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そして俺は宰相になる  作者: ふーげん
第一章 決起編
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第五話 真面目なヒロインはお嫌いですか?

2026/04/08

【更新内容】

・タイトル変更

・本文修正

・後書き削除

 エーゴンは商人の出だ。

 自由で開かれた経済圏が国を豊かにすると主張し、各地の領主の下で財政官として経済を発展させた功績が認められて領主に取り立てられている。


 自領でもその商才を存分に活かし、連合内ではフォントル・アランドゥに次ぐ税収を得ている。


 プレゼントを物色しながらルークは物憂げな顔をしていた。


 (昨日の手紙は、そろそろアリアに会っておけって事なんだろう。

 もう1年も婚約者と手紙の一通もやりとりしてないのだから父親として気になるのは当然か......。


 軍事力の父と経済力のエーゴンさん、その二人が親戚になれば双方にメリットは大きい。

 大人の事情ってのは理解出来るんだけど、俺はアリアが苦手なんだよなぁ)


「はぁ......気が重い......」


 思わず本音を口に漏らす。


 その様子を見ていたレオは不思議そうに問いかける。


「よほどプレゼント選びに苦悩しているようだが、アリア嬢というのはそんなに好き嫌いが激しいのか?」


 ルークはそういうのじゃないと言い、これまで考えていた事を話した。


 レオも当時8歳とはいえ元は王子、親の都合で決まった嫁の機嫌を取る事の大変さは理解していた。


 ルークは悩んだ末に純白のリボンを選び、オスワルド邸に向かう為に馬車に乗り込んだ。


 (アリアは礼儀を大事にするから、これを渡せば必ず身につけてくれるはずだ。念のため、"これ"を付与するか)


 ルークがプレゼントに魔法を付与する様子をレオは興味深く見ている。


「贈り物に魔法を付与するとは......まさか媚薬に類するものでもかけたか?」


 薄ら笑いながら邪推するレオは性格が悪い。

 ルークは誤解のないように説明する。


「あのなぁ......許嫁だからって手を出して良い訳じゃないぞ?

 そんな不貞を働いたら俺はアリアからも父上からもエーゴンさんからも袋叩きに遭う。そんな危ない橋は渡れないよ。


 言ってしまえばこれはアリアさんにとってのお守りだ。

 あの人は真面目な人だからを人から貰った物は身に付けてくれるはず…...いつかこれが役に立つ時が来る」


 そんな話をしている内にオスワルド邸に着いた二人は馬車を降りた。

 庭だけで自邸の倍はあるだろうか。


 屋敷のドアを叩き、使用人に到着した事を伝える。少し待っていると扉が開き、恰幅の良い男性と美しい少女、その奥に7人のメイドが控えて出迎えてくれた。


「ようこそルーク君! また一段と精悍な顔つきの男前になったものだ!

 半年前の初陣では大活躍だったとお父君から聞いている!


 これほど頭脳明晰な男が娘と結婚して子をもうけてくれればオスワルドとローズロックは繁栄する事間違いなしだ! なぁアリアよ!」


 恰幅の良い男性もといエーゴンは久しぶりの再開に大喜びし、隣にいる少女アリアに話しかける。


 透き通った肌に美しく伸びたピンク髪のポニーテールの少女は、トパーズのように美しい瞳でこちらを一瞥(いちべつ)し、キッとした表情で父親を見つめて反論する。


「お父様、私はまだルークフェルト様と婚姻する事を認めたわけではありません。

 オルディア王朝が滅び、新たな世が訪れたというのに親同士が決めた結婚など古臭いにも程があります。


 それに、ルークフェルト様はまだ私と勝負事で一度も勝った事がございませぬ。

 女一人に勝てぬ軟弱な殿方の子を産むなど嫌でございます!」


 ルークが彼女を苦手とする理由は男勝りの武勇を持ち、誰に対しても物怖じしない態度にある。


 15歳という若さながら芯のある人で、真面目で礼儀を重んじ自信に満ちている。

 何事にも真っすぐ向き合う性分の彼女は、他者に取り入ってご機嫌を取ろうとする前世の習慣が抜けないルークに対して当たりが強い。


 娘の言動にタジタジになるエーゴンをよそ目に、ルークはアリアにプレゼントを渡す。


「久しぶりアリアさん、変わらず元気そうで何よりだよ。

 今日はアリアさんに似合うと思ってこのリボンを買ってきたんだ。喜んでくれると嬉しいんだけど......」


 アリアは丁寧にプレゼントを受け取り一礼する。

 せっかく頂いたものなのだからと、今日一日はこのリボンを付けて生活するのだという。


 立ち話も程々にしようとエーゴンが使用人に対し、客人をもてなすよう命令する。


 ルーク、レオ、アリア、エーゴンの4人は応接室に赴き談笑を始めた。


「ところで、そちらの青年が最近アーネントが養子に迎えたという子かね?」


 レオもジョン・ブラウンとして挨拶し、王子である事は隠しつつ王都で育った事や王国滅亡の時の様子を手振りを交えて話す。


 エーゴンやアリアも、時に笑い時に同情して穏やかに会話が進んだ。


 一通りの談笑が済んだ後、メイドが持ってきた地図をテーブルの上に広げ、エーゴンが真剣な面持ちで話しだす。


「さて、二人を呼んだ理由は既に手紙にも伝えた通りだ。

 この地を根城とするゴブリンロードの討伐を二人に任せたい。

 いくつか拠点と思われる地点を記載した地図を用意したので作戦会議といこうではないか」


 あの日届いた手紙はもう一通あった。

 アーネントに宛てた救援要請である。


 元々はアーネントが出向く予定だったが、直前になってフォントルの来訪が決まり、その対応に追われる事になったため、急遽ルーク達が援軍として出向いたのである。


「お話は伺っております。今すぐにでも討伐に向かい、領民を安心させたいところではありますが......相手はゴブリンロードです。

 そう簡単に倒せる相手ではありません。兵や物資の損害も考慮し慎重に立ち回るべきです」


 ルークはゴブリンロードが並のゴブリンよりも知恵が回る事を警戒し慎重論を唱える。


「いや、損失を考慮するならばむしろ行動は早い方が良い。

この際、多少の損害には目を瞑って強引にでも首領の居場所を炙り出し一気呵成に叩くべきだ」


 レオは兵や物資の事を考慮するなら早急に倒すべきだと強硬な姿勢を見せていた。


 その後、様々な意見が出たが平行線を辿り、3時間に及ぶ会議の末、アリアが口を開く。


「皆様が何を悩んでいるのか分かりません。

 ゴブリンは人間の女を好むと言いますから私がゴブリンの巣窟に向かい、ゴブリンロードと対峙します。

 私を前に鼻の下を伸ばして油断している所を一太刀で斬り伏せて終いではないですか」


 アリアの大胆な作戦にルークは驚く。

 最も効率的だが、同時に最も危険な考えだった。


「駄目だアリアさん、自分の身を危険に晒して得る勝利は失敗した時のリスクが大きすぎる。

 それに君は実戦を経験していないだろ?訓練と実戦では何もかもが違う、そんな作戦は到底認められない」


 エーゴンはルークに同調して反対し、レオは良いじゃないかと笑う。アリアだって引き下がらない。


「あら? 初陣で己の身を危険に晒す作戦を計画して勝利を収めたのはどなたでしょうか?

 それとも、貴方に出来て私には出来ないとでも?許嫁の実力を疑うなんて婚約者としてまだまだですね」


 ルークは閉口した、まさかここで自分の行いを指摘されるとは思っていなかったからだ。


 アリアはまとまらない会議に嫌気がさし、いつまでも慎重論を唱えるルークに臆病者と吐き捨て屋敷を出て行った。


「やっぱりあの方は私の夫になるべき方ではありません。男ならもっと勇気を出して行動すべきですのに」


 気を紛らわす為に散歩に出かけようとするアリアの背後からメイドが声をかける。


「しかしお嬢様、ルークフェルト様は許嫁であるお嬢様を心配しておいでなのですよ?」


 落ち着いた口調で語りかけてきたのはメイド長のセリ、アリアはセリに思いを露わにする。


「そんな事は分かっているのです! それでも私はあの方の慎重さが嫌いです!

 いつも保険をかけたように用意周到で、誰にでも愛想を振りまいて......まるで父上のような人当たりの良さが薄気味悪い......。


 本当はこんな感情を抱きたくありません......。

 でも、私はもっとあの方の本心が知りたい......結ばれるなら、あの方を深く知って好きになりたいのです......」


 そう言い終わるとアリアはそそくさと屋敷を後にしていった。


 思わぬ本音を漏らした自分が恥ずかしくなり、ひたすら歩き続けたアリアは、気付けば森の奥まで来ていた。


 周囲は暗く鬱蒼としている。日も落ち始めているので、そろそろゴブリンが活動始める頃だ。


 急いで帰らなくては! そう思った瞬間、周囲に気配を感じ囲まれていると悟る。


 腰に手を当て剣を抜こうとしたが、急いで飛び出したので帯刀する事をすっかり忘れていた。


 絶体絶命の中ゴブリンが姿を現す。

 一斉に襲い掛かってきたゴブリンに手出しが出来ず、アリアはそのまま気絶して何処かへ連れて行かれてしまう。


 アリアが飛び出して4時間が経過する。

 あまりにも遅すぎるとメイド長のセリが捜索に向かったがまだ帰ってきていない。


 心配するエーゴン、行動可能範囲を洗い出すルーク、有事に備え武具の手入れをするレオ、三者は続報を待つ。


 そこに肩で息を切らしながら勢いよくドアを開けたセリが大声で急報を告げる。


「皆様、急ぎ捜索のご準備を!

 付近の森でアリア様のスカートの布が破れておりました!

 抵抗の末、何者かにより誘拐された可能性がございます!」


 一同に緊張が走る。

 しかし、ルークだけは落ち着いた様子を見せていた。

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