二人で何処かに遊びに行こうものなら朱里が般若の様な顔で怒っている姿が目に浮かぶ。
「は、はは、まあ二人じゃなくても仲良くしていきたいよね」
「う、うん」
そうしてしばらく雑談をした後は三波さんはスマホのチャットアプリの連絡先を交換して別れた。
三波さんが帰った後、ふと思い出す、こうやって放課後に三波さんに話しかけられたのは一緒だが、話している内容が全く違う。確かあの時は俺と朱里が付き合っているんじゃないかと問われたはずだ。
話す内容が変わった理由ならすぐに思い浮かんだ。朝俺が三波さんに話しかけられたからだ。
「俺が前回と違う行動を取ったから未来が変わったのか」
ループもの映画などで主人公が毎回違う行動を試して問題解決をするというものが多い。もし自分にもそれと同じような事が起きているとしたら……。
俺は今の時間軸で朱里を助けることと、以前朱里を殺した犯人などを見つける事も可能になるのではないだろうか。
そうなると怪しいのは俺を誘拐して殺した可能性もある先生だ。だが今は朱里も殺されているわけではないから先生を捕まえるのは無理だ。そうなると真っ先にやる事はやはり明日朱里が殺される事をふせぐのが先決だ。
この後朱里と一緒に下校することになるはずだ。その時に釘を刺しておくべきだろう。いや、それだけでは足りない。俺が朱里を監視しておくべきだろう。
「遥斗、ずっとうんうん唸っているけどどうしたの?」
下校中、隣を歩いていた朱里が俺の顔を覗き見るように前に立った。
「い、いや、ちょっと考え事をね」
「ふ~ん、悩み事なら私に相談しなさいよ」
「あ、いや~、これは俺が考える問題だから」
まさか、お前が明日殺されるからどうすれば助かるかなど、本当の事を話せる訳もなく苦笑してごまかす。
「あっそ」
興味をなくしたのか前を向きなおして歩きだす。しかし、ここで朱里に忠告しないと駄目だ。
「あのさ、明日の登校なんだけどさ、絶対先に行くなよ」
俺がそう言うと朱里はまた立ち止まりこちらを向くと怪訝そうな顔をしている。
「私が遥斗を置いて行ったことなんてないでしょ」
「そ、そうだけど、誰かに呼び出されても絶対に行っちゃだめだ。絶対」
前回の記憶だが朱里は朝、非通知の電話を受けて誰よりも先に学校に行っている事が分かっている。朱里の携帯に履歴が残っていたためだ。
つまり朝、犯人に朝学校に呼び出されてそこで殺されている。つまり朝早くに一人で登校しなければ朱里が殺されない可能性が高い。
「なにそれ?誰に呼び出されるのよ」
当然、朱里はよくわからないといった顔をしている。
「え、えーと、そ、そう、そういう不審者がいるってニュースでやってたんだよ」
咄嗟に適当な事を話してしまったが、意外とそれらしい話になった気がする。
「へ~、そうなの?じゃあ遥斗も気を付けてね。私よりあんたの方がぼっーとしているんだから」
よし、信じてもらえたようだ。後は俺が朱里が学校へ行かないよう見守るだけだ。




