第40話 準備
ジパニックに行くのは、イニス、コア、そして第3戦闘部隊と第5戦闘部隊の数名である。少数精鋭で行くアリステル側にとって、イニスの護衛の要となるのは、王直属部隊であるコアであった。
「いいか。ジパニックとは、友好な関係を築いており、襲撃を受けることはほとんどない。しかし、だからといって、油断していいことにはならないんだ」
『第4戦闘部隊待機室』では、珍しく全員が揃い、ルドルフの言葉に耳を傾けていた。
ジパニックとの首脳会談が行われるのは、5年に1度。今年コアに入ったアスカだけでなく、ゼクスやニーナも首脳会談に付いて行くことは初めてだった。
「今年は、アスカのこともある。何が起こるか分からないから、心してかかるようにな」
アスカがジパニックに行くことは、すでにタイヨウに伝わっている。タイヨウの子であるアスカがジパニックに行くことで、何が起こるか全く想像ができないのだ。
「あの、1つ聞きたいんスけど」
「なんだ? ゼクス」
ルドルフが、ゼクスに顔を向ける。
「ジパニックにも、軍隊はあるんですよね?」
「ああ」
ジパニックの内情は、各国にあまり知られていない。そのため、養成学校でジパニックのことを習うものの、詳しくは教えられていなかった。
「ジパニックは、元首をトップに据え、その下に軍隊長を含んだ四聖将。さらにその下に軍隊が控えている」
「四聖将?」
「軍隊の中でも、強い4人のことをそう呼び、戦闘服も普通の隊員とは区別されているようです。私たちも実際に会ったことはありませんが」
ルドルフは今までに2回、レオは1回首脳会談に行っている。しかし、そのいずれも、四聖将と呼ばれる隊員は姿を現さなかった。タイヨウの周りで警護を行っていたのは、四聖将の下に控える隊員だったのだ。
「あの、お2人は、ジパニックでラークを見たことはなかったんですか?」
アスカが、控えめに口にする。
前回の首脳会談は、5年前。ラークが11歳の時だ。ジパニックの軍隊に入っていないかもしれないにしても、タイヨウの子供である以上、どこかしらで目に付く機会はある。
しかし、2人は首を横に振る。
「見たことないな。軍隊にも、タイヨウ様を取り巻いている人の中にも、ラークはいなかった」
「そうですか」
ジパニックに滞在するのは、約10日間。その間、ルドルフもレオも、ラークを見たことはなかった。
「他に、質問はないな? 俺たちコアは、イニス様を守るために存在する。それを、忘れるな。いいな?」
ルドルフが、全員を見渡す。異論を発する者はいなかった。
第5戦闘部隊は、首脳会談において、城の警護とイニスの警護、両方をこなさなければいけない。城の方にも首脳会談の方にも他の部隊はいるとはいえ、戦力を平等に分散しなければいけないのだ。そして、それを考えるのは、隊長であるセッカの役目だった。
「んー。どうすっかな」
セッカは、紙の前で頭を抱える。紙には、セッカの名前を始め、第5戦闘部隊に所属する隊員の名前が書かれてあった。
第5戦闘部隊に所属している隊員は、8名。その中から首脳会談に行くのは、3名と決められていた。
「隊長。どうするつもりで?」
悩むセッカの前では、リアンが涼しい顔でセッカを眺めていた。
「お前も、一緒に悩んでくれねえ?」
「それは、隊長の仕事ですから」
リアンは、セッカの仕事には手を出さないつもりだった。
「とりあえず、俺は行くだろ? 後は、やっぱり行ったことのないやつかな」
セッカは、自分の名前に丸をつける。さらに、あと2人の名前に丸をつけた。
「よし、これでいいだろ。ほら、イニス様に持っていってくれ」
セッカは、紙をリアンに渡す。リアンは、紙に書いてある丸で囲われた名前を見て、唾を飲んだ。
「本気で、言ってます?」
「ああ。反論は、聞かないからな」
「はあ。分かりました」
紙には、セッカの名前に加え、ルカ・アックスとメディアン・ツナットの名前に丸がついていた。
第3戦闘部隊は、守りに特化した部隊である。ジパニックにおいて、イニスを守る際に優先されるのは、敵を倒す強さよりも、必ずイニスを守り抜くこと。第3戦闘部隊の力は、不可欠であった。
「セル。今回は、お前が行くか」
「え、オレですか?」
シュタインは、『第3戦闘部隊待機室』で、一緒に訓練をしていたセルに言った。セルは、嬉しそうな顔をしながらも、戸惑った表情を浮かべる。
イニスに付いてジパニックに行くことは、戦闘部隊の人間にとって、光栄なことである。しかし、副隊長という立場にいるセルにとっては、重荷にもなる。
「隊長は、行かないんですよね?」
セルの言葉は、問いかけではなく、確認だった。
「当たり前だろ。隊長と副隊長が揃って抜けるわけにはいかない。なんだ? 不安なのか?」
「そりゃ、まあ」
セルは、しぶしぶ頷く。
今まで第3戦闘部隊を率いてジパニックに行っていたのは、シュタインだった。セルは、一兵士の時に1度ジパニックに行ったことはあるが、副隊長として率いる側になるのは初めてだった。隊長がいないなら、指揮を執るのはセルになる。
「大丈夫だ。お前は、ちゃんとやれるさ」
シュタインは、迷うことなく言い切る。セルには、それが頼もしかった。
「はい!」
セルは、力いっぱい返事をした。




