8 他国にて
リエルタの男たちが暗殺の阻止に向けて動く中、イヴェルクでは、ルーナが必死に情報を集めていた。
形は歪だが、婚約者のテネブラエは、ルーナのことを愛しているようだった。
彼とは数度顔を合わせただけで、愛されるような理由に心当たりはなかったが、毎日のように送られる花々や愛の言葉が、彼の気持ちを表している。
ルーナは、彼に惚れたふりをしてテネブラエの懐に入り込み、リエルタでなにをするつもりなのか聞き出していた。
騙すようで悪いが、アルフレドが罰を受ける、苦しむ、なんて言葉を聞いてしまっては、手段を選んではいられない。
情報が入り次第、以前アルフレドに教えられた緊急用のルートを使い、彼に手紙を出した。
リエルタに情報を流していると知られないよう、手紙は慎重に取り扱い、内容もぼかした。
イヴェルクの風習の関係で、二人の寝室が別に用意され、就寝時間は部屋の行き来もないことが幸いし、なんとかここまでやってこれた。
自分だとわかるように、封筒には青いシールをつけた。
アルフレドはきっと、差出人が誰なのか気が付いてくれる。手紙を読み解き、真意を理解してくれる。
そう信じて、ルーナは危険と隣り合わせの諜報を続けていた。
そうするうちに、わかってきたことがある。
テネブラエは、リエルタの第一王子であるアルフレドのことをたいそう嫌っている。
ルーナに近づくストーカー、危険な男だと言って、アルフレドからルーナを守ると話すのだ。
さらには、アルフレドの姉で、ルーナの親友であるフレデリカのことも敵視していた。
テネブラエから見たあの姉弟は、ルーナを洗脳して自分のものにしようとする悪い人間のようだ。
もちろんルーナは洗脳などされていないし、彼らを大好きだと思うのは、紛れもない自分自身の心だ。
テネブラエがどうしてそんな風に思ったのかは、ルーナにもわからない。
ただ、彼があの姉弟を心底嫌っていることは、確かだった。
テネブラエは、ルーナをリエルタの姉弟から解放することを望んでいる。
流石の彼も、王女暗殺についてはっきり話すことはしないが、言葉の端々から、計画の形が見えてくる。
結婚式の際、王城の庭が解放され、フレデリカがバルコニーに姿を現すタイミングを狙い、王女を暗殺。
そうすることで、ルーナを縛る人間が一人減る。
フレデリカを殺せば、姉を愛するアルフレドは苦しむ。
愛する人を失う苦痛を味わわせることが、彼への罰になると考えているようだった。
テネブラエの話を聞いた限りでは、この暗殺計画は私怨で動いているように思えた。
けれど、テネブラエの憎しみを利用して、彼を操る者がいないとも限らない。
下手をすれば、裏にいるのがイヴェルクという国である可能性も存在している。
そうなると、ルーナがイヴェルクの人間を信用することもできなかった。
イヴェルク王国が主導する計画だというのに、イヴェルクの人間に助けを求めてしまった場合。
アルフレドたちになにも伝えられないまま、ルーナは消されるだろう。
故郷のハリバロフも、ルーナにとって安心できる相手ではない。
密告をしたって、真意に気が付いてもらえると思えない。
わかってもらえたとしても、知らないふりをされるかもしれない。
ルーナが頼れるのは、信じられるのは。狙われている当人である、アルフレドたちだけだった。
返信などできるはずもないから、手紙が無事に届いているのかどうかすら、ルーナは知らないままだ。
けれど、自分にできることをするしかなかった。
大切な人たちの無事を願い、彼女は今日も、婚約者に笑顔を向ける。




