7 第一王子と隣国の姫
仲良し大作戦の発動を決定し、上機嫌なルーナ。
青く長い髪を揺らし、どうやってフレデリカとシュトラウスをくっつけようかと考えながら、王城を散歩していた。
とはいえ、彼女は他国の姫。友好国からの交換留学生であっても、どこでも好き勝手に動けるわけではない。
彼女が自由に行動できる範囲は、限られていた。
定められたエリアから出るときは、リエルタ側の人間をそばにおかなくてはいけない。
言ってしまえば、監視である。
やましいことはないが、エリア外に出ますといちいち申し出るのも、使用人とともに歩くのも面倒だったため、彼女は指定されたエリアで自由時間を過ごすことが多かった。
だから、王城の広い敷地内であっても、ルーナを見つけ出すのは簡単だ。
ルーナお気に入りの散歩コースに入った頃だった。
この辺りは、ルーナ曰く、お花いっぱいで明るい庭園! 噴水! それを眺めながら歩ける廊下! 素敵! とのことである。
「穏やかでいい天気だわ~」
るんるんのルーナを、一人の青年が待ち受けていた。
赤みの強い茶髪に、深紅の瞳。髪も瞳も青いルーナとは、正反対のような色の持ち主だ。
噴水前のベンチに腰かけていた彼は、ルーナが通りかかったタイミングを見計らい、彼女に向かって軽く手を挙げる。
「ルーナ!」
「あら、アルフレド?」
アルフレドと呼ばれた青年は、ちょいちょいと手招きし、ルーナを自分の隣に座らせた。
青年の隣にちょこんと座ったルーナは、なあに? と言いたげに彼を覗き込む。
ここはルーナの散歩コース。彼は自分に用があってここにいたのだろうと、なんとなくわかっているのだ。
「また姉さんと話してたんだって?」
「ええ。そうだけど……。まさか、女二人の秘密の話を聞き出すつもり!?」
「や、ちが……。そうとも言えるかもしれないけど……」
「いやだわこの国の王子様ったら。姫同士の大事な話に興味があるなんて」
「ごめんって……。いやこれ、僕が悪いの?」
「悪いわ……。とっても悪いことだわ……」
「ええ……」
そこまで話すと、二人揃って吹き出し、笑いだす。
ルーナと笑い合うこの青年こそが、リエルタ王国の第一王子、アルフレドだ。
腹違いではあるが、フレデリカの弟でもある。
赤みがかった髪と深紅の瞳は、この国の王族に出やすい色なのだ。
フレデリカの銀の髪と青い瞳は、側妃である母親譲りのものである。
「それで? 姉さんとはシュトラウスの話をしてたの?」
「ええ。詳しいことは言えないけれど……。婚約者のことが大好きなフリッカは可愛いわ」
「そう……」
ルーナの答えに、アルフレドは面白くなさそうにする。
アルフレドは、シュトラウスに対して複雑な感情を抱いていた。
決して、シュトラウスという個人のことが嫌いなわけではないのだが……。
大切な姉さんに想いを向けられながら、それをしっかり受け止めていないように見えるシュトラウスに、なんとなく腹が立っていた。
第一王子アルフレドは、姉であるフレデリカのことが大好きなのである。
フレデリカは、王の第一子だった。けれど彼女のあとに、正妃の子である男児の自分が生まれてしまった。
アルフレドのせいで、フレデリカは肩身の狭い思いをしたのだ。
なのに、フレデリカはアルフレドのことを責めたりしない。
アル、と呼んで、笑顔を向けてくれるのだ。それは、今も昔も変わらない。
シュトラウスが幼いフレデリカを守ったことは知っているが、それはそれとして、姉の婚約者というポジションの男が気に入らない。
まあ、一言にしてしまえば、嫉妬である。
アルフレドのそんな思いを、なんとなくだが知っているルーナは、彼の肩をぽんと叩く。
「ごめんなさいね、弟くん……」
「な、なに!? なんなの!?」
急に哀れみの視線を向けられたアルフレドは、なに!? と繰り返していた。
ルーナは知っている。これから仲良し大作戦が始まることを。……始めると、決めた人だから。
きっと二人は、想いを通じ合わせた婚約者となることだろう。
そのとき、お姉ちゃん大好きな弟くんは、きっと、悔しがる。
「そのときは、慰めてあげるわ……」
「だからなに!?」
なんともマイペースな姫、ルーナ。
彼女が留学してきて以来、よく振り回されているアルフレドであるが、アルフレドから彼女の行動範囲に入っていくのだから、それなりに楽しんでいるのだろう。




