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そして俺は宰相になる  作者: ふーげん
第一章 決起編
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第十三話 救出

 ガウト高原での開戦より一時間前

 ルーク達はアランドゥ邸近くの下水道に来ていた。


「なぁ本当にここを通るのか?」


 凄まじい悪臭を放つ下水道にルークとアリアは鼻をつまんで顔をしかめる。


「堂々と正面から妹を取り返しに来ましたーって、見ず知らずの男女引き連れていけって言うの?

 軍師を名乗るんならこういうドブのような考えも持たないと駄目だよぉ?」


「いや、ドブのような考えというかモロにドブというか......まぁいいや、とにかく道案内を頼む」


 ルークとアリアはエストリヤの案内に従って下水道を進み、トイレの排水溝を開けて屋敷の内部に侵入した。


「うぅ......服に臭いが残らないか心配です......」


 侵入開始時点で既に気力が尽きたような顔をしたアリアを支えつつ壁に張り付いて周囲を見渡す。


(戦が始まったからか警備も殆どいないな。この様子ならステラさんを救出する事も比較的簡単か?)


「エストリヤ、ステラさんがどこに囚われているのか分かるか?」


 エストリヤは首を横に振る。


「ステラがいる部屋は毎回変わるんだ。だから、今日はどの部屋にいるのか分からない」


 アランドゥ邸は広い、居場所が分からないなら探す範囲は屋敷全体であり、捜索が長引けば敵に見つかるリスクも高まる。


「それじゃ困るんだエストリヤ、何でもいい、何か部屋の特定に繋がりそうな情報はないか?」


 エストリヤは少しの間考え込み、ある規則性がある事を思い出した。


「そういえば、アタイがいつも通された部屋は決まって2階にあった。

 もしかしたら、今日も二階のどこかにステラがいるのかもしれない......!」


 ステラは2階にいる可能性が高い、3人は人目を避けながら2階に上がり一つずつ部屋を見て回った。


「ここにもいないか」


 2階だけに限定しても数十の部屋がある。階段から時計回りに部屋を見て回ったが、20部屋ほど見てもステラらしき人物は見当たらなかった。


(まずい、時間をかけすぎている......もう合戦は始まっているはずだ。ガウト高原にレオ達が現れる事を報せなかったエストリヤは役目を果たせていない。そうなればステラさんの処刑が命じられるはずだ。


 一体ステラさんはどこに......)


 ルークが思案に耽りながら捜索を続けると背後から声が聞こえた。


「ずいぶんと探すのに苦労しているようですね。良ければご案内いたしましょうか?」


 一同が振り返ると、そこには長身の男が微笑を浮かべながら立っていた。


「カスローザ......!」


 エストリヤは目の前の男を睨みつける。

 カスローザと呼ばれた男は微笑を浮かべたまま冷たい眼差しで3人を見ていた。


「エストリヤ、この男について教えてくれないか?」


「あいつはカスローザ、フォントルの軍師だよ。てっきりフォントルと一緒に戦場にいるもんだと思ってたけど」


 そこまで言うと、カスローザが深くため息を漏らして語る。


「私も同行しようと思っていたのですが、フォントル様から待機を命じられましてね。

 あの御方は下準備はちゃんとするのに肝心な所で最後の一押しを忘れてしまう勿体ない御方です。


 まぁそれはともかく、こんな所で話を続けてもあなた方の目標は達成できないんですから、私と一緒にステラの所に行きましょう」


 罠の可能性が高いが、無駄に時間をかけてもステラどころか自分達の命すら危うくなる。

 いざとなれば3対1で戦えばいいし、フォントルの軍師なら人質としても価値がある。


「危険ではあるけど、他に手はない。ここはカスローザの言う事に従おう」


 俺は小声で2人に告げカスローザの後をついていく事に決めた。


 しばらくの静寂の後、口を開いたのはカスローザだった。


「ところで、アーネント殿の倅殿。貴方はレオ・オルディアの軍師だそうですね。

 今回の奇襲は見事でした。私が貴方の立場でも同じように進言したでしょう。


 自軍を上回る敵勢とまともに戦うには相手の意表をつくしかない。

 驕れるアランドゥ軍にとって、本来軍備を整えているはずのオルディア軍が目の前に現れるなど予想もしていなかったでしょう。おかげで我が軍は陣形を整える間もなく崩されつつあります」


 カスローザは現在の戦況をつらつらと話し始める。

 まるで今も現場を見ているかのように。


「随分知ったような喋り方をするんですね。

 カスローザさん、貴方は戦地に行っていないはずだし俺の作戦も知らないはずだ」


「全て知っていますよ。

 私の個性借体(シンク)は、顔と名前が一致する人物の視覚と聴覚を共有する事ができます。


 貴方の作戦も王子の動きも全て筒抜けでした。

 あまりにお粗末な作戦なら早々に潰しても良かったのですが、私と同じ視点で策を立てるものですから楽しくなってしまいましてねぇ。こうして見逃し続けたという訳です」


 カスローザの発言は全く要領を得ない。

 これまでの発言を全て信じるのなら、何故カスローザは主人に作戦を伝えないのか、何故主人が窮地に陥っていても冷静なのか、全てが繋がらずルークは困惑の色を浮かべている。


「ふふっ、まぁその話はまた後程という事で......さぁ着きましたよ。この部屋にステラはいます」


 3人は目配せをし、エストリヤが恐る恐るドアを開ける。

 そこには白髪の美しい少女がベッドの上で横になっていた。


「ステラ!」


 エストリヤは急いで駆け寄り、ステラと呼ばれた少女の下へ向かう。

 カスローザの真意はともかく、ルーク達は目標の少女と合流を果たした。


「ん......んん? お姉ちゃん? 今日は面会の日じゃないよね?」


「そうだよ、お姉ちゃんだよ! もう面会なんていらない! アタイはあんたを助けに来たんだ!」


 寝起きで困惑するステラに対し、必死に説明を続けるエストリヤ。

 ようやく状況を理解し始めたステラは、なぜここにカスローザがいるのか全く理解できず余計混乱していた。


「ふっふっふ、ようやく妹とまともに会話ができましたねエストリヤ。

 さて、感動の再会を果たせたという事で......仲良く消えてもらいましょうか」


 ルークとアリアは即座に臨戦態勢を整え、姉妹を背後に壁となる。

 エストリヤもステラを庇いだす。

 緊迫した空気が部屋中に立ち込める中、その重い空気を破ったのはカスローザだった。


「あっはっは、そう殺気立つのはおやめください皆さん、ただの冗談ですよ。

 さぁエストリヤ、ステラを連れて早くローズロック領まで戻りなさい。

 屋敷の兵には話を通してあるので、フォントル様に出会わない限り貴女達は安全に逃げられます」


 カスローザはそう言うと、腰の下げている剣を投げ捨て自ら丸腰になる。

 困惑しながらもステラを抱えて部屋を出ようとするエストリヤにカスローザは声をかける。


「長い間ご苦労様でしたエストリヤ、道中魔物にはお気をつけて。


 そちらのお嬢さん、貴女は腕が立ちそうだ。良ければエストリヤの護衛をしていただけませんか?

 私はこちらの軍師殿と二人でお話がしたいのです」


「大事な婚約者を死地に捨てて逃げるなど私にはできません! お断りします!」


 頑としてルークと離れる気がないアリア、

 ルークはカスローザに敵意とは別の思惑があると悟り、アリアを説得する。


「大丈夫だアリア、君はカスローザの言う通りエストリヤの側にいてやってくれ」


「でも......!」


「俺も必ず帰る、何かあればすぐに逃げるさ。

 安心してくれ、君を妻にするまで俺は死なない」


 アリアは不満げな態度を隠さない。

 だが、ここで痴話喧嘩をする時間はない、ルークの眼差しに耐えきれずアリアは承諾した。


「いいですか! 絶対帰ってきてくださいね! 私ずっと待ってますからね!

 私を一人にしたら許しませんからね!!」


「あぁ、肝に銘じるよ」


 そして部屋の中にはルークとカスローザの二人が残った。


「さて、まずは私の我儘(わがまま)に付き合っていただいて感謝します」


「別にいいよ、あんたに敵意がないのは何となく分かってたしこれまでの行動が全部不可解だ。

 フォントルの軍師としてではなく、あんた個人の目的で動いてるようにしか思えない。


 カスローザ、あんた一体何がしたいんだ」


 カスローザは窓の外を見つめ、遠くのガウト高原に目を向ける。

 戦いの詳細は見えないが、無数の人影が動き、戦況が目まぐるしく変化している事だけが伝わってくる。


「倅殿、いや、ルークフェルト殿でしたか。

 率直にお聞きします、貴方はレオ王子をどのような存在にするおつもりですか?」


 レオをどのような存在にするか、その問いに対する答えは王という一言以外にルークは持ち合わせていなかった。


「それは勿論、レオを王にする事だ。

 レオの軍師として争いの無い世界を作る為に大陸全土を統一する。


 レオが俺に語ったのは争いの生まれない統一国家を作る事、恒久的な平和を維持する法治国家を作ることだ。俺はその為に戦いに勝つ策、国を豊かにする策を考え続けるだけだ」


 カスローザはしばらく思案した後にルークに振り向き口を開く。

 そこから出てきた言葉はルークが考えもしなかった事だった。


「ルークフェルト殿、貴方は大陸全土を血に染め上げ、レオ王子を殺戮の暴君とし、己の指一本動かさずに大勢の命を奪い、この世界の構造を破壊するという大罪を背負って生きる覚悟がおありですか?」


「!? それはどういう......」


「大陸全土を支配するという事は、他国にとって臣従か戦争の道しかありません。

 同盟による小康状態を認めず、オルディアの名の下に全てを支配する。それを簡単に認める国がどこにあるでしょうか?


 そして法による支配、本来、法とは規則であり、国としての体裁を整える最低限のもの。

 しかし貴方の言うそれは王族や貴族さえも法で支配し、既得権益を全て破壊するという事。

 私の知る限り、あらゆる存在が法に従って生きる国は存在しません。


 この戦いで王子が勝てば、かつての王家に擦り寄り既得権益の甘い汁を吸おうという輩が増えるでしょう。

 既得権益がある事で愚物が集まる事もありますが、多くの人材を確保できるという点で今後の発展には必要不可欠です。


 貴方に世界を壊す覚悟はありますか?」


 考えた事が無かった。レオに従って目の前の問題を解決していけば、俺達の目指す理想の国を作れると信じ切っていた。

 転生する前の俺なら、そういう考えにもなっていただろう。だけど肉体の若さに引っ張られて精神も幼くなってきている。

 俺にあるのは生前の知識だけで、精神は16歳相応の未熟さのままレオの言葉を信じ込んでいた。


「覚悟は......あるとは言い切れない。

 俺自身、まだ自分にそれだけの能力があるとは思えてない。だけど、これだけはハッキリ言える。

 戦争を限りなく無くす為にはやっぱり統一と法治国家の形成は不可欠だ。


 その恩恵がどれだけ素晴らしいかを俺はよく知ってる。

 毎日夜遅くまで出歩いていても誰にも襲われない国、落とし物がちゃんと持ち主に帰ってくる国、礼儀正しく思いやり溢れる国の素晴らしさを理解しているからこそ、俺はレオの理想に従いたい」


 日本のような安全な国、レオの理想がそれに近いかは分からないが俺の目指す国は日本だ。

 今の所、俺とレオの理想は近いところにあるから従い続けたい。


「まるで貴方の語る理想国家を実際に見てきたような口ぶりですね。

 それがただの妄想なのか何なのかはともかく、どうやら理想の国の形自体は見えているようですね」


 カスローザは再び外を見る、アランドゥ軍は殆ど潰走しており、オルディア軍が勝利したようだ。


「ルークフェルト殿、私はフォントル様に忠誠を誓っているわけではありません。

 かの戦地に私を同行させなかった時点であの方の運は尽きました。

 私の才覚を活かせる場所がここで無くなったなら新たな地を求めるだけのこと。


 あぁそうそう、先達の軍師として一つだけ忠告を。

 これからもこの道を歩むというのなら人の心は捨てなさい。それが貴方の為ですから」


 カスローザはそう言うと、剣を手に取り部屋を後にする。

 ルークも屋敷から脱出する為、急いで階段を降りると入口を塞ぐように警備の兵が複数人待ち構えていた。


(くそっ! アリアたちはともかく俺は見逃す気はないってことかよ!

 この人数を相手に戦うのは分が悪すぎる!)


 ルークが姿勢を低くし腰の剣に手を当てて構えると、一人の男が両手を上げて近づいてきた。


「失礼、こちらに敵意は無い。ルークフェルト殿だな、カスローザ様の命により我々はオルディア軍に降伏する」


 ルークはキョトンとした顔で男を見上げる。男は経緯を続けて語る。


「カスローザ様は事前に俺達にこう言っていたんだ」


『これより数時間以内に3人の侵入者が現れます。侵入者の対処は私がしますので皆さんはこれまで通り外敵の警戒を続けてください。


 その内、女が2人、人質を連れて玄関口から出るでしょう、その時は見逃しなさい。

 次に出てくるのが私なら今回の戦は負けです。

 大人しく投降すれば命は助けてもらえると思うので、この屋敷を明け渡しなさい。

 きっとこの地を豊かにして皆さんの暮らしを守ってくれます』


 カスローザは今回の事を全て予見していた。

 だが何故? なんの義理があってそこまで肩入れを? その疑問に答える存在はここにはいない。

 ルークは気を取り直し、アランドゥ邸陥落を報せる良い手段はないか考え男に尋ねる。


「なぁあんた、この屋敷に無地の布と棒はあるか?」


「倉庫にならあるが、白旗でも作るつもりか?」


 ルークはそうだと答え、倉庫に案内されると一番大きな布と棒を括り付け巨大な白旗を作る。

 そして屋敷の屋根に登り、巨大な白旗を翻しながら宣言する。


「フォントル・アランドゥの屋敷は、このルークフェルト・ローズロックが陥落させた!

 これよりこの地はレオ・オルディアの物である!!」

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