お兄ちゃんへの気持ちが目減りしている?
机に上には問題集。右手には鉛筆。
全然進まない。
さっきから、出るのはため息ばかり。
頭の中に渦巻くのは妄想ばかり。
今日の将之さんとのひと時はなんだったのか?
全くすっきりしない。はっきりさせたい。でも、それは怖い。
直接、将之さんには聞けそうにない。
私は自分の部屋を出て、隣のお兄ちゃんの部屋の前に立った。
「お兄ちゃん。入るよ」
お兄ちゃんの部屋。ベッドと机。本棚。それだけでいっぱい。
棚にはガンプラとか何とか言うプラモが置いてあるだけで、どちらかと言うと殺風景。
この中に光り輝くのがお兄ちゃん。
お兄ちゃんがいるだけで、この空間は別世界になる。と、私は思っている。
椅子に座って、机に向かっていたお兄ちゃんが振り返った。
「あのさ、教えて欲しい事があるんだけど」
そう言って、お兄ちゃんのベッドの上に腰掛けた。
「女の子とさ、一つのパフェを食べた事ある?」
「ああ。ある」
衝撃的な事実だ。
聞きには来たのは私だけど、あっさりと「ある」と言われると、ちょっと衝撃だ。私の知らないところで、そんな事を。
「あるんだぁ。
で、その相手の女の子のスプーンを使った事は?」
「あるよ」
何を聞いてくるんだ? そんな怪訝な表情だ。
「なんで?
どうして、その女の子のスプーンを平気で使うの?」
「一本しか無かったからだろ」
おいおい。と、突っ込むところ? じゃないよね。
「そんな事、当然じゃない。
一本しか無いからって、どうしてそんな人のスプーンを平気で使うのかって事よ。私が知りたいのは」
「嫌な相手なら、使わないだろ。
嫌な相手じゃないからに決まってんじゃん。
もしかしたら、喜んで使ったかもな」
「お兄ちゃんの相手は嫌な相手じゃなかったって事?
喜んで使ったの?」
「俺は喜んで使った訳じゃない。
何しろ、相手はお前だからな。よく一緒に食べただろ」
「そ、そ、それって、いつの話よ」
確かに一緒に食べた事はある気がする。
小さかった時に、お互いのものを食べ合った。
相手は私であって、他の女の子じゃない。
ちょっと安心。いえ、そんな場合じゃない。
「そうじゃなくて、他の女の子よ」
「無い」
きっぱり言ってくれたお兄ちゃん。
うんうんと頷いてしまう。いえいえ。そんな場合じゃなかった。
少なくとも将之さんは私の事を嫌ってはいない。
いえ、そんな事は最初から分かっている。嫌いなら、声をかけて来たりするわけがない。
「じゃあさ。嫌いじゃないってのはどこまで入るのかなぁ?
普通とかさ、好きとかさ」
「この前の話と同じ相手?」
「そうかな」
「だったら、やっぱ好きなんじゃないの。まどかの事」
お兄ちゃんが何だか嬉しそうな顔になった。
「ど、ど、どうして私の事になるのよ
そんな訳ないじゃん。
私はお兄ちゃん一筋なんだからね」
ちょっとふくれっ面を作って見せる。
「お兄ちゃんも安心したよ。
まどかもその人の事好きなんだろ?
これで、まどかも俺から卒業だな」
私の話なんか聞いていなかったかのように、一人頷いているお兄ちゃん。
もしかして、お兄ちゃんは私にまとわりつかれて、面倒に思っていたの?
この際、他の男の人に私を渡して、せいせいしたいって事?
ちょっと、不機嫌な表情が私の顔に浮かんだ。
「なんで、そうなるのよ。
私はお兄ちゃん大好きなんだから」
そう言って、お兄ちゃんに抱き着いた。
お兄ちゃんの胸の辺りで、頬をすりすりしてみる。
何か変?
いつものわくわく、どきどき感が目減りしている気がする。
抱き着いたまま、顔を上げて、お兄ちゃんの顔を見上げて見た。
いつもの優しい笑顔。
私が独り占め。
なのに、なのに。
やっぱ、ときめき? 何か心の奥の何かが目減りしている気がする。
分かってはいた。
怖くて、ずっと、ずっと、認められずにいたけれど、私はもう将之さんにしか、ときめくことができない。
今日、分かったのはその事。将之さんの気持ちは分からないまま。
お兄ちゃんは言った。「そんな事、うじうじしてないで、本人に聞くしかないだろ」
そんな事、私にだって分かっている。
でも、できやしない。
結局、すっきりしないままお兄ちゃんの部屋を出た。
私のこのもやもや、どうしたら解決できるの?
「はぁー」
ため息をつきながら、自分のベッドに倒れ込んだ。




