20.巡る
「ねえ、そういえば立花さんってどうやって俺を助けてくれたの?」
焦っていた時には考えられなかったが、先生が離れた今気になってしまう。どうやっての中には何故、先生が俺を誘拐していることを知っている。何故この場所が分かったのかなど様々な何故がある。
「……、まだ先生が近くにいると思うし歩きながら……、取り合えずここから離れる事を考えましょう」
そういうと立花さんはスマホを片手に森の中を歩き始めた。俺はそれに遅れないよう慌てて後を付いていく。
立花さんがスマホのライトを照らしながらとはいえ山の中を歩くのは危険だ。何とか足元を照らしながら進んでいく。
「極力奥まで進みましょう。車道側からも灯りが見える可能性がある」
「う、うん」
足元に注意しながらも極力急ぎながら歩く。辺りは暗く何も見えない状況で動物の鳴き声と自分たちの足音しか聞こえない状況で恐怖を覚える。
「あっ、これ」
ふと前を歩いていた立花さんが立ち止まり、指を指している。指している方を見ると看板があり、どうやら道案内が書いてあるようだ。
という事はここは無事登山道まで歩いてこれたようだ。正直真っ暗な山の中など遭難してしまう可能性も高いと思っていたがどうにかなる希望が見えてきた。
「まだ油断は出来ないけど希望が見えたわね、それに下の方に灯りが見える」
俺が考えている事を読んだかのように立花さんは話す。確かに奥の方で薄くではあるが光が見える。
「まあ、でも先生があそこで待ち構えている可能性もあるから注意しないとね」
そういうと立花さんは再び携帯で足元を照らすながら再び歩き始めた。
「……ねえ、でさっき話した質問なんだけど」
僕はさきほど止められた質問を再び投げかけた。
「……どうやって杉下君を助けたかってことよね」
何て返そうか考えているのだろうか。前を歩いている立花さんの顔を見ることが出来ないが苦い顔をしているのが予想できる。
「何でって言われてもなんと言えばいいのかしら、……先生が今までの事件の犯人であると疑っていたから」
「そうなの?」
「細かいところは無事逃げられた後で話すけど、疑っていた私は不振な行動をしている先生を見かけてタクシーで尾行したのよ。そうしたら廃病院に入っているのを見かけて」
「な、なるほど……」
立花さんの話は正直、信憑性が薄いような気がする。しかし全部が全部嘘ではない気がする。現にこうして俺を助けてくれている。
「で今にいたると、あなたを誘拐なんて思い切った事をするくらいだ、今までの事件も先生が犯人の可能性が高いわね」
「まあ、そうだろうね」
身近にそんな殺人やら誘拐などする人間がそう何人もいても困る。
「……そんなことよりこの後どうするかよ」
「ま、まあそうだね」
確かに麓に先生が潜んでいる危険もあるし、登山道を歩いているとはいえ危険はたくさんある。ひとまず無事に逃げ切る事だけを考えた方がいい。
「そんな事を話してたらもう麓近いわよ、警戒して」
前の方を見ると灯りが近くなってきた。後は真っ直ぐ歩くだけで麓までは行けそうだ。見つからないようにか立花さんもスマホのライトを消したみたいだ。
「じゃあ、ここからは気付かれないように話さない……うっ」
立花さんがうめき声をあげたと思った瞬間、目の前を歩いていたはずの立花さんがすっと消えてしまった。
「え!?た、立花さん?」
俺は慌てて周囲を見渡すが辺りが真っ暗で何も見えない。まさか先生に見つかって立花さんが襲われてしまったのだろうか。
「立花さーん、何処にいるんだ!?」
何振りかまわず彼女の名前を叫ぶ。しかしいくら呼び掛けても返事が返ってこない。
「く、くそっ」
どうする、俺はどうすればいいんだ。俺は考えて立ち尽くしてしまう。ふとした瞬間、後頭部に激痛が走った。
「つっ」
何が起きたと考えた瞬間、立っていられず地面に倒れてしまう。鈍器のようなもので殴られたのだろうか。俺は倒れながら頭を動かし周囲を確認する。すると目の前にスニーカーが見えた。こいつが俺を殴ったのか、更に頭を動かし犯人の顔を見ようとする。
その瞬間、自分の意識は途絶えてしまった。
「はっ」
俺は次の瞬間、目が覚めた。慌てて周囲を見渡すと自分の部屋だった。
「ど、どういうことだ」
俺は枕元に置いてある携帯を見る。するといつも海の背景にした壁紙と九月一日と書いてあった。
「は?九月一日?」
おかしい、俺が誘拐された日は九月十三日だったはずだ。携帯が壊れてしまったのだろうか。慌ててテレビをつけてニュースを確認する。するとテレビも九月一日の九時十分と表示されている。
「どうなってるんだ?」
俺はぼおっと立ち尽くしているとインターホンの音が部屋に響いた。
「こんな時間に誰だ?」
俺は玄関まで歩く。何が起きているのかさっぱり分からないがおかしなことが起きているのは確かだ。頭が混乱して何も考えずにドアを開けてしまう。
「遥斗~、なにやってんの、学校遅れちゃうでしょ!!」
ドアを開けた瞬間、目の前にいたのは殺されたはずの俺の幼馴染、佐藤朱里だった。




