6 始まる仲良し大作戦
「どうだった?」
後日、ルーナとの秘密のガールズトークにて。
あの日――ルーナが退室し、フレデリカとシュトラウスが二人きりになった日のことだ――について、ルーナはわくわくした様子で質問を投げかけた。
最初こそ、
「シュウってやっぱりすごくかっこよくて」
「若いのに仕事もできるし、本当にすごいの」
「忙しいのだって、みんなに頼りにされてるからだし」
「それでね、それでね」
と、元気いっぱいに話していたフレデリカであったが――。
だんだんと声がしぼんでいき、
「触ってくれなかった……」
と哀愁たっぷりにテーブルに突っ伏した。
ルーナからすれば、見慣れた光景である。
フレデリカは、残念なことや悲しいことがあると、こうしてぺしゃっとする癖がある。
ルーナは、自分がその癖を知る数少ない人間であることに、若干の優越感を抱いていたりする。
「触ってくれなかったって、どういうこと?」
フレデリカのつむじを眺めながら、ルーナが紅茶を口にする。
優雅なルーナとは対照的に、フレデリカは今もテーブルとお友達だ。
「頭を……」
「頭を?」
「撫でてくれるのかと、思ったの」
「ほほう」
「シュウの手が伸びてきて、私の頭に触れそうになって……。触らなかった」
「触らなかったかあ……」
「触らなかったのお……」
弱々しい声ではあるが、本人の気持ち的には悲痛な叫びである。
シュトラウスはあの日、フレデリカの頭に手を伸ばして……触ることなく、ひっこめた。
彼の動きは、フレデリカだってしっかり見ていた。
あの時、フレデリカは期待したのだ。幼い頃にように、自分の頭を撫でてくれるのではないかと。
しかしそうはならず。指一本触れることなく、シュトラウスは自分の元を去ってしまった。
触れてもらえなかったこともそうだが、以前とは違うのだと突きつけられたようで、悲しかった。
「シュウ……」
フレデリカは過去の彼との温かな記憶まで思い出し、現状と比較してしまい、もう、ぐすぐすと泣き出しそうな勢いである。
一方、フレデリカのつむじと会話する状態のルーナは、やっぱりなにか変だなあ、と思っていた。
そもそも、シュトラウスはフレデリカの頭を撫でるつもりだったのだろうか。
過去の二人が、そういった触れ合いを多々行っていたことは知っている。
けれど、今は成人した者同士の婚約者。シュトラウスに至っては25歳である。
子供扱いして頭を撫でるよりは、髪に触れるほうが年相応というか……それっぽい、気がする。
それに、頭を撫でるにしろ、髪に触れるにしろ、婚約者という仲なのだから、それくらいの触れ合いをしたってなにもおかしくない。
シュトラウスのほうからフレデリカに触れようとしたのに、途中でやめた。
それは、どうして?
考えてみるが、ルーナはシュトラウスとは別の人間だから、答えは出ない。
シュトラウスにはシュトラウスの考えがあるのかもしれないが、このままでは、彼のことで悩み続けるフレデリカが可哀相だ。
「ねえ、フリッカ」
「なあに……?」
テーブルに顎をつけたまま、目線だけをあげるフレデリカ。
シュトラウスとの関係について悩み始めてしまい、まだ元気が出ないのだ。
そんなフレデリカに、ルーナはいたずらっぽく笑いかける。
「シュトラウスに、もっと仕掛けてみない?」
「しかける……?」
「アタックするのよ! シュトラウスに」
「あたっく」
「そう、アタック!」
ぽかんとするフレデリカと、ぐっと拳を握るルーナ。
二人とも青い目をしているが、瞳に映された感情は、まったく異なるものだった。
ルーナは思うのだ。
フレデリカのほうからもっと大胆に動いても、悪いことにはならない、と。
シュトラウスがフレデリカのことを嫌っているはずがない。
むしろ、フレデリカを可愛く思っているはずだ。
それが恋愛感情でなかったとしても、今までに見聞きした感じであれば、フレデリカが押せば突破できそうである。
ならば攻勢に出てしまえばいい。
「仲良し大作戦、発動よ!」
「お、おー……?」
ルーナの勢いに押され、片手をあげるフレデリカ。
仲良し大作戦。わかりやすいが、微妙なネーミングセンスであった。




