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そして俺は宰相になる  作者: ふーげん
第二章 反乱軍編
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第二十三話 神に愛された男

「総員、敵が掛からば退き、退かば掛かれ。功名に逸るべからず、一糸の乱れとて許されぬと心得よ」


「皆さんまともに戦ってはいけません! 相手は民です、双方の被害を最小限にお願いします!」


 レオとルークは東西に分かれ、山岳近くの敵の砦付近で挑発行動を行う。

 戦闘経験の少ない領民達はこの挑発に引っ掛かりやすく、作戦は順調に進んでいた。


「報告、お味方の兵5千に到達! 滞りなく各地に展開中です!」


(よし!)


 ルークは内心でガッツポーズをして喜ぶ。この調子で兵が集まれば、数の差で前線を押し上げて包囲すれば良い。そうなれば和平交渉の道が見えてくるからだ。


(問題はバンジェロがどう動くかだな......)



 ――ガナン第一大砦


「バンジェロ様、敵の総大将レオ・オルディアとルークフェルト・ローズロックが前線の兵と小競り合いをしている模様......今こそ好機です、奴らのいる場所を狩り場となさるべきかと......バンジェロ様?」


 バンジェロは沈黙していた。ただ黙って何かを待っているかのようだった。


(国王様を狩り場に放り込むべきか否か......どうにも分かんねぇ、程々に戦えば皆満足すんじゃねぇのか......これじゃあまるで......)


「なぁ、おめさんは国王様と本当に戦いてぇのか。連合っちゅう不安定な同盟が崩れて、やっと一枚岩になれそうじゃねぇか」


「ははっ、何を今さら申すかと思えば。無論、我々は国王相手だろうと戦い抜きますとも!

 我々にはあなた様がいますのでね! バンジェロ様がいれば国王だろうと怖くありません!」


「......そうかぁ......そったら取るしかあんめぇな。支度せい」


 作戦開始から3時間、バンジェロ・カナイガスが4千の兵を率いて出陣する。

 その様子はエストリヤからすぐにルークの下に伝えられた。


「フィアンセ君! バンジェロの奴が出陣したよ、数は約4千! 

 急いでる感じじゃなかったけど、接敵する前に本隊と合流した方がいいかも!」


「いや駄目だ! 本隊の展開が終わるまで俺達は攪乱し続ける! バンジェロの意識を分散させないとこの作戦は失敗する!」


 エストリヤは不安げな顔で見つめる。その視線の先にはアリアがいた。

 ルークの副官として今回の作戦に従事していた彼女は、エストリヤにとって主従ではなく友人だった。


「私なら大丈夫です! エストリヤは安全な所まで避難しててください! いざとなったらルーク様を抱えて逃げます!」


「,,,,,,~っ! 分かったよ! アタイはバンジェロの後をつける! だからこれ持ってて!」


 エストリヤが投げたアイテムを受け取る。

 小型で平べったい水晶のように見えるが、布のように軽い。不思議なアイテムにルークは疑問を浮かべる。


「それ、遠隔で話が出来る魔法石! 何かあったらその石で教えるから! 絶対無くさないでね! アタイの稼ぎ1年分なんだから! 無くしたら恨むからね!」


 そう言い残すと、エストリヤは一瞬で姿を消す。

 ルークは伝令にバンジェロの情報をレオに伝えるよう指示し、再びヒットアンドアウェイを繰り返した。


(おっ、いたいた)


 暗い森の中、バンジェロ軍はゆっくりと行軍を続けていた。

 兵士の一人一人が戦意に満ち溢れ、その相貌は農民とは思えないほど荒々しいものであり、先頭を進むバンジェロの瞳は澄んだ青色をしていた。


(あれ? あのおっさん、あんな目の色してたっけ? アタイが見た時はただの茶色だったと思うんだけど......?)


 エストリヤは映写魔法を発動し撮影する。だが、ファイルは酷くぼやけておりバンジェロの顔は確認できない。何度か撮影を繰り返すが結果は同じだった。


(あっれ~おかしいな、こんな事今まで無かったんだけど?)


 念のためもう一回撮影しようと顔をあげると、いつの間にか周囲には深い霧が立ち込めバンジェロ軍の姿が見えなくなっていた。


「やべ、見失った~......てか、いつの間に霧? 霧ってこんなすぐに出来るもんだっけ?」


(そこで何をしておる小娘)


 霧の中から謎の声が聞こえる。エストリヤは周囲を警戒するが姿が見えない、ただ声だけが聞こえていた。


(今の魔法は随分と矮小になったものだな。我が浮世を闊歩(かっぽ)していた時などそんな魔法は無かったものだが)


「いやなに!? どっから喋ってんの怖いよ!? 姿の見えない年寄りの説教とかマジ嫌なんですけど!?」


(ずいぶん舐めた口を叩くものだな。鼠の分際で度胸だけは一人前とみえる。

 さて、そろそろ質問に答えてもらおうか? そこで何をしておるのだ?)


「別に......あんたに教える義理なんて無いでしょ。

 強いて言うなら、アタイはバンジェロ様のファンだからこっそり後をつけて撮影してただけ......」


(ただの支持者がバンジェロに気付かれず後をつけられると? まぁいい、話さないのなら体に直接聞くだけのことよ)


 突如、エストリヤの目の前に巨大なフェンリルが現れる。

 逃げようと後ずさりするエストリヤだが、足元の木の根に引っ掛かり転んでしまう。

 フェンリルはその隙を見逃さず、エストリヤの体内に入り込む。


 エストリヤの鼓動が急激に早まる。全身から汗が吹き出し悪寒が止まらなかった。


(なに、これ.....体が熱い......寒い......!? 頭が......割れる......あの狼、一体......)


 あまりの激痛に立ち上がる事も出来ず悶え苦しみ続ける。

 激しくえづき、意識が失いかけては戻り、ひたすら苦痛から逃れられないでいた。


「うっ......おぇ! ......く......そ......畜生が......何したんだよ......!」


(ふむ、人間にしては中々面白い策を思いつくではないか。

 ルークフェルトとやら、16の小僧にしては随分とやりおる)


「っ!?」


 フェンリルの言葉が直接頭に流れ込む。自分の体の中で何をしているのか、それさえも冷静に分析できていない。ただただ戦場で意識を失わないように耐え続けるしかなかった。


(得るべき物は得た。耐性の無い者がここまで持ち堪えるなど滅多にないぞ小娘。

 耐え抜いた己を褒めるが良い。さらばだ)


 フェンリルは霧の中に消えていった。次第に霧も消えていき、体の違和感も無くなっていったが、多大な体力を消耗し、その場から動けずにいた。


(バンジェロ、鼠から面白い情報を手に入れたぞ)


 フェンリルはバンジェロの体に入り込み、エストリヤから盗んだ記憶を共有する。

 バンジェロの頭の中にはルークが考えた作戦の全てが流れ込んできた。


「おぉ......こげな策を考えとったんかあの(わっぱ)は」


(どうする? 国王の居場所も分かったことだ、早々に大将首でも取りに行くか?)


「......いんやぁ? ちぃ~っとばかし知恵比べしてみてぇだよ」



 ――ガナン第十八砦、ルークの部隊


「よし! 陽動はこれくらいで十分だ、陛下の所へ合流するぞ!」


 ガナン盆地に集結したオルディア軍は現在1万2千人、あらかたの展開が済んだと踏んだルークは、レオと合流し残り3千人の到着まで耐える為、陽動作戦の中止を指示した。


「陛下はガナン盆地東部で戦ってらっしゃいましたよね? 南部から回って行きますか?」


「いや、今は時間が惜しい。少し危険だけど森の中を進んで合流する」


 ガナン盆地は主に2つのエリアに区分される。

 北部と南部の田畑が並ぶ平野のエリアと、小高い丘になり鬱蒼とした森が広がる中央の森林エリアだ。


 王自らが囮となり少数で戦っているという状況は、ルークの心に焦燥感を植え付けていた。

 敵の総大将を討ち取る絶好の機会を逃すはずがない、普通ならそう考える。

 しかしそれは、相手が普通の人間だった場合である。

 ルークは自分でも知らないうちに普通の考えを敵に当てはめて動いていた。


「なんだ、いつの間に霧が?」


 《警告


 極めて危険な事態に陥ろうとしています、速やかにその場から離れてください。

 繰り返します。速やかにその場から離れてください》


 突然、ルークの個性が発動する。しかし、これまでと違い具体的な作戦は提案しない。

 まるで災害警報を鳴らすかのように不安だけを煽っていた。


 《警告


 極めて危険な事態に陥ろうとしています。速やかにその場から離れてください。


 危険度:最高


 生存率:0.00000001%


 脅威特定中......特定完了、個体名■■■■■■■


 至急その場から離れてください。繰り返します、その場から離れてください。

 危険、危険、生存率さらに低下、繰り返します、その場から離れてください》


 声が聞こえなくなると同時に霧が晴れる。

 見えてきたのは大勢のバンジェロ軍だった。ルーク達を取り囲み、襲い掛かる。


「子狐狩りじゃ......ルークフェルトの首を我が前に捧げよ」


 4千人の咆哮がこだまする。100人程度のルーク隊は大混乱に陥っていた。


「なんで......? なんで、バンジェロがここに......?」


「ルーク様! 今は狼狽えている場合ではありません! 早くご指示を! ルーク様!」


 アリアの声は届かなかった。突然の襲撃に完全にパニックになっていたルークに策を考える余裕などなかったのである。


(どうして......なんで、俺を狙って......普通に考えたらレオのはずだ......一体、どういう狙いで......?)


 バンジェロは普通ではない、それは誰よりもルークが理解していたはずだった。

 しかし、これまで順調に進んでいた作戦がルークの心に隙を作った。

 何かしらの方法でレオを狙いに来るだろう。自分はそれから守り抜けばいい。

 どこかで外していた自分が狙われるかもしれない選択肢。

 そこを見抜けなかったルークは、個性の声さえも理解する事が出来なかったのである。


(困っていますねルーク)


 どこかから声が聞こえてくる、しかしそれは個性の声とは違って温かみのある声だった。


(こちらへ来てください、あなたにお話があります)


 瞬間、ルークの意識は深く落ちていく。目が覚めると、辺り一面が白く無機質な空間へと変わっていた。


「ここは、一体?」


「やっとお会いできましたね。ルークフェルト・ローズロックさん......いえ、岡崎(おかざき)(とおる)さんと呼んだ方がいいのかしら?」


「俺の名前......どうして俺の名前を知ってるんだ? それにここは? 貴女は一体誰なんだ?」


 不思議な空間と謎の美女に疑問ばかりが浮かんでくる。ルークは自分の置かれた状況が一体なんなのか理解出来ていなかった。


「一つだけ質問に答えます。

 私が何者かという事に関しては、貴方の分かりやすい言い方で言えば、女神といったところですね。


 ここがどこで、私がなぜ貴方の名前を知っているかはどうでも良いこと。

 私が貴方をここへお呼びした理由は、貴方にここで死んでもらっては困るからです。


 今から貴方に、私が授けた個性の名前を教えます。個性は名を得て初めて真価を発揮するものです。

 転生者の貴方はこの世界のイレギュラー、扱いきれるか不安でしたが時は満ちました」


「時が満ちたって......? 俺はどうしたら良いんだ? いきなりこんな世界に転生させて、何が目的なんだ!?」


「貴方に望む事は一つですよルークフェルト。私を......決して忘れないでください。


 さぁ、言って......貴方の個性の名は――」


「個性発動! 天地を見通す瞳(タクティカルセンス)!」


 視界が鮮明になっていく、これまで見えていた景色が嘘のように澄み渡り進むべき道が見えてくる。


 《お帰りなさい主様(マスター)


 只今を以て、自動誘導形態(オートアシストモード)を終了します。


 これからは私の力をマニュアルでお使いください》


 ここはまだ死に場所じゃない。そう直感したルークは目の前を指差す。


「総員突撃用意! 活路は前方にある!」


「ルーク様!? 一体どうしたのですか! こんなに取り囲まれてはもう活路なんて......!」


「アリア......今は俺を信じてついてきてくれないか」


 その瞳はこれ以上ない程に澄んでいた。まるで、恐れるものが何もないかのように、曇天の中に差し込んだ光が雲海を割って晴れ渡るように、雑念の無い瞳を見たアリアは覚悟を決める。


「分かりました! 皆さん、突撃の準備を! ルーク様に続いてください!」


 ルーク隊は前方に突き進む。そこにはバンジェロの姿があった。


「子狐が乱心して噛みついてきおったか。来るがいい、熊の爪が(はらわた)を抉り取ってくれようぞ」


(所詮はおめぇも、その程度の男だったのかよぉ、ルークフェルト)


 バンジェロは大槍を構え直す。

 錯乱した獲物は自ら死地に飛び込んでくる。ここで確実に仕留め、オルディア軍を機能不全に陥らせればバンジェロの勝利は揺るぎないものだった。


「来いブレイブ! 遅れた分は挽回しろ!」


「これでも急いだのだがな! 往くぞ銀狼騎士団! 王の刃を獣共に味わわせてやれ!」


 ルークの突撃に呼応するかのように左側面からブレイブ率いる銀狼騎士団が出現する。

 突然の奇襲にバンジェロ軍は一瞬で崩されていく。


(なんだ!? どこから敵が! まさか......山を越えて......!?)


 標高2000メートルの険しい山脈を人馬が駆け抜けてくるなど普通はありえない。

 バンジェロさえもそう思い込んでいた常識は、最強という非常識の二つ名を持つ部隊には一切通用しなかった。


「覚悟しろバンジェロ!」


 ルークはバンジェロに接近し、一撃を叩きこむ。

 バンジェロは咄嗟に受け止めるものの、ブレイブの登場で一瞬反応が遅れ、槍の柄で肩を殴打する。


「むぅ! おめさん......なんか生き生きとしてんなぁ......その目、おめさんも愛された側の人間ってわけか」


「よそ見する余裕があるとは思えんぞバンジェロ!」


 ブレイブがバンジェロの背後から斬りかかる。ルークを押しのけ、反転してブレイブの攻撃を受け流す。

 2対1の状況でも一歩も引かず、一進一退の攻防を繰り広げる。


 銀狼騎士団の奇襲に混乱していたバンジェロ軍は次第に落ち着きを取り戻す。

 バンジェロが形勢不利である事を知ると、再度包囲網を形成しはじめる。

 銀狼騎士団を合わせても400人しかいないルーク隊にとって、未だ絶望的な状況に変わりなかった。


(敵の原動力はバンジェロ本人、ここを崩せば活路はある......!)


 ルークは懐にしまっていた魔法石を取り出し、バンジェロに向かって投げつける。

 バンジェロが魔法石に意識を逸らし叩き砕いた隙をついて、ルークとブレイブはバンジェロの腹部に一太刀を浴びせる。


「「「バンジェロ様!」」」


 民兵たちはバンジェロの傷を心配し、側に駆け寄りだす。

 (ほころ)びはじめた包囲陣をルークは見逃さなかった。


「ブレイブ行くぞ! このまま包囲を抜けて陛下の所へ合流する!」


「承知した!」


 ルーク隊と銀狼騎士団はそのまま森の中に消えていく。

 民兵たちは傷つき落馬したバンジェロを取り囲み心配していた。


「大丈夫かバンジェロさん!」


「髭さん死ぬんじゃねぇ!」


「おい誰か医者呼んでくれ! このままじゃバンジェロさんが死んじまう!」


(しくっちまったなぁ......狩り場に誘いこまれたんはおらの方だったみてぇだ......世界ってなぁ広いなぁ......)


「みんな......心配してくれてありがとうよ......わりぃな、負けちまったよ。撤退すっぺ、家さ帰るんだ」


 その後、ルーク達はレオと合流する。

 オルディア軍の展開が完了し、南部から徐々に拠点を制圧していき、残す拠点はガナン第一大砦のみとなっていた。

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