7 差出人
以降のシュトラウスが、フレデリカを守るための会議でぼーっとすることはなくなった。
落ち着きと判断力を取り戻したシュトラウスの姿に、アルフレドなどには「やっとか」とにやりとされたものだ。
この日も、シュトラウスたちは結婚式に向けての対策会議を行っていた。
場を取り仕切るのは、第一王子であり、密告の手紙を受け取った張本人でもあるアルフレドだ。
「この手紙から読み解ける通り、一般解放された庭から、バルコニーにいる姉さんを狙うとして……。そんな遠距離を狙えるものが、厳重な持ち物検査をクリアできるのでしょうか? 正規の入場ルートは使わずに侵入してくる可能性が高いとみています」
「そうだな。その通りだが……。アルフレド。そろそろ、話してくれてもいいんじゃないか?」
「話す、とは」
「もうわかっているんじゃないのか。手紙の差出人が誰なのか」
「……」
「特別な経路を使って、お前宛てに届けられた手紙。お前も、ずいぶんと送り主を信用しているように思える。相手が誰なのか、わかっているんだろう?」
フレデリック王の言葉に、アルフレドは言葉に詰まる。
少しの沈黙のあと、王に言葉を返す彼の表情は、苦しそうだった。
「……今それを話してしまったら、本人の身に危険が及ぶ可能性があります。差出人と思われる人物は、二人の結婚式に出席する予定です。当日、保護させてください」
「……そうか。わかった。姉を愛するお前のことだ。それがフリッカのためにもなると思っての判断だろう。差出人に関することについては、お前に任せよう」
「……ありがとうございます」
王の言う通り、アルフレドは既に、手紙の差出人が誰なのか理解していた。
本当は、一通目の時点でわかっていたのだ。
これは、ルーナから送られてきたものであると。
筆跡は少し変えてあったが、アルフレドにはすぐにわかった。
長年彼女に片思いしてきたのだ。ちょっとやそっとでは、アルフレド相手に正体を隠すことなんてできはしない。
それに、毎回封筒に貼られている青いシール。
ルーナの髪色と同じそれは、アルフレドに対して、自分からの手紙であると主張しているように思える。
おそらくだが、アルフレドに差出人を知られるぶんには問題ないのだろう。
彼女が懸念しているのは、きっと、嫁ぎ先であるイヴェルク王国の人間に、密告の事実を知られることだ。
ルーナは今、婚約者のいるイヴェルク王国で暮らしているはずだ。
そんな彼女から、フレデリカが危ない、狙われている、ととれる内容の手紙が届くということは……。
イヴェルクの人間が、リエルタの王女であるフレデリカの暗殺をもくろんでいることになる。
これが事実であれば、大きな国際問題に発展する。最悪の場合、戦争が起きるだろう。
姉のため、ルーナのため、国のため。暗殺は、絶対に阻止しなければいけなかった。
「……アルフレド様。遠距離から狙うことができ、持ち物検査もクリアできる武器について、心当たりがあります」
ぐっと拳を握るアルフレドに声をかけたのは、シュトラウスだった。
「……仕込み銃?」
「はい」
アルフレドの問いかけに、シュトラウスは頷く。
ストレザン領は国境と隣接しているため、どうしても治安が悪くなりがちだ。
罪を犯し他国へ逃亡しようとする者、密輸品を運ぼうとする者など……。
国境付近で悪さをしようとする人間は、あとをたたない。
国の中心部に近い位置にある王都とは、少々異なる警戒が必要となる。
シュトラウスは王都に拠点を移して長くなるが、いずれはストレザン領を継ぐ男だ。
王都とストレザン領を定期的に行き来しているし、情報も入ってくる。
国境を行きかう怪しい品々に関しては、王やアルフレドよりも詳しかった。
「領地に戻ったときに、実物を見たことがあります。見た目は、普通の杖や傘ですが……。中に銃が仕込まれていて、発砲も可能です。俺が見たものは出来の悪い粗悪品でしたが、王女暗殺に使うとなれば、それなりの精度のものが持ち込まれる可能性もあるかと」
銃そのものは以前から存在しているが、所持や製造を厳しく制限されており、一般には流通していない。
各国が互いに目を光らせて監視しているため、表立って製造所を持つこともできない。
広大な領地を治める家の次期当主であるシュトラウスすら、ほとんど触ったことがないような代物だった。
だが、裏の世界で作られた、威力の低い粗悪品が出回っていることは確認されている。
仕込み銃はさらに制作難易度が上がるため、シュトラウスが見たそれは、とても使えたものではなかった。
しかし、王女暗殺という目的のために作られたものであったら……。
仕込み銃であっても、それなりの威力や射程を有していると考えられる。
「式当日は、国境の守備を担当する兵をストレザン領から招集します。彼らはそういった密輸品にも詳しく、洞察力にも優れています。怪しい動きをする者がいれば、すぐに気が付くでしょう」
「ああ。頼む」
そのまま、シュトラウスは当日の警備や考えられる危険について話を進めていく。
彼はもう、怯えて黙りこくるだけの男ではなかった。




