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クローバーをお前に  作者: 和知つばき
リベンジは熱いうちに打て
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 やはり、やはりそうか……

 先の質問は通常であれば“何の”味方か分からない、私が敢えて言わなかったのだから。だが彼は答えた。だからこそ、私の疑問は確信へと近づく。


 リンネは化物。


 それはキョウジ隊長も知っている。そして一色隊長も全てを知って隠しているのだ。密告もせず、……二人を守っている、のか?じゃあ何で私に賭けを持ちかけたんだろう。


「フフ、君は賢い子だ」


 私の顔を読んだ一色隊長が余裕を含ませ呟いた。


「赤井さんは疑っている。朝霧リンネが人間ではないことを」


「!?」


 私は目を丸くして続く言葉に耳を澄ませた。


「貴方がどう思おうと、この疑いは口に出さないことです。友人を犯罪者にしたくはないでしょう?」


「犯、罪者……」


「“もし”彼女が人間と偽って公的機関に所属するとなれば、それは犯罪ですよ。どうしますか、……貴女は糾弾しますか?それとも僕と同じ──味方になりますか?」


 また取引だ、しかも弱味を握られた取引だ。流れるような会話の主導権はずっと彼に握られている。やっぱりこの人は取引が上手なのだ。


「それは私に拒否する権利、ないじゃないですか……」


「貴女は僕にもよく似ている、だから操りやすいのですよ」


 この人は何手先を読んだんだろう。今思えばわたしが賭けに勝つことまで分かって、吹っ掛けたように思う。

 私には拒否する事などできない、拒否など最初から考えていない。彼女は私のバディで、命の恩人なのだから。


「それに僕は待っていたんです、貴女みたいな人を。ほらキョウジ君は誠実な人間ですが、それが隠し事をオープンにしてしまうかもしれない。リンネさんはお馬鹿さんでしょう?それを近くで見張って何かあれば処理できるような人が必要なのですよ」


 それが私に求められる期待。バディとして彼女を支える私の役目。

 ……ならばなろう、その役目は私に与えられたものだ。

 リンネが余計なことを言ったのならば私が誤魔化そう。キョウジ隊長の態度が怪しく見えるのならば私が誘導しよう。


「……私は、力を以って戦うことができません。でもリンネを守る盾になります!」


「フフフ。……ではこれで僕たち、共犯ですね」


 そうして私は彼女らが知らぬ間に共犯となった。



「そうと決まれば避ける動作の精度を高めましょう。このままじゃ貴女すぐ死んでしまうので、長く生きてもらわねば」と遠慮を感じない一色隊長は鍛錬を続ける気だ。また三メートルの距離を取ろうと歩く。人狼だけじゃない、これから出会う化物に殺されないための、長く彼女といるための鍛錬。


 一度避けられたからとはいえ、何度も避けられる訳ではない。私は幾度もトライアンドエラーを続け、鍛錬が終わる頃には十回やって三回、避けられるようになっていた。


「一色隊長、ありがとうございました!」


「いえ、隊長ですから当然ですよ。ああ、でも付け加えると避けた後はすぐに対象から距離をとってくださいね。一撃でも避ければ、仲間が助けに入る隙がつくられる。そしてその場から逃げればまた戦闘が始まり、外に居る貴女は捕獲器具を準備しなければならない。逃げて、逃げて、時を待つ。捕獲道具の使用、管理も貴女の仕事ですからね」


「はい」


 私のリュックから捕獲器具がカチャリと動く。初任務では出番のなかったコレを明日は使うのだろう。気が逸るのが分かる。鼓動が指にまで伝わってそわそわする。


 明日、私たちの仕事はルート監視。私の目に人狼が映れば、それが捕獲の号令だ。もうクヨクヨとはしていられない!あの日とは状況が違うんだ。

 何重にも意味を成した人狼の捕獲に(ほぞ)を固めた。



 前衛タイプと後衛タイプに分かれた隊員達はどうやら模擬戦をしているらしい。


「前衛対後衛……中々面白い」


「いや僕的にはまだ戦うなんて早いかなとか思ったり、どうせ僕が教えた事なんて役になんか立たないし、どうしよう僕のせいで子供達が怪我でもしたら……ああ〜」


 キョウジ隊長と和泉隊長が隣同士で話している。長身で横幅も大きいキョウジ隊長に比べて、和泉隊長は少し小柄だ。

 警務部所属、和泉隊の隊長。ジン君と片瀬君の上司。そのくらいしか私には分からないが、会話を聞くに小心者かつ心配性なのだろう。模擬戦中だというのにずっとぶつぶつ呟いている。


「おや、カラーですか。懐かしいですね」


 カラー、その名前の通りゴム製武具に塗料を付けそれを用いて戦闘をする。服や身体に色がつけば退場する模擬戦だ。

 皆其々自分の武器に似たゴム製武具を使っている。例えばモモの銃は中身が塗料で作られた弾だ。何発か放った銃口は黄色く、腰につけたゴム製ナイフも黄色の塗料が付いている。


 モモは縦横無尽に駆け回り、片瀬君を追い詰める。死角である後方からペイント弾を何発も打ち込む。


 パン!パン!


 それをツキコが太く生やした茨でガードした。

 ツキコがモモの弾に気を取られていると、今度はジン君が逆袈裟斬りでバリケードとして設置してあった薔薇を叩っ斬る。ジン君持つ刀の切先が突きの構えに……。だがそれを片瀬君が鎖鎌で絡め取った。動きが止まるジン君に銃を向ける。


「あれ、リンネは退場したんですね」


「ああ、あいつはチームワークが壊滅的でなぁ……一人で突っ込んでツキコに捕らえられて、ハクヤの鎌ででっかいバツつけられて退場だよ」


 既に退場したリンネと㷔硝岩コタロウ、榊リヒトが見学にまわっていた。戦いたくてウズウズしているリンネは、腹に描かれたバツを拭ぐっている。


「おーほっほっ!わたくしがいるチームが負けるはずありませんのよー!」


 上空から落ちてくるユリが斧を構えて、ツキコ目掛け飛び降りてくる。変形する自前の武器とは違い、今回使うのは大きさも違う斧のみ。今持っている斧はいつもより小ぶりだ。

 だがその斧に向かってボールに見える何かが投げられてくるではないか!


「いけ!僕の煙幕!」


 犬丸ユタカがそう発したボールは、見事にユリの斧に当たる。素晴らしいコントロール力であったが、彼が投げたボールが弾けると煙ではないものが溢れてきた。


「きゃ!なんですのコレ!!」


「あ……」


 ツキコが用意したガード用の茨にユリの斧が当たると


 ツルッ


 滑ってしまう。


「まっ間違えて油入れちゃったー!」


 ポタポタと落ちる油がユリの制服を汚していく。


「何やっているのです!ユタカ!!」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜!」


 ユリは標的を変えて犬丸ユタカへ突っ走る。その姿、鬼の形相である。

和泉ワタル

32歳。警務部和泉隊の隊長。もっさりとした髪がトレードマーク。キョウジ達が平隊員時代優秀だった為、それらと毎度比較され胃が痛かった過去がある。

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