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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
9/83

第3話 ①

「で、また三浦さんが後輩連中に駄菓子を奢らされたんですよ」

「あはは、三浦くんって本当に優しいねー」

「今度三浦さんに言っておきましょうか? 豊原先輩にも奢ってあげてくださいよって」

「ふえっ!? い、いや、いい! 言わなくていいからね!」

 ……? なんだろう、この違和感。二人の間に何かあったのかな?

「どうしてそこまで強く拒否するんですか?」

「えぇ!? べ、別になんにもないけど? やだなぁ」

 もしかして、豊原先輩は三浦さんを避けているんじゃ?

 うーん、今度三浦さんに聞いてみようかなぁ?

 っと、噂をすれば影とやらだな。

「三浦さーん! おはようございます!」

「あぁ、おはよう高坂君。あっ、豊原さんもおはよう」

「えっ、あ……お、おはよ……」

 朝の昇降口。

 豊原先輩と会ったので一分前後ではあるけど他愛のない会話をしていたところ三浦さんが来てからすごく微妙な雰囲気になっておりますです、マル。

「じゃ、じゃあ俺は先に教室に行きますね」

「そう? じゃあ豊原さん、僕たちも途中まで一緒に行こうか」

「えっ! う、うん――あ、いや……私は用事があるから先に行っててっ!」

 そう言うと豊原先輩は校舎裏の方へと走って行ってしまった。

 すごい速さだ。しかし、校舎裏って自転車置き場があるけど豊原先輩は自転車通学ではないんだけどなぁ。

 三浦さんと教室までの道程みちのりを歩く。

 今が豊原先輩のことを聞く絶好のチャンスなんじゃないのか?

 そう思い三浦さんに聞いてみた。

「豊原さんとは何度か喋ったことはあるけど、怒らせた記憶はないなぁ」

「そうなんですか? 豊原先輩、三浦さんと会いたくなさそうにしていたので」

「そうか、ありがとう。機会があればそれとなく聞いてみるよ」

 余計なお世話かもしれないけど、一応三浦さんにはさっきの出来事を話しておいた。

 何かあったのなら和解してほしいという願いがある。


 三浦さんと別れ、自分の教室に到着した。

 学内格差をぶち破る決意を固めて数日。

 今日は球技大会のメンバー決めがある。

 俺の無謀な企てに協力すると手を差し伸べてくれた戦友たちと朝の挨拶を交わす。

 すると、俺と挨拶をした太一は数秒の間教室内を見渡し、呟いた。

「全員登校完了だな」

 クラスメイト全員が席に座っていることを確認した太一は、教卓の上にあぐらをかいて教室全体に向かって呼びかける。

「みんな、いいかな? 二分だけ俺の話を聞いてほしいんだけど」

 教室内は何事だという空気に包まれる。ってか教卓の上に座るなよ。


「俺は再来週の球技大会で、優勝するつもりだ」


 太一が唐突に球技大会優勝を宣言した。

 えっと、このタイミングで?

 教室内では小声ながら『本気?』『無理でしょ』『一回戦で負けるよ』といった否定的な反応が聞こえてくる。

 それもそうだ。去年2科の全クラスが1科クラスに大差で敗戦した。俺もサッカーで辻堂や歩夢がいたクラスにかなりの点差で大敗した。

 それを思い返せば球技大会で優勝、それどころか一勝すらも絶望的と考えるのは当然だ。

 そもそも、2科の一回戦の相手は必ず1科だしね。

 しばしの間みんなの反応を見守っていた太一は再び口を開いた。

「勝つために練習も行う。でも強制はしない。無理に勝とうと思わない人はそれで構わない。ただ、少しでも勝ちたい気持ちがある人はサッカーを選択してほしい。別に勝てなくてもいい人はそれ以外を選択してくれ。以上」

 球技大会について伝え終えた太一は自席へと戻り、萌え漫画を読みはじめた。

 太一の宣言に、教室内では鳥のさえずり程度にはざわめきが起きている。

「今言う必要あった? メンバー決めの時でよかったんじゃないの?」

 抱いた疑問を太一にぶつけてみた。

 太一は「ここからが良いシーンなんだけどなぁ」とぼやきつつ、漫画を机の上に置いた。

「分からないか。メンバー決めの時に言ったら、話を聞いた脳筋の柴山先生がスパルタ特訓をしかけてくるに決まってるじゃないか。それはまずいでしょ。それに、今のうちに言っておいた方が各々が考える時間が多くなる。メンバー決めは六時間目だからね」

 確かにそうかも。考える時間はあればあるだけ選択ミスを減らすことができる。


    ☆


「佐藤君。なんで君は突然、球技大会で優勝すると言い出したの?」

 昼休みになりました。

 さて、今日の弁当の中身は何だろな~っと。

 日々弁当を作ってくれている母さんに感謝しつつ、空腹感を抑えきれないまま弁当箱を開けようとすると、クラスメイトの一人が太一に話しかけた。

「詳細は宏彰に聞いてくれないか。その方が色々と捗る」

 太一! 今は昼休みだぞ! 弁当を食べさせてくれよ。大体――

「高坂君、球技大会で優勝って本気?」

 自分が質問されているのに俺にたらい回しするなよ――と心の中で文句を言い終えるよりも早く、クラスメイトは改めて俺に質問してきた。

 分かったよ。言い出しっぺは俺だしね。

「うん。俺は前々から1科と2科で扱いの差、というのかな。待遇が違うのはおかしいと思ってたんだ。2科ってだけでガリ勉で暗いとか、キモいとか、オタクだとか、色々言われてる。クラスの中でも言われた経験がある人は結構いるはず」

「そうだけど仕方ないんじゃない? 陰キャが陽キャにいびられるのはいつの時代もそうだろうし」

 一般論としてはそうなのだろう。世界が平等を謳っていたとしても、本質は弱肉強食なのだ。

「同じくそう思ってたけど、それが当たり前になってるのはダメだと思うんだ。スポーツができなければ罵倒の対象? 顔が悪ければ中傷の的? そんなの、絶対おかしいよ!」

「気持ちは分かるよ。けどさ、それと球技大会がどう結びつくの?」

 クラスメイトは俺の意見に一定の理解は示してくれるものの、球技大会での優勝宣言には眉唾のようだ。

「1科のウリといえば運動神経、容姿、社交性だ。運動神経の良さは体育や部活動はもちろん、球技大会や体育祭でも発揮される。そこで、だ。もし、運動神経で1科に劣る2科が球技大会で勝ったら? 挙句の果てに優勝してしまったらどうなる?」

「1科の連中からしてみれば、相当な屈辱になるね」

 いつの間にか俺とクラスメイトの会話に教室内のほぼ全員が耳を傾けていた。

 昼休みなのに俺たち二人を除いて無言のまま昼食をむさぼるのもどうなんだ。不気味な絵面だ。

「2科は1科に比べて明らかに学園生活が不自由じゃん?」

「まぁそれはね」

 そう。2科は1科から常に格下扱いされており、学園での行動も制限されているのは明白。

 まず、生徒会。生徒会選挙にて投票数で役員を決定するが、どういうわけか毎年獲得投票数のワーストは必ず2科が占めている。これは何年も前からそうらしい。

 現生徒会も当然のように全員1科の生徒で構成されており、2科は生徒会活動に参加できていない状態だ。

 次にトラブルについて。辻堂のような歪んだ思考を持つ1科生徒が2科生徒に因縁をつけてくるパターンが原因として最も多いが、そこから揉め事へと発展した場合、ほぼ必ず『2科のくせにいきがった』というでっちあげが原因にされる。責任転嫁もいいところだ。

 更には1科を差し置いて学内のベンチや学食の席などを使用すると『アイツら2科の分際で調子に乗ってるぞ』扱いされるのはいかがなものかと。これでは満足に学園の設備を使用することすらままならない。

 特に学食にはたくさんの女子生徒がおり、2科生徒は普段以上に怪訝な視線を浴びせられる羽目になることから、現在では利用する2科ソルジャーは絶滅している。

 あとは教室の立地にも格差がある。1科の教室が校庭側にあるのに対して、2科は校舎裏側にある。

 夏は直射日光が当たり、逆に冬は日光がほぼ入らない。つまり夏は非常に暑くて冬は非常に寒い。特に夏場は風がほとんど入ってこないので文字通りサウナ地獄だ。

 一方で1科側だけはエアコン完備なのだが――こればかりは1科には女子生徒が多数いるので仕方がない側面もあるんだけど。

 その他にも女子と気軽に話しちゃいけない風潮とか、運動部ではよほど実力がないとレギュラーとして使ってもらえないなど、2科の弊害は枚挙まいきょにいとまがない。

「1科に勝って2科の自由度を少しずつ向上させたいんだよね」

 1科に勝つことができれば、設備利用を主張する交渉材料になると見ている。

「僕たちも憂いなく学食を使いたいよね」

 同じ学費を払っているのに2科だけが暗黙の了解で締め出されているのは不公平感しかない。

「1科の人らは僕たちには社交性がないってバカにするけど、罵られたら萎縮しちゃってますます意思疎通が怖くなるって分からないんだよね」

 クラスメイトが愚痴を零した。同感なので頷いた。

「かといって、根暗や陰キャが学内で上位にいる学校も皆無でしょ」

 確かに根暗がクラスの人気者で、スポーツマンや陽キャが虐げられている状況なんて聞いた覚えがない。というか、その構図すら全く頭にイメージできない。

「そんな学校があるとしたらそれはそれで不気味だね。でも俺は1科と乱闘がしたいわけではないよ。奴らに2科だって努力次第で勉強以外でも1科に勝ることだってある、それを証明したいだけなんだ!」

 そう。俺は1科の奴らにあれこれ言いがかりやバカにされることに限界を感じてはいるけど、かといって1科に武力行使しようとは考えていない。

 そんなことしたって堂々巡りになって最悪の場合、学園の評判や偏差値のガタ落ちに繋がってしまいかねないから。

「高坂君の考えは大体理解した。メンバー決めまでには結論を出すよ。ありがとう」

「こちらこそ、戯言を聞いてくれてありがとう」

 ひとまず俺の思いの丈は伝わって何よりだ。雲を掴むような話ではあるけれども、決してふざけ半分ではなく真剣なんだということだけは、どうか分かってくれ。


 太一のお願いと俺の主張が功を奏したのか、球技大会のメンバーは無事に決まった。

 サッカーをやると言ってくれた人は思いの外多く、俺や太一たち四人を除いても十人以上いた。

 人数が余ってしまったので、一部の人にはバスケを選択してもらった。

 バレーボールと卓球は今まで通り、まったりモードで行く方向に。

 正直ここで躓くと予想してたので、案外幸先は悪くないな。


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