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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
3巻 修学旅行編
83/83

第2話 ①

    ☆


 集合場所に到着。

 新幹線に乗る東京駅――ではなく、学園のグラウンドが集合場所だ。

 数年前までは駅集合だったものの、電車に乗り間違えて新幹線に乗り遅れた生徒がいたらしく、以降は貸切バスで学園から東京駅まで移動する運びとなったそうだ。

 集合時間は八時で只今の時刻、七時半。

「おーっす宏彰! 遅いぞ!」

「え~……判定厳しすぎでしょ……」

 三十分前で遅いって。周囲を見渡しても半数と来てないんだけど。

「誠司は何時に着いたの?」

「六時だぞ」

「えぇ……」

「ちなみに昨晩はワクワクが止まらず一睡もしてない!」

「マジ……?」

 遠足が楽しみで眠れない精神年齢小学生がここにいた。楽しみだとしても、そんなに早く着いてどーすんの。

「アバンチュールを堪能するために万全を期してきた!」

「そ、そっかぁ……」

 ド派手に空回ってる誠司に果たしてアバンチュールはやってくるのだろうか……?

「……お、おはよう」

「二人ともお早い出勤だこと」

 誠司と雑談をすること十五分ちょい。太一と豊原が気だるそうにやってきた。

「おはよう。二人はのんびりだね」

「ギリギリまで寝てたからね」

「そ、そんなに、た、楽しみじゃ、な、ないし……」

 冷めてるなぁ。現代っ子って感じが――って同い年だったわ。

「はぁ。せっかくの旅行なのに、学科間で親睦を深めるイベントの一つもなし。学園は意地でも1科と2科を交わらせないつもりだぞ」

 誠司のげんなりした口調から残念に感じてるのは明瞭めいりょうだ。

「い、いいこと、だ」

 豊原は対照的にうんうんと頷いている。気持ちは大いに分かる。

「はぁ!? お前マジで言ってんの? どんな思考してんだよ? 男子高校生失格だな!」

「い、いい加減、じっ、自分の価値観を、お、押しつけるの、や、やややめてくれよ」

「マジョリティ代表として物申してるんだぞ」

 多数派の代表がコレとか嫌すぎる。世も末だ。

「か、勝手に、たっ、多数派を、き、気取るんじゃ、ねーよ!」

 飽きもせず仲良く舌戦ぜっせんをはじめた二人を放置して、事前にもらった修学旅行のしおりを数枚めくる。

 一日目の午前は奈良まで移動。午後は奈良でクラス別行動。夕方に京都へ移動し、旅館へ。

 舞台を京都に移し、二日目は班別行動。

 三日目は完全自由行動。誠司の倫理性が試される2科注目の一大イベントだ。

「おい宏彰テメー言いたいことがあるなら言葉に出せや?」

「別に」

 京都の観光地を楽しみに思うよりも、誠司のことをいの一番に考えてしまった自分の娯楽性の乏しさにショックを受けただけだよ。

「おー、大体揃ってるな。感心感心。さすがは2科だな」

 普段のジャージではなく、私服姿の柴山先生がご機嫌顔で俺たちのもとまでやってきた。

 確かに1科に比べると2科の生徒は集合が早い。真面目なところが2科のストロングポイントだからね。俺がそれを崩しかけてる現実には目を逸らす。

 1科の方が旅行を楽しみにしてるイメージがあるから先に来てるものだと思ってたけど、朝の強大な力を前に太刀打ちするのは至難の業らしい。

「先生、僕らが乗る貸切バスはどれですか?」

「いい質問だ。ついてこい!」

 俺についてこい系マンの柴山先生についていくと、グラウンドの奥に佇むバスに辿り着く。

「お前らが乗る貸切バスはこれだ」

「「「………………」」」

 柴山先生が指差す先に視線を送った6組生徒たちは揃って硬直した。

「……先生、どうして1科とバスの種類()違うんですか……?」

「これみよがしに『も』を強調するんじゃないよ」

 疑問の一つもていしたくなるでしょ。1科の貸切バスは最新鋭っぽく豪華な作りなのに対して、2科の貸切バスは近距離からよく見ると一部塗装(とそう)が剥がれていて年季が入っている。引退間近の車体としか思えない。まるでビジネスクラスとエコノミークラスみたいだ。

「1科には女子がいるからな。女子に負担がかかる固い椅子は座らせられない」

「出た出た。謎1科優遇論。男女差別にあたらないんですか?」

 か弱き男子の人権は無視ですかそうですか。エセ紳士はこれだから困る。

 学科で学費は変わらないのになんて非道な――いや俺自身が学費払ってるわけじゃないけどさ。

「高坂。まさかお前、自分がか弱いとか思ってないだろうな?」

「思ってますけども?」

 1科からしばしば迫害されるか弱き男子高校生ですがなにか?

「むさくるしい男がなにを……」

「ヒョロガリ陰キャマンですけども?」

 1科男子とタイマン張ったら間違いなくワンパンで沈む雑魚ですがなにか?

 野球部の誠司ならいざ知らず、どう見ても俺は痩せているでしょうに。貧相な地味男のどこにむさくるしい要素があるというんですか。

 俺の言い分を聞いた柴山先生は呆れたとばかりに盛大に溜息をく。

「器が小さい男はモテないぞ」

「出た出た。ちょっと文句言ったらすぐ器が小さいモテない男認定。残念ながらその手の煽りには乗りませんよ」

 器とかの問題じゃないと思うんですけど。まぁ俺の器はちっこいですけども?

「文句言うな。ウダウダ言ってるのはお前ただ一人だぞ」

「きっと他の人たちだって不満はありますよ」

 言葉や表情に出さないだけで、内心はらわたが煮えくり返ってる人もいるはずだ。

「みんな不満があるのに黙ってて大人だな。それに引き替えお前ときたら……」

「未成年の子供ですから問題ないですね」

 成人年齢が引き下げられてもなお、俺は未成年だからね。

「あぁ言えばこう言う……面倒な男だな」

 先生は俺を非難するまなざしを向けてくるけど、俺間違えたこと言ってるかな?? 社会人じゃなく学生の身分なのだから、多少文句をつけたって許されるよね。

「先生ッ! バスガイドのお姉さんはいないとですかっ!?」

 横から割り込んだ誠司が鼻息荒く女性バスガイドを所望しょもうしてくる。

「なんでたかだか川嵜かわさき市内から東京駅までの道のり程度でバスガイドを用意する必要があるんだよ。ガイドするモノがないだろ」

 柴山先生はたいそう呆れた表情で誠司を哀れんだものの、すぐにニカッと笑った。

「だが喜べ。奈良京都ではちゃんとバスガイドがいるぞ」

「マジですかっ!? よっしゃあーーーーっ!!」

 左腕を天へと振り上げて心から大喜びする誠司。うーん、やかましいことこの上ない。周囲の生徒が何事かとこちらに視線を送ってきてるんだよなぁ。ザ・悪目立ち。

「1科は女性バスガイド、2科は男性バスガイドの手配をしている」

「は……」

 誠司のテンションを一瞬にして上げて下げる柴山先生は鬼畜だ。

「な、なぜ2科は男性なんですかっ……!?」

 膝から崩れ落ちた誠司は四つん這いで柴山先生のもとまで移動。両手で先生のズボンを掴んだ。

「車内に男しかいないバスに女性一人乗せるのはたいそう危険だからだ――おいこら放せっ」

「柴山先生がいれば問題ないでしょ~!?」

「俺とて三十人以上を一人で抑え切る力はない」

「静かな生徒が多い6組に危険性はありませんよ!」

「特に谷田。お前みたいに青春を履き違えたアホンダラがいるバスなら余計にだ。お前一人で三十人分に匹敵する被害が生まれるんだ」

 シクシクと涙をこぼしながらまとわりつく誠司を乱暴に振りほどいた先生はしわになったズボンを伸ばした。

「俺ほどの優等生を前になんてことを!?」

 立ち上がった誠司は両手を広げて抗議する。心外アピールをしているつもりらしい。

「確かに授業中のお前は優等生だ。だが休み時間と学園外ではどうだ? 常に女を目で追ってる雄猿おすざるだろ」

「そりゃそうでしょ! 健全な男子高校生ですから! 性欲多感なお年頃ですから!」

 誠司のは度が過ぎてるよ。女の子たちも誠司の劣情に勘が働いて引いてそう。社交的なんだから、もっと自然体に女子と接することができれば可能性あるのに実にもったいない。

「やはり俺が手綱たづなでお前を握る義務があるな」

 柴山先生は獰猛どうもうな笑みを浮かべて誠司の右腕を掴んだ。

「やれるものならやってみてくださいよ。ただし、相応の覚悟をもって取り組んでくださいね」

「なんで上から目線なんだよ」

 普段ならばここで平謝りするはずの誠司も、なぜかニヤリと笑って先生に応戦する。

「……二人とも、話が逸れてますよ」

 これからあの古びたバスに乗る流れじゃないのかね。

「高坂。お前いきなりうるさいな」

「うるさいのは誠司ですよね!?」

 なに、いきなりうるさいって。

「なんかお前が一番うるさい気がする。雰囲気が」

「雰囲気うるさいっ!?」

 つまり俺のオーラがうるさいってこと!? 雰囲気がうるさいとかはじめて聞いたよ。

 あといつまで高坂うるさいネタ引っ張るつもりですかね……? さすがにそう何度も使い回されるとマンネリですよ。

「っと、ダラダラ話し込んでる場合じゃないな。お前らバスに乗り込めー」

「先生と誠司のせいでギリギリじゃないですか」

 いつの間にやら出発時間が迫っていた。

「何言ってんだ。高坂も同罪だぞ」

「そうだぞ! 自分だけ罪逃れは許さんぞ宏彰ィ!」

「ダレカタスケテ……」

 俺たちはしおりに記載されている座席表を確認しながら慌ててバスに乗り込む。

 俺たち2年6組は6号車。号車番号はクラスと同じだ。6組だから6号車。

「東京駅までだから大した長旅ではないね」

「だね」

 俺は太一と隣り合わせで座った。いつものパターンだけど、誠司が隣よりかは大分マシだ。

 その後、特筆すべきイベントもなく、バスは東京駅に到着したのだった。

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