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「けいと」
「学校まで来たのか」
心配しなくても寄り道なんかはしなかったがまあ悪くない。
あの約束通り、琴美と暁音も付いてきていたがこれなら解放してやることができる。
「や、特にいきたいところとかもないし、離れたりしないけどね」
「私も、けいとが作ってくれたご飯を食べたいからね」
と、嘉子から言われたことを全く守れていない二人のせいで意味はなかったが。
「あ、でも十四時ぐらいになったら暁音と少し出かけてくるわ」
「うん、これは約束していたことだからごめんね?」
「謝らなくていい、自由に行動してくれればいいのだ」
ふむ、全く関係ないものの、おにぎりが食べたくなってしまったから握ることにした。
三人にはオムライスか炒飯を作るつもりでいたのに同じでいいとのことだったので速攻で終わった。
「これ、受験勉強のときに欲しかったな」
「私のお母さんは結構頑張ってくれていたわね」
私のときは父がたまにこうして作ってくれていた。
朝ご飯も夜ご飯も私の仕事で手を出すなと厳しく言っていたのもあって基本的にはなにもさせないようにしていたから新鮮さがすごかった。
もっとも、それにだって可愛げのないことを言ったりもしたがそれでも父は私に負けずに「これぐらいはね」と頑張っていたことになる。
「うぅ、そのときから穴見家に住んでおけばこんなことには……」
「でも、高校も一緒に通えているんだからいいじゃない」
「そうだけどさー……」
現時点で「賢吾さんが好きだなー」などと言っている身だからどうなっていたのかは容易に想像できる。
相手が喜んでくれていれば父も頑張ってしまうため、イライラとはしなくても私は家にいる時間が極端に短くなっていたかもしれない。
「嘉子はこれからね、そのときは私もいとも夜食を作ってあげるわ」
「夜遅くまで頑張れないから私はすぐに寝ちゃうと思う」
「はは、本当はそれが一番なのよ」
余裕がなくなったときに人の本当のところが分かるようになっているものだ。
嘉子はどうなるのか、そういうときでもしっかりしすぎてしまうのもそれはそれで問題だが。
食べ終えた後も腕を組んで一人で考えている間に「それじゃあいってくるわね」と琴美達が出ていってしまった。
「ああ……」
「けいと!?」
な、なんだっ? 急に大声を出されて固まってしまった。
「ふぅ、どうした?」
「……また倒れちゃったのかと思った」
「ああ。すまない、紛らわしいことをしてしまったな」
明日から冬休みということも影響していたのだろう、なにかが抜けてしまったのだ。
あとは母親みたいに小言が多い琴美が出ていったのもあってでろーんとなったのだ。
「私だけ知らないのは嫌だよ……」
「嘉子にだけ隠していることなどない、だから大丈夫だ」
「ほんと……?」
「ああ、琴美と暁音に隠していることならあるがな」
これはもう少しぐらい時間が経過してからでなければ言えないなあ。
「それはなに?」
「実は私の方が嘉子といたがっているということだ」
「けいとはやっぱり嘘つきだ、だってそれを私に言ってくれていないからね」
いま言ったのだから嘘つきではない。
体を起こして嘉子の頭を抱くと「く、苦しいよ」と、だがいまは仕方がないのだ。
だってこれは分かりやすく恥ずかしいことだ、琴美なんかに言えるわけがないのだ。
「さ、中学生の時間を奪っていないで冬休みの課題でもしてくるか」
その前に洗い物をやってからではあるが。
しかしなんだ、どうして私はまた寝転がっているのか、嘉子を見上げているのか。
「駄目、離さない」
「そうか、それならまた夕方くらいまで寝るか?」
「ううん、けいとが受け入れてくれるまで離さない」
「だから誕生日の件は――」
「そういうのじゃない、私はけいとが好きだから誰にも渡したくないの」
曖昧な状態のままでもそれは叶っているように見えるが。
琴美には暁音が、暁音には琴美がいていま正に仲良く出かけている状態で私達だけがここにいる。
学校でも同じだ、学校では他の同性や異性と仲良くしているわけでもないし、考えすぎても意味もなく疲れてしまうだけなのに。
「私はけいととそういう関係になりたい」
「私なんていつでもいるだろう?」
「それだけじゃ足りないの」
二人きりなのをいいことに変なことをして相手がその気になったところで受け入れようとしないのは屑ではないだろうか。
「分かった、だがお母さんにちゃんと話をしにいかないとな」
「もうそのことは言ってあるよ、あとはけいとに受け入れてもらえるかどうかだった」
「はは、振られていたらどうしていたのだ?」
「それなら受け入れてもらえるまで延々とくっつき続けてた」
「はは、怖いな」
怖いのは私だがな。
まあ、この件は「分かった」と受け入れたのだからこれ以上は考えるのをやめよう。
「今日琴美と暁音がお出かけすることになったのは私のせいなんだ」
「そうだったのか」
「元々動くつもりだったけどけいとが抱きしめてきて抑えられなくなった」
「抑える必要はない、これからも出していけばいい」
「それならこれからは私はけいとのお部屋で寝るね」
高頻度で行われていたことだからそうなっても驚きはないな。
きっとここに「一緒にご飯を作りたい」とか「一緒にお風呂に入りたい」が加わっていくだろうがそれも大丈夫。
「一日に一回は抱きしめてほしい」
「あ、ああ」
「あとは――」
「そう欲張らないの、ゆっくりやっていけばいいじゃない」
「確かにそうかも」
遠くまで出かける気はなかったみたいですぐに戻ってきてくれたのは助かった。
父もいたのは謎だったが……。
「僕も嘉子ちゃんから教えてもらっていてね、気になりすぎて少し時間を貰ったんだ」
「……上手くいっていなかったらどうしていたのだ?」
「その場合は嘉子ちゃんに元気になってもらいたいからどこかに連れていっていたかな」
その場合はこちらも相手を振ることになって精神ダメージを受けているわけだから考えてもらいたいところだが。
でも、これは前にも言ったように実の娘よりも可愛いのだから仕方がないか。
それにダメージ量なら振られた側の方が大きくなるのは分かりきっていることだからな。
「誘拐だー」
「怪しいわね」
「だから僕は元気になってもらいたくて――」
「はは、冗談よ」
「そうそう、冗談だよー」
父もそろそろ学習をして「心配だからだよ」などと言って躱せるようにならなければならない。
「と、とにかく嘉子ちゃん、けいと、おめでとう」
「嘉子おめでとう、いとをその気にさせるなんてあんたはプロよ」
「嘉子ちゃんおめでとー」
「ありがとうみんな」
ここでにこっと笑えるから嘉子は気にられるのだ。
それなのに私はなんなのか、ありがとうと言って笑うべきなのに素直になれず、恥ずかしがってお礼も言えずにいる。
「そんなに怖い顔をしてどうしたの?」
「いや、ありがたい話だ」
「そうね、私としてもいとがずっとそういうことに興味を持てないのはもったいないと思っていたから嘉子がいてくれるのはありがたいわ」
なにか勘違いされているが進めてくれたことにも感謝だ。
「けいと、私はちゃんといるからね」
「ああ、これからもよろしく頼む」
嘉子は本当にいい子だな。
何故私なんかを選んでしまったのか、琴美と暁音の仲が完璧すぎなければまた変わっていたのだろうか?
でも、琴美か暁音と自分が上手くいっているところは想像できないからこれでよかったのかもしれない、なんて考えた。
「私は邪魔しちゃーう」
「私も、放置されるとかごめんだからね」
「僕は……見ているだけにしておくよ」
まあ、父に本気になられても困るだけだからそれが一番だ。
これも上手く切り替えてやっていくしかなかった。




