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そして俺は宰相になる  作者: ふーげん
第一章 決起編
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第十四話 終戦

 ガウト高原の敗戦後、フォントルはオルディア軍の激しい追撃を受け、1000人いた供回りはすでに100人を切っていた。


「くそ......くそっ! オルディア軍め、くだらん小細工で翻弄しおって! カスローザも何故献策しない!

 この失態をオルドーレ様になんて説明すればいいのか......!


 ふぅ......今回の敗戦はあまりにも多くの金を使いすぎた。また税を引き上げねばならんな......」


 フォントルの発言に周囲がざわつく。アランドゥ領の税率は85%であり、既に領民が重税で苦しんでいた。

 領内各地の配給所と集合住宅で辛うじて生かされている毎日を送っているのである。


「恐れながらフォントル様、民は既に重税に苦しみ人としての満足な営みを送れない者も数多おります。

 ここは減税をして民の負担を減らしては如何でしょうか?」


 側近の一人がフォントルに進言する。フォントルは話しを聞き終えるとその場で止まり、部隊を停止させる。


「そうか、貴様はそう考えるのか。この儂に民を安んぜよと言うのだな?」


 フォントルは剣を引き抜き、側近の首を手ずから刎ねる。


「なぜ儂が蒙昧な民に気を使わなくてならんのだ! 民とは主の生活を守る為にあるものだ!

 主が民の事を思いやる必要などない! 日々の寝床と食事を与えているこの儂に、さらに慈しみを求めるなど烏滸がましいにも程があるわ!!」


 激昂するフォントルに兵達は困惑を隠せない。

 だが、何か発言しようものなら次は自分が首を切られかねない。

 最低の士気と最悪な雰囲気の中、フォントルは屋敷のすぐ近くまで戻ってくると、

 そこには屋根に登り巨大な白旗を持った青年が立っていた。


「フォントル・アランドゥの屋敷は、このルークフェルト・ローズロックが陥落させた!


 これよりこの地はレオ・オルディアの物である!!」


 一同は愕然とした。ガウト高原で戦っている間に本拠地が敵の手に落ちている。

 オルディア軍の突然の出現といい、理解の追いつかない状況が次から次へと襲い掛かってくる。


「なぜ屋敷が敵の手に落ちている......? 兵は? カスローザはどうした? なぜあの男は無傷で立っている?」


 半ば放心状態で疑問を並び立てるフォントル、屋敷の前まで来ると警備兵たちが総出で待ち構えていた。


「フォントル様、我々は最早あなた様にお仕えする事はできません。

 この屋敷を手土産に我々はオルディア軍に投降いたします。」


 警備兵の男が前に進み出て離反の意思を告げ、フォントル達を屋敷に入れないように防御姿勢を取る

 フォントルは額に血管を浮き上がらせていた。


「貴様ら......主に盾突くとは如何なる了見か! これまで生かしてやった恩を忘れおって!

 兵どもよ! 裏切り者どもを皆殺しにせよ!」


 フォントルの供回りが前に飛び出し構える。だが、それ以上のアクションを起こそうとしなかった。

 本当にフォントルの命令に従った方がいいのか、忠誠を誓うか裏切るか、供回りたちの間に迷いが生じていた。


「無様なものだ、貴様に心から忠を誓う部下が誰一人いないとはな」


 フォントルが振り返ると追撃部隊を引き連れたレオがいた。


(レオ!?)


 追撃部隊を大将が率いるなんて無茶苦茶だ。ルークは急いで屋根を降りてレオの下へと向かう。


「フォントル、随分と俺を急かしてくれるじゃないか。おかげで計画が数年早まったぞ。

 軍師の宣告通り、今日よりこの地は俺のものだ。

 長年ここを治めてきたアランドゥ一族に敬意を払い、罪人として首を切るのではなく決闘による死という名誉を与えてやろう」


 フォントルは苦虫を嚙み潰したような顔で歯ぎしりをし悔しさを滲ませる。


「舐めるなよ若造が......! 儂の後ろ盾には血盟宰相オルドーレ様がいるのを知らんのか!

 貴様の如き血筋だけの弱者がどれだけ歯向かおうが到底太刀打ちなどできん!


 儂を殺すという事はオルドーレ様を敵に回すという事だ! その事を分かっておるのか!?

 所詮貴様なぞ愚鈍な王から産まれた分を弁えぬおろ――」


 その瞬間、フォントルの首が地に落ちた。

 手にかけたのはオルディア軍の誰でもなく供回りの一人、側近と思われる男だった。


「はぁ......はぁ.......オルディア殿下、この者の聞くに堪えぬ言葉を、これ以上殿下のお耳に入れるなど私には耐えられませんでした。

 この首をもって我々も殿下に降ります。どうか我らを末席にお加えください」


「貴様、名は?」


「はっ! ラッセル・マーティンでございます!

 アランドゥ家では代々執事を務めておりましたので、この地の事について私より詳しい者はおりません!」


 フォントルの供回り達はマーティンに続いて跪き恭順の意思を示す。

 レオは話を聞くと馬を降り、マーティンを通りすぎて屋敷の方に向かい警備兵たちに声をかける。


「お前達、よくぞフォントルを足止めしてくれた。お前達の足止めが無ければフォントルは屋敷に籠もり、我が軍師も捕らえられていた。

 そうなればこうも簡単にフォントルの首を取る事など出来なかっただろう。お前達にはしかるべき恩賞を与えると約束する」


 警備兵たちは喜びの声を上げる、その内の一人がレオに質問をする。


「レオ殿下、この度の勝利おめでとうございます。あのぅ、恩賞もありがたいのですが、税を軽減していただけないでしょうか?

 フォントルのせいで俺達は毎日生きるのがやっとで、村に残した家族も日々困っているのです」


「あぁ、重税の話はかねがね聞き及んでいる。軽減と言わず向こう5年は税を免除すると約束しよう。

 その間にやせ細ったこの地をお前達の力も借りて豊かにしていきたい」


 兵達はさらに喜ぶ。大の大人が人目もはばからず狂喜しているのだからフォントルの支配が過酷なものであった事は想像に難くない。


「レオ!」


「おぉルークか、エストリヤの妹を救助するのが役目のはずだったのに、何がどうして屋敷の陥落なんて成し遂げているんだ?」


「それはこっちが聞きたいよ......なんか成り行きでそうなっただけなんだから......ところでフォントルは?」


 レオが後ろを指さす。

 そこには生首となったフォントルの姿があった。


 人の命が誰かの手によって奪われるという光景を生で見るのは初めてだったルークは嘔吐(えづ)く。

 時代劇でしか見た事ない残酷な光景を目の前にして、これからもこんな場面を目にしないといけないのかと恐怖する。


(魔物は死んだ瞬間に霧散するから何とかなってたけど、殺された人間を見るのはキツイな)


 やれやれといった様子でルークを見ていたレオは振り返り、配下達に命じる。


「フォントルの供回りを全て打ち首とせよ。一人の例外も許さぬ」


 その場にいた全員がどよめいた。戦意の無い相手を殺すなどおよそ人の所業とは思えなかった。


「お、お待ちを殿下! 我々はこうしてフォントルを討ち、御前に献上いたしました!

 何故我々にそのような仕打ちをなさるのですか!」


 マーティンは抗議の声を上げるが、レオは訴えを聞く気がない。


「黙れ! 貴様らは土壇場で主を裏切り、長年仕えてきた主の最期を罪人として汚したのだ!

 寝返りそのものを咎めているのではない、寝返るつもりならいつでも機会はあったはずだ。

 にも拘わらず、貴様らは進退窮まった状況で忠節を尽くさずに裏切った。


 そんな恥知らずに我が臣下となる資格など無い! 全員打ち首だ!」


 オルディア軍が次々と拘束し首を刎ねていく、泣き叫んで助けを乞う声も無情な刃にかき消される。


「何故だぁ! 警備兵も同罪のはずだぁ! 嫌だぁ死にたくない!! 死にたくない!!

 助けてくれぇ!! 助け――」


 阿鼻叫喚の凄惨な処刑は最後の一人の死によって幕を閉じる。

 レオの行動にルークは疑問しか出てこなかった。


「レオ、こんな事をする必要が本当にあったのか?

 いくらなんでもやりすぎだ! 人間の命をそんな軽々しく扱うなんてどうかしてるぞ!」


 レオはこちらの呼びかけに答えない。ただ黙って背を向け続けていた。


「おい、聞いてるのか! お前がやった事はただの殺人だ!

 相手に戦意が無いのは誰の目にも明らかだ! フォントルが死んだ時点で戦争は終わってるんだぞ!

 なんであんな事をする必要があるんだ!? おい、何とか言えよ!!」


 掴みかかろうとした時、その手をレオが振り払う。


「ルーク、それが戦争というものだ。

 俺はこの修羅の道に足を踏み入れる覚悟をとうに決めている。


 奴らをこのまま生かして臣下に加えたとして俺に何のメリットがある?

 俺が窮地に陥った時に必要なのは、いつ裏切るか分からぬ賭けのような配下ではなく絶対裏切らない配下だ。

 奴らの所業を見れば前者なのは明らか、これから他国に負けぬ国を作るという時にそんなリスクは背負えない。


 ならいっそ、ここでフォントルと共に殺し、暗愚な主君に最後まで従った忠勇の士としての最期を与えてやった方が奴らにとっても幸せだ」


「それでも......! それでも......本当にこれで良かったのか?」


 ルークの常識は現代日本の常識でしかない。異世界にいるのだから日本の常識は捨てるべきなのかもしれない。だが、それでも受け入れがたい現実が目の前に広がっていた。


「ルーク、お前もいい加減覚悟を決めろ。

 俺の軍師としてこの先もやっていくのなら、死ななくてはならない命がある事も理解しろ。


 でないと、お前は必ず己の身を潰す事になるぞ」


 そう言い残し、レオはアランドゥ邸に入っていった。

 しばらくして、オルディア軍の主だった将が続々とアランドゥ邸に入っていく中、

 ルークはただ一人、血に染まった大地を見つめ続けていた。

ガウト高原の戦いはこれにておしまいです!

第一章の山場も無事に書き終えてホッとしています。


しばらくは日常回とかがメインになります!

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