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12/12

File12: 短冊

探偵の朝は早い


現在時刻 am7:57


いつもなら寝ていてもおかしくない時間だ


俺たち探偵部には幾つかのルールがある、その内の一つが依頼の短冊を日替わりで誰かが回収すること


当番のメンバーが朝の8時に、吊るしてある短冊を回収しておくというものだ


8時なんてそんなに早くないじゃないかって?


そんな正論は聞き入れません!病み上がり男子高校生のヤル気の無さをナメるなよ?


で、そんな病み上がりの私(わたくし)、七瀬結夜がこんな朝早く学校へと赴いているのは、当然その当番だからだ


ようやくあのムダに薬臭い病室とオサラバ出来たというのに、早速発動する登校義務


久しぶりの登校でダルいわヤル気は出ないわで散々なのに


それなのに俺の相棒ときたら……


am5:26

「今日は君が当番の日ですから、忘れないでくださいね」

とモーニングコール


イジメかっ!時間に悪意を感じるわっ!


しかも今日に限っての雨、けっこう強めの


昨日までの快晴が嘘のようだ


7時ごろまでは晴れてたのに…腹の立つ


学校までは歩いて十分ほどだからと油断していた俺が悪いのか?


散々な日というのはこういう日のことを言うのではないだろうか……


流石の七瀬くんも心が折れそうだぜ


あー、泣きたくなってきた


そして、ヘッドホン越しでも存分に聴こえてくる、傘を弾く雨音…


まったく、クールな曲の数々が、大自然のノイズでほとんど聴こえて来ねえじゃねえか


コッチは本来登校すべき時間より30分もはやく登校してんだぞ、少しは空気読めよ雨


そうこう文句を言ってたら問題の短冊に到着


学校の体育館裏にある掃除用具入れ


一輪車とかを置くスペースがあって、屋根もあるから地面も短冊もほとんど濡れてない


「今日は4枚か……。はっ、まったくしょーがねえ学校だぜ、俺が居ないとすぐコレかぁ?」


なんて嘯いてみるが


空はもちろん、気分も晴れなかった



4枚、俺たち探偵部が1日に受ける依頼の上限だ


まあメンバーが4人だからなんだが、依頼が4件来るのは珍しいことなのでいつもなら多少嬉しいのだが、今回はあまりそういったことは感じなかった


そーいやあの日も4つだったか


「………………」


あぁ…イヤなこと思い出した……


なんで俺って"ここぞ"って時に限ってああなんだ?


まあいい、そんなことより、とりあえずは短冊の回収だ


赤、青、オレンジ、ピンク、カラフルなのは結構だが、朝早くからご苦労なことで


しかし、今日は4枚とも綺麗に切られてるな、いつもは雑なのが1、2枚は有るんだが


丁寧にしてもらって悪いけど、ポケットにでも突っ込ませていただこう



それはそうと、この掃除用具入れ


下駄箱への距離が、尋常じゃないほど遠い


裏門から入って、体育館とプールの間を通り過ぎ、中庭を突っ切ってようやく到着


しょーじき雨の日なんかにやりたい仕事じゃない、というか晴れていても面倒だ


つか、これホントに俺がやらなきゃならんことなのか?


こういう時くらい誰か代わってくれてもよくね?


どっかの省エネ高校生よろしく、やらなくてもいい事はやりたくないねえ全く……



くっそ、買ったばっかの靴が、もうグショグショじゃねえか


濡れた靴って脱ぎたくないんだよなぁ…


次履いて、その時まだ濡れてたらって考えると、なんとも億劫で、気を抜くとこのまま帰宅しそうになる




「待てぇぇぇぇぇぇえ!!廊下を走るなぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


「!?」


なにやら、けたたましい叫び声が聴こえて来たが。この声は世界史の井上か?


「井上っちだって走ってるじゃん!先生なら生徒に見本見せて欲しいなぁー!」


なにやら…悪い意味で聴き覚えの有る声も聴こえてきたんだが……


嫌な予感がした時にはすでに遅かった、俺の立っていた、下駄箱と下駄箱の間のスペースに、とんでもないスピードで突っ込んできた"それ"は、俺と見事に正面衝突したーーーーーーーー




ゴチィーーーーーン!


鈍く、それでいて清々しい音が、早朝の昇降口に響き渡った。


盛大に額をぶつけ合った2人の探偵は、その場で力なく倒れていく。


「待てぇ!笹島ぁ!ハァッ、ハァッ…廊下は走るなとっ………?」


そこで教師が目撃したのは、うつ伏せで伸びている逃亡者と、仰向けの状態で大の字に転がって目を回している少年の姿だった。


なぜミソラが、こんな朝っぱらから学校で教師と追いかけっこをしていたかというと。


それは16時間ほど前に遡る。





『なに?ミソラ、ニヤニヤしちゃって、なんか機嫌良いじゃん。なんか良いことでも有った?』


ここはユウヤとミソラが所属する銀漢高校2年1組の教室。


ミソラに話しかけているのは"一条薫(いちじょう かおる)"、偶然ながら彼ら2人とは2年連続で同じクラスであり、特にミソラとは仲が良く、子供っぽい性格の彼女とは対照的に歳相応に落ち着いた雰囲気の美少女。


側からやり取りを見ていると姉と妹のように見えなくもない。


その整った容姿から、ミソラとのコンビは、クラスの男子ほぼ全てのストライクゾーンをカバーして余りある。


『えへへ、ユウヤが明日から学校来るんだよぉ。楽しみ過ぎて昨日は少しハッチャケちゃった☆』


それを聞いてカオルは残念そうに呟く。


『なぁんだ、七瀬くんのことかぁ…』


『"なんだ"ってなによぉー!』


多少遠慮気味にクラスメイトは返す。


『だってあんた、話す事の7割は七瀬くん関連じゃん?流石に飽きたわ、そのノロケ』


『そうかなぁー?』


『七瀬くんてさあ。外見は結構イケてると思うけど、あの片っ端から女の子に声をかける軽い性格はちょっと無いかな。それに乱暴そうだし』


『え?どこが?アタシの方が乱暴だよ?』


あろうことか不思議そうな顔で「乱暴宣言」をし始めた友人に、狼狽える学級委員長。


『それは乙女が自慢気に言うようなセリフじゃねえよ……』


物騒な少女の頭に軽くチョップを繰り出す。



『帰りのホームルーム始めるぞ!起立!』


ガラッと音を立てながら、1組の担任である社会科教師、井上将貴(いのうえ まさたか)が教室のドアを開いて入ってきた。


それに反応し学級委員長であるカオルが続けて叫ぶ。


『気をつけ!礼!』


教師の「着席」の合図と共に生徒は全員席に着く。


『えー、特に明日の連絡などは無いが。不審者情報が入っている』


教室がザワつく、この銀漢高校を中心とした西区の北部では、とある非公認部活のおかげ(?)でその手の輩がめっきり減っており。不審者情報はとても珍しいものだったのだ。


『昨日の午後6時ごろ、雅嶋東高校の男子生徒5人が中央区商店街付近で不審者に襲われて病院に搬送された。フードを被っていたから顔は見えなかったらしくこれといった特徴も分かってないが、かなり小柄だったらしい。たった1人で大柄の男を5人も病院送りにするような奴だ、そういった奴を見かけたらチビだからと油断して近づいたりするなよ?』


報告用のメモを読み上げ、担任教師は生徒らに注意を促していたのだが。


そこに割って入る者がいた。


『センセぇー、チビは酷くないですかぁー?!これでも、前回の身体測定では140cm超えてたんですよぉー!』


……………………………………


約5秒、教室を静寂が支配した。


先程まで談笑していた生徒も、目を見開いて彼女の方を見ていた。


担任教師は、たった今とんでもないことを口走った女子生徒に向かって質問する。


『待て、笹島…お前は何を言っている…?』


『アタシぃー、"チビ"って暴言だと思うんですよね。昨日の5人も"チビチビチビチビ"って、人のことなんだと思ってるんですかねぇ!だいたい、身長ばっかりは本人の努力じゃどーにもならないじゃないですか!』


教室内が盛大にザワつき始める、そんな中、担任教師だけは黙ってプルプル震えていた。


『それってかなり理不尽だと思うんですよぉー』


担任教師はムスッとしている女子生徒をその目にしっかりと捉えた。


『おい………』


『………え?』


キョトンとしている女子生徒に向かい、その思いの丈を言葉に乗せて叫んだ。


『さぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁしぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』


その瞬間、両者はホームルームのことなどすっかり忘れ、終わりのない鬼ごっこへと移行したのであった。




「で、アタシそのまま帰っちゃったんだけどぉー。一晩寝たら追いかけっこのこと忘れちゃっててぇー、ユウヤ待ち伏せしようと思って早めに学校来たら、井上っちに見つかっちゃったんだぁー」


と語る少女が座っているのは生徒指導室の椅子だ。


そこには逃亡者、追跡者、そして負傷者の3名が机を挟んで、生徒側、教師側とに分かれて座っていた。


「今回の件って俺悪くないよね?てか俺むしろ被害者なんですけど!」


「ハァ、ハァ、こいつの口から…お前の名前も出てきてんだ…。ハァ、体面上、ハァ……、そういう奴にも…一応は話を聞かにゃならんのだよ……」


「(なんか、ここまで来ると可哀想だな……)」


息絶え絶えに話す担任教師の姿を見ていると多少同情の念が芽生えてくる。


「てか、俺がなんだって?!なんで俺が関係あんの?」


横でスナック菓子を頬張っていた少女に問いかける。


「んー?あぁ、なんか昨日のアイツら、ユウヤのこと話しててさぁー。"今なら怪我してるから大勢で掛かればやれるー"とか言ってたからぁー、ムカついて後ろからぶっ飛ばしちゃったんだ☆」


大きな溜め息をつきながら、思わず右手で顔を覆ってしまう少年。


そんな娘(こ)に育てた覚えはありませんっ!と叫びそうになる。


「だぁーかぁーらぁー、セイトウボウエイなんだってばぁー」


なんか"正当防衛"って言葉に重みがないなあ、と感じたユウヤは再び問いかける。


「なぁソラ、お前"正当防衛"の意味分かって使ってる?」


「もちろん分かってますよ!えーっとねぇ……………………」


少女は少し考え、絞り出すように答えた。


「正義の鉄拳……的な…?」


「ちげえよ!そんな理由じゃ、お前がやってることはただの無差別暴行にしかならん!」


彼らは指導中の生徒のはずなのだが、指導教員そっちのけでワーワーギャーギャーと騒いでいる。


それというのも生徒を指導する場にも関わらず、指導する立場の人間が一身上の都合で体力的に限界を迎えており、ほとんど発言しないという謎の現象が起きていたためである。


「いいか?よく聴けこのエセぶりっ子!"正当防衛"ってのはなあ!つまり、悪いことやったヤツはボコして構わんってことだ!やる前に手ぇ出したらコッチの負けだ!」


「そ、そうだったっ!忘れてたよ!ゴメンねユウヤ!」


「おいコラ…それもなんか違うぞ…チンピラ共……」


今日も平和な銀漢高校。


8時半を知らせるチャイムが雨の校舎に響き渡っていた。

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