序1
ふわりと何かに持ち上げられるような、緩急を感じ目を開く。
視線は空に向いていた。
そして直ぐに、体に感じる違和感。上下する感覚。
ジェットコースターのような急な感覚で無く、エレベーターに乗ってるような僅な違和感。
自分が落ちていると解ったのは空がどんどん遠くなっていくから。
ゆっくりと空から落ちていった。
視線を空から大地に向ける。
歯車のようなものが回転し、月と太陽が連動する。水は大地の端から流れ落ち、雲に変わり空に昇っていく。
そして雲に紛れて、ゼンマイ仕掛け灰色鯨が力強く空を泳ぐ。
鯨の硝子の瞳と目が合う。
瞳の奥には、全く知らない誰かが映っていた。
鯨はゆっくりと尾を翻し、此方に背を向けて、およぎだす。
レトロな仕掛けで作られた小さな世界。ゼンマイの箱庭
綺麗な世界ね、でも、もう貴方の世界はここでは無いの。
その言葉が聞こえた途端世界が唐突に色を失い始める。
世界は枯れるように、消え落ちていく。
ぽろぽろと歯車やゼンマイ、スプリングが零れ落ち、世界が割れていく。
落ちたゼンマイは砂となり、砂山を作っていく。
世界が砂山と消える瞬間。
ゼンマイ仕掛けの鯨の声が聞こえた。
そして、
世界から零れたわたしは誰でも無くなった。
いつもの夢から覚めたら、最近よく行くガラクタ山の頂上にいた。
硬い固い、鉄板テレビの上で寝てたせいか、背中が痛い。
思いっきり伸びをしようとしたら、ガラクタ山のバランスが崩れて、麓まで転がり落ちる。
モウモウと埃が舞うなか、若干憮然とした顔で起き上がる。『少佐』からヘルメットを借りていたため頭を打ったり怪我なども無かった。
肩まですっぽりとはまった穴の空いたバケツを放りっ投げて、小さくため息をつく。
体を見てみると、靴はいつの間にか片方しかないし、服は転がり落ちたときに引っ掻けたのか解れている。
お洒落度が下がったことに若干眉を寄せつつ、靴の片方を探しにガラクタ山を探してみる。
適当にガサゴソ探してみたら古い赤い靴を見つけた。
無くした靴の変わりにこの靴を履こうとして、ちょっと止まる。
ガラクタに紛れてた玩具の剣軽く靴をつついてみる。
赤い靴が小さく震え、僅かに身動ぎをする。
「やっぱり生きていたのね。貴方は素敵な魔法の靴?それとも履くと呪われてるのかしら?」
靴にそう問いかけると、靴は爪先をトントンとリズミカルに叩く。
「そう、ごめんなさいね。所でお願いがあるのだけど私の新しい靴になってくれないかしら?もしなってくれたら、貴方をピカピカに磨いてあげるわ」
赤い靴は今度は踵を三回鳴らす。
「ありがとう。交渉成立ね」
さっきまで掃いていた靴にありがとうと言った後、赤い靴に履き替える。
少し大きいかと思ったけど、履き終わったら靴が丁度良い大きさに変わってくれた。
改めてガラクタ山を見渡す。
さっき思いっきり崩れたから普段見えない、部分が見えるようになっていた。
なんでガラクタ山に来たのはただの直観。
ここには良いものがあるという確信。『少佐』にこのことを言うと、この直観は必ずお前を救うと言われた。
それが、どんなものかわからない。何を持もって良いのと思っているのか自分もしっかり理解していない。
丸いもの?四角いもの?三角?尖ったもの?丸いもの?きれいなもの?壊れたもの?アンティーク?それともただのガラクタなのか?
何も無いとは思っていない、探すことを徒労とは思わない。ただ心の中にあるのは、自分だけしか見つけることができない、宝物がここにあるというわくわく感と私しか見つけることができないという、独占欲に近い優越感。
そしてしばらくガサゴソとガラクタ山を探す。尖ったもので手や服を傷つけないように気を付けながら、大小のラジオや、ネジをかき分け、山の中を潜っていく。
そして
見つけた
ガラクタをかき分けた先に一本の錆びた剣を見つけた。刃は錆びてボロボロで、今にも折れそう。だけどまだかろうじて錆びていない部分は鏡のように澄んでいた。
刃が切れないことを確認しつつも念のため何重も布を巻きつけ、それごと握り、思いっきり引っ張る。
剣はびくともしない。まるで深く根を張った草のように、しなり、抜けないように頑張る。
一度力を抜いて。軽く肩を回す。両手で剣の刃を握り、綱を引くように腰を落とし一気に引き抜くように力を込める。
「ちぇいさー!!!!」
一瞬の強い抵抗感。その後に感じる、勢いよく感じる浮遊感。
そのまま、またどんがらがっしゃーんとすごい音を立てながらガラクタ山を転げ落ちた。
ムクリと起き上がりまた憮然と顔で起き上がり、ほこりまみれになった髪の毛を、手櫛で直しながら、落ちながらもしっかりと握っていた剣を見つめる。
見事に握ってた先から折れていた。ちょっとショックを受ける。
折れた先を探す。引き抜けた感覚はあった。
転げ落ちたガラクタ山をもう一度眺めながら、見つける。
錆びた騎士甲冑がガラクタ山の上に転がっていた。
騎士の右手には折れた剣。私がさっきまで握って引っ張っていた剣。最後まで剣は手放さなかったらしい。
甲冑の中は中身は空っぽ。だけど、兜や手甲、足甲など鎧として部品ごとにばらばらになることは無く、甲冑としての全体の姿のままそこにある。
これが私の探していた良いものだと、ストンと心の中に落ちた。
だけど、
「どうやって持って帰ろう」
まずそれが問題だ。




