第9話 ジョーダン一家
第8戦闘部隊と第7戦闘部隊の待機室は、城には存在しない。城の隣にある剣と銃のそれぞれの工房が、彼らの待機室となっている。そのため、コンデルとエンデルは一緒にいることが多い。
「ここが、工房か」
アスカは、工房の前に立っていた。
工房の屋根には、煙突が付いており、煙が出ている。剣の工房には剣のエンブレムの描かれた旗が、銃の工房には銃のエンブレムが描かれた旗が掲げられている。
「第8戦闘部隊隊長は、エンデルさん。ということは、銃の方からいけばいいのかな」
アスカは、銃の工房をノックした。
「はい」
中から、男性の声が聞こえた。人がいることの安心感とエンデルではないことの不安を伴いつつ、アスカは扉を開ける。
「失礼します。第4戦闘部隊所属のアスカ・シノノメと言います」
扉を開けた瞬間、アスカを熱気が襲う。部屋の中のあまりの熱さにアスカが顔をしかめると、男性の笑い声が聞こえてきた。
「あはははは。こんなに熱いのは、初めてか。エンデルから聞いてるよ。君がアスカだね」
アスカの目の前に、大きな男性が現れる。2メートルはありそうな身長に、がたいの良い身体。コンデルとエンデルに似た赤い長い髪に、瞳には赤が彩られている。
「は、はい。あの、あなたは」
「俺は、第8戦闘部隊副隊長、エコナ・ジョーダン。ついでに言うと、コンデルとエンデルの父親だ。よろしくな」
エコナ・ジョーダン。51歳。コンデルとエンデルの父親であり、元第8戦闘部隊隊長だ。その能力はまだ衰えていないものの、エンデルが20歳になると同時に、隊長の任を譲り副隊長の任に就いている。
「アスカ・シノノメです。よろしくお願いします。あの、エンデルさんは」
「エンデルなら、コンデルのとこじゃないかな。それより、アスカの武器は、刀か」
エコナの目線が、刀に向く。その目は悲しそうでもあり、輝いているようでもあった。
「そ、そうですけど」
エンデルのそれによく似た目に、アスカは嫌な予感がした。
「銃にしないか? これ、今開発中のでな。銃身が軽くて」
「あ、あの」
アスカは、エコナの話を止める。
「僕は、刀しか使えませんから。これで、失礼します!」
アスカは銃の工房から出て行った。
工房の中では、悔しそうな顔をしているエコナだけが残った。
銃の工房を出たアスカは、隣の工房に目を向ける。
「危なかった。さすが、エンデルさんのお父さん」
おそらくアスカが止めなかったら、あのまま長い話を聞かされていただろう。
「コンデルさんの所っていうと、剣の工房の方にいるのかな」
アスカは、銃の工房同様、ノックをする。
「どうぞ」
中から、女性の声が聞こえた。
「失礼します。第4戦闘部隊所属のアスカ・シノノメと言います」
扉を開けた瞬間、アスカを冷気が襲う。銃の工房との温度差にアスカが戸惑っていると、女性の笑い声が聞こえた。
「あははは。銃の工房は熱かった?」
アスカの目の前に、小さい女性が現れる。ニーナくらいしかない小さな身体。赤い髪に、赤い瞳がジョーダン家の一員であることを物語っている。
エンデルではないその女性に、アスカは少し落胆した。
「大方、エコナから剣の工房にいるからとでも言われて来たんでしょ? 残念ね。2人ともここにはいないわよ」
アスカは何も言っていないのに、女性はアスカの行動を全て当てた。
「あの、あなたは」
「私は、第7戦闘部隊副隊長、ディアル・ジョーダン。エンデルとコンデルの母親よ。よろしくね」
ディアル・ジョーダン。48歳。コンデルとエンデルの母親であり、元第7戦闘部隊隊長だ。エコナと同じく、コンデルが20歳になると同時に、隊長の任を譲り副隊長の任を就いている。
「あの、なら、2人はどこに?」
「そうね。おそらく園庭よ。王室行った後、必ずあそこに寄るから」
「園庭ですか? 王室行った後に」
「新しい武器を造ったら、まずイニス様に見せなきゃいけないの。あの2人はさっきそれを見せに行ったわ。時間的には終わってる時間だから、園庭にいるでしょ」
第7戦闘部隊も第8戦闘部隊も、新しい武器を造った場合、まず王様に見せるという規則がある。それは、兵士から個人的に頼まれた武器の製造の場合も同様である。兵士の使う武器は、王様の許可が必要なのだ。
「ところであなた、武器刀なのね」
ディアルは話しを変えると同時に、瞳を輝かせる。
「そうですけど。僕は、この刀しか使えませんから」
何の話しになるか分かっていたアスカは、先手を打った。
「あら、残念ね。なんで、その刀にこだわるの?」
「この刀は、死んだ父が使っていたものなんです。形見は、これしかなくて」
「そうなの。ちょっと、その刀見してくれる?」
「あ、はい」
アスカは、刀をディアルに渡す。
ディアルは刀を興味深そうに見る。その目は、職人の目だった。
「あら?」
ディアルは、柄に耳を当てて刀を振る。
「どうかしたんですか?」
「ここ、何か入ってるわよ」
「え?」
アスカはディアルと同じ姿勢で柄に耳を当てる。しかし、アスカは首を傾げる。
「何も聞こえませんけど」
「ううん。ここ何か入ってる。開けて確かめたいけど、道具はコンデルが持って行っちゃってるのよね。コンデルに開けてもらいなさい」
「分かりました」
アスカは、納得のいかない顔をしながらも、頷く。
「では、失礼します」
アスカは、頭を下げて工房の外に出た。