そして、やっぱ、私も……
少しの間、私の思考回路は停止していた。
私の視界の中には、ギターの弦を押える自分の左手とピックを持った右手の間で、視線を行ったり来たりさせながら、音の調整をしている将之さんだけが映っていた。
「中井さぁーん」
ステージの4人に向けられた歓声の中に、そんな声が混じっている事に気が付いた。
きょろきょろと自分の左右に視線を向けた。
私の左右に座っている女の子たちの視線は輝きすぎている。
「あのう」
私の右隣の見知らぬ女の子に、ちょっと遠慮気味に声をかけてみた。
何? 的な視線が私に返って来た。
「ギターの男の子ってぇ」
「かっこいいよねぇ。サイコーだよねぇ。中井さん」
やっぱ、あの人が中井さん。
望月書店。だからと言って、名字が望月とは限らない。
私が勝手に思い込んでいただけ。
私がそんな思考に落ち込んでいる間に、その女の子は一瞬きょとんとした表情をした後、正面に向きなおした。
何と言うことなのか?
私が好きになりかけ? 正直言えば、もうなってしまっている相手が、あの噂の中井先輩だったなんて。
もしかしたら、私の事を気にかけてくれている? なんて、独りよがりな気持ちを抱いたりもしていたけど、それは全くの妄想としかいいようがない。
中井先輩と言って、みんなが騒ぐような人が、私の事を気にいってくれるはずがない。
「今も女の人と一緒に歩いてたけど、早紀さんだっけ?」 ゆかりの言葉が甦ってきた。
同時にパン売り場で見たあのきれいな女生徒のイメージが脳裏に浮かぶ。
女の私から見ても、きれいな人。
みんなが付き合っていると思うほどの仲の二人。
私なんかが入り込める訳ないじゃない。
もてもての中井さんだからこそ、女の子には慣れていて、気軽に私に接してきただけ。
そう考えるのが、自然じゃない。
なのに、私は勝手に。まるで、馬鹿みたい。
智美のデジカメをスカートの上で握りしめ、俯くしかなかった。
私の耳にも体にも、将之さんたちのバンドが奏でる曲が小刻みな振動を与えている。
それが鳴りやみ、一瞬の静けさ。それはすぐに拍手と大歓声と入れ替わった。
私はようやく自分を取り戻した。
智美から頼まれた仕事。これをしなければならない。
次の曲が始まると、私はデジカメを将之さんに向けた。
デジカメの画面に映し出されている将之さんの表情は素晴らしかった。
胸がちくちくと痛んだ気がした。
私の心はジェットコースター。
浮かれたり、沈んだり。
そして、もう将之さんと言う人が、私の手の届くような人じゃないと分かったのに、まだ将之さんにひかれ続けている私がいる。
やっぱり、消えてなくなってほしい。私のこの気持ち。
でなければ、私は身の程知らず。自分とは釣り合わない人を好きになって、相手にされないと分かっていても、好きでい続けるなんて。
好きでい続ける。
それはいつか自分に振り向いてくれる。そんな幻想を抱いているから。
私は痛む胸に耐えながら、智美のために写真を撮り続けた。
時々は私の方を向いている気さえして、胸の痛みはどきりとした感情に打ち消されたりもする。
会場を見ているだけのはずの将之さんをそんな風に見てしまうなんて、私って本当ばか。
自分のばかな思いを押さえつけたくて、智美のための仕事と言う理性的な言葉を頭の中で、ヘビーローテーションさせ、撮った。撮った。撮った。
将之さんたちのバンドの演奏が終わった。
四人並んで、お辞儀をした。
将之さんの少し長いブラウンの髪は汗にまみれている感じだ。
顔を上げた将之さんの顔。額から頬、あごに汗がつたう。
輝いている。表情と言い、何もかもが。
これだからこそ、みんなが中井先輩に憧れるんだ。
そして、やっぱ、私も……。




