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【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~  作者: はづも
2章

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6 始まる仲良し大作戦

「どうだった?」


 後日、ルーナとの秘密のガールズトークにて。

 あの日――ルーナが退室し、フレデリカとシュトラウスが二人きりになった日のことだ――について、ルーナはわくわくした様子で質問を投げかけた。

 最初こそ、


「シュウってやっぱりすごくかっこよくて」

「若いのに仕事もできるし、本当にすごいの」

「忙しいのだって、みんなに頼りにされてるからだし」

「それでね、それでね」


 と、元気いっぱいに話していたフレデリカであったが――。

 だんだんと声がしぼんでいき、


「触ってくれなかった……」


 と哀愁たっぷりにテーブルに突っ伏した。

 ルーナからすれば、見慣れた光景である。

 フレデリカは、残念なことや悲しいことがあると、こうしてぺしゃっとする癖がある。

 ルーナは、自分がその癖を知る数少ない人間であることに、若干の優越感を抱いていたりする。


「触ってくれなかったって、どういうこと?」


 フレデリカのつむじを眺めながら、ルーナが紅茶を口にする。

 優雅なルーナとは対照的に、フレデリカは今もテーブルとお友達だ。


「頭を……」

「頭を?」

「撫でてくれるのかと、思ったの」

「ほほう」

「シュウの手が伸びてきて、私の頭に触れそうになって……。触らなかった」

「触らなかったかあ……」

「触らなかったのお……」


 弱々しい声ではあるが、本人の気持ち的には悲痛な叫びである。

 シュトラウスはあの日、フレデリカの頭に手を伸ばして……触ることなく、ひっこめた。

 彼の動きは、フレデリカだってしっかり見ていた。

 あの時、フレデリカは期待したのだ。幼い頃にように、自分の頭を撫でてくれるのではないかと。 

 しかしそうはならず。指一本触れることなく、シュトラウスは自分の元を去ってしまった。

 触れてもらえなかったこともそうだが、以前とは違うのだと突きつけられたようで、悲しかった。


「シュウ……」


 フレデリカは過去の彼との温かな記憶まで思い出し、現状と比較してしまい、もう、ぐすぐすと泣き出しそうな勢いである。

 一方、フレデリカのつむじと会話する状態のルーナは、やっぱりなにか変だなあ、と思っていた。


 そもそも、シュトラウスはフレデリカの頭を撫でるつもりだったのだろうか。

 過去の二人が、そういった触れ合いを多々行っていたことは知っている。

 けれど、今は成人した者同士の婚約者。シュトラウスに至っては25歳である。

 子供扱いして頭を撫でるよりは、髪に触れるほうが年相応というか……それっぽい、気がする。


 それに、頭を撫でるにしろ、髪に触れるにしろ、婚約者という仲なのだから、それくらいの触れ合いをしたってなにもおかしくない。

 シュトラウスのほうからフレデリカに触れようとしたのに、途中でやめた。

 それは、どうして?

 考えてみるが、ルーナはシュトラウスとは別の人間だから、答えは出ない。

 シュトラウスにはシュトラウスの考えがあるのかもしれないが、このままでは、彼のことで悩み続けるフレデリカが可哀相だ。


「ねえ、フリッカ」

「なあに……?」


 テーブルに顎をつけたまま、目線だけをあげるフレデリカ。

 シュトラウスとの関係について悩み始めてしまい、まだ元気が出ないのだ。

 そんなフレデリカに、ルーナはいたずらっぽく笑いかける。


「シュトラウスに、もっと仕掛けてみない?」

「しかける……?」

「アタックするのよ! シュトラウスに」

「あたっく」

「そう、アタック!」


 ぽかんとするフレデリカと、ぐっと拳を握るルーナ。

 二人とも青い目をしているが、瞳に映された感情は、まったく異なるものだった。


 ルーナは思うのだ。

 フレデリカのほうからもっと大胆に動いても、悪いことにはならない、と。

 シュトラウスがフレデリカのことを嫌っているはずがない。

 むしろ、フレデリカを可愛く思っているはずだ。

 それが恋愛感情でなかったとしても、今までに見聞きした感じであれば、フレデリカが押せば突破できそうである。

 ならば攻勢に出てしまえばいい。


「仲良し大作戦、発動よ!」

「お、おー……?」

 

 ルーナの勢いに押され、片手をあげるフレデリカ。

 仲良し大作戦。わかりやすいが、微妙なネーミングセンスであった。


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