第38話 「映画」
俺は今、喜びに震えている。
なぜなら……。
【先輩】 『明日、みんなで映画を見に行かないかい?』
……と先輩からメールが届いたからだ。
ついに、夏休みに先輩と遊べるなんて嬉しすぎる。
俺はテンションが最高潮に達し、部屋で飛び跳ねた。
そして俺が息が切れるほど飛び跳ねたあと、
先輩のメールに返信しようとすると、
さらにメールが届いた。
明日の集合時間だろうか?
なんだろうと思い、俺はそのメールを見た。
【竜崎】 「いいですね、私も行きますわ」
それを見た瞬間、俺の最高潮だったテンションが、
いつも通りまでに落ち着いた。
そうだ、てっきり二人きりだと思っていたが、
竜崎もいるんだった。
だが、この誘いに乗らない理由はない。
俺は少しガッカリしながら、
メールに返信し、
三人で三日後、映画に行くことになった。
そして、ワクワクしたり、竜崎がいることにガッカリしたり、
暇だから勉強したりしていると、あっという間に、
約束の日になった。
俺が朝、待ち合わせ場所のショッピングモールに行くと、
すでに二人が待っていた。
『やあ、枕木君』
「すいません、待たせちゃいましたか?」
「いえ、私達もさっき来たところですわ」
「ならよかったです」
少し話したあと、俺たちは映画館へ移動した。
映画館は夏休みのせいか、人がとても多い。
ポップコーンなどを買おうと思っていたが、
これでは買えなさそうだ。
「すごい混雑してますね、先輩」
『そうだね、早くチケットを取ろうか』
そして、先輩は三人分のチケットを発行した。
どうやら、事前に予約してくれていたらしい。
『はい、これが枕木君ので、こっちがりゅりゅのだよ』
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます先輩。っていうか、予約してたんですね」
『ふふっ、だってきっと混むだろうと思ってから。それに、予約なら三人横並びで座れる可能性も高いしね』
そのまま、俺たち三人は上映時間まで楽しく話したあと、
スクリーンへ入った。
俺たちの席は、端っこのちょうど三個だけ席がある場所で、
通路側に竜崎、真ん中が先輩で、壁側に俺が座った。
しかし、なんだかんだで三人で映画を見るのは楽しみだ。
最初は先輩と二人きりじゃなくて残念だったが、
三人で映画を見るのも、
俺が求めていた青春の一つなのかもしれない──。
『楽しみだね』
「私も楽しみです」
「お、俺も楽しみです」
『ふふ、そうだね。おっと、もう予告が始まるみたいだね』
そう言うと、先輩は口に人差し指を当てた。
静かにということだろうか。
今のポーズの先輩は可愛い。
そして、本編が始まる前の、予告編が始まり、
様々な映画の予告が流れている。
普段触れないような、さまざまなジャンルの映画が見られるこの時間は、
結構好きだ。
そんな予告の時間も終わり、
今度は映画の盗撮に対する注意喚起や、
映画鑑賞のマナームービーを流す時間になった。
……映画館以外の飲食物持ち込み禁止の部分を見ていると、
口が寂しくなって来てしまった。
混んでいなければポップコーンとコーラを買ったというのに。
そして、マナームービーが終わり、
スクリーン内から、映像の音が消えると、
ポップコーンの音や、コーラを飲む音が聞こえてくる。
俺は買えなかったというのに、なんて羨ましい。
いや、妬ましい。
だが、そんなことはもうどうだっていい、
なぜなら、もう本編が始まるから──。
……そういえば、俺は今日なんの映画を見るか覚えていない、
先輩が『二人はなにか見たい映画とかがあるかい?』
と言っていた気がするが、俺はなんでもいいと言った気がする。
先輩と映画に行けるのが嬉しくて、それ以外はあまり考えていなかったのだ。
最終的に竜崎と先輩が話して決めて、
その時も、先輩と竜崎に「本当にこの映画でもいい?」と、
聞かれた気がするが、嬉しさのあまり、なにも考えずにてきとーに返事をした気がする。
チケットに印刷されている文字を見ようにも、暗くて見えない。
まあ少なくとも、俺が嫌な映画ではなかったはずだ……多分。
そんな気持ちを抱えながら、俺は映画を見た──。
──なんだこの映画は?なんてつまらないんだろう。
全ての展開が急だし、登場人物が考えていることもよく分からない。
しかも、飛び抜けてつまらない訳ではなく、
そのせいで、つまらなすぎて逆に面白くなってくるようなこともない。
この映画はとても苦痛だ。
正直、先輩たちと来ていなかったら、途中で帰りたいレベルだ。
どうして、先輩と竜崎はこんな映画を選んだんだ……。
そして、俺は二時間近く耐えきり、
ようやく映画が終わった。
とても……とても長い二時間だった。
映画館から出たあと、
俺たちは映画について話し始めた。
つまらなかったが、なんて言えばいいのだろうか。
『どうだったかな?』
「え、あ、まあよかったんじゃないですか」
俺は当たり障りのないことを言った。
すると、先輩がこちらの顔を見てきた。
まずい、内心つまらないと思っていることがバレてしまう。
「い、いや違うんですよ、これは……」
『ふふっ、隠さなくてもいいよ。あんまり面白くなかっただろう?』
「えっ」
俺は先輩の一言に戸惑った。
『あえて、評価が低い映画に行ったからね』
「えっ」
「私と先輩はあまりにもこの映画の評価が低く、それが気になったので、この映画を選んだんですわ」
「はあ」
『てっきり、枕木君が別の映画がいいと言ったら変えるつもりだったけど、君も見たかったと聞いた時は驚いたよ』
そうだったのか。
俺がなにも考えずに返事をしてしまったせいで、
あんな映画を見させられることになってしまったらしい。
『……もしかして、枕木君は適当に返信してたのかな?』
先輩がこちらを見てきている。
俺は急いで先輩から顔を隠した。
「い、いやそんなことは」
『ふふ、まあいいや。お腹も空いたし、フードコートへ行こうよ』
確かにポップコーンもなにも食べれなかったから、
俺もお腹が空いてきた。
「それ、いいですね」
「私も賛成ですわ」
『ふふ、なら行こうか』
そして、俺たちはフードコートへ行き、
料理を待っている間、映画について話した。
……映画はつまらなかったが、
こうして話している時間は楽しい。
これもまた、俺が求めていた青春なのかも──?




