11 開いていく距離
両者、それ以上言葉を紡げず、玄関で立ち尽くす。
そのうち、シュトラウスが室内の時計へ目をやり、
「ごめん、フリッカ。そろそろ……」
と、暗に退室を促した。
今は、就業前の朝の支度の時間。
いつまでもフレデリカにいられると、仕事に遅れてしまうのだろう。
フレデリカにもそれは理解できたから、寂しい気持ちを抱えながらも頷く。
「忙しい時間帯にごめんなさい。じゃあ……またあとで」
自分の言った「あとで」がいつを指しているのは、フレデリカにもわからなかった。
この日以降も、フレデリカはシュトラウスに気まずさを感じ続け、彼から距離をとった。
隣国の令嬢・マリエルとのキスの真相についても、なにも聞けないままだ。
シュトラウスから話しかけてくることもほとんどなく、ほっとすると同時に、やはり自分は彼にとってその程度の存在なのだと、落胆した。
***
離れから立ち去るフレデリカが見えなくなってから、シュトラウスは大きく息を吐く。
昨夜、フレデリカを救出したシュトラウスは、彼女を王たちに預けたら、自分は離れに戻った。
フレデリカのそばにいてもいいと言われたが、断って。
無理にでも彼女を自分のものにしたい、自分という男を刻み付けたいだなんて思ったあとに、彼女の近くにいることはできなかった。
自分を抑え続ける自信がなかったのだ。
あんなことがあったあとだから、今日のうちにフレデリカに会うことになるだろうとは思っていた。
だが、執務室ではなく離れのほうに来られたときは焦った。
王城の敷地内とはいえ、ここはシュトラウスが一人で暮らす家だ。
シュトラウスにしてみれば、男の一人暮らしの家に、自分のものにしたくてたまらない女性が一人で訪ねてきたことになる。
室内に招き入れてしまったら。二人きりになってしまったら。
怖い目に遭ったばかりのフレデリカに対してなにをしでかすか、わかったものではない。
だから、中には招き入れず玄関に立たせ、わざとらしく時計を見て彼女を帰らせた。
暗く重い欲望が彼女にはっきりと向けられた今、シュトラウスはもう、フレデリカにとって安全な人間ではない。
それぞれ理由は違うものの、シュトラウスもまた、フレデリカを避けるようになった。
彼は元々フレデリカと距離をとっていたから、元に戻っただけとも言える。
同じ敷地内に住む婚約者だというのに、二人の距離はどんどん開いていく。
いつしか、フレデリカ王女が愛人を求めている、なんて噂も出始めて。
その噂を知ったとき、シュトラウスは黒い感情に飲み込まれそうになりながらも、彼女が自分の意思で相手を探し始めたことに、安堵した。
彼女を縛らず、傷つけず、自由にさせる。
夫は自分になるだろうが、フレデリカの心は、本人が望む相手に渡せばいい。
だから、これでいいのだ。




