第6話 ②
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「おぉ~。港だねぇ、港湾だねぇ」
誠司が目を輝かせている。
午前中はお台場の物流施設の見学で、手はじめに辿り着いたのは港だった。
周囲にはコンテナヤードと呼ばれる、コンテナが集積されたエリアがある。
大量のコンテナがびっしりと積まれた状態のコンテナ船からガントリークレーンと呼ばれる大型クレーンを用いて荷役が実施され、船からコンテナが引っ張り出されている最中だ。
普段は一般人が足を踏み入れることが禁止されているけど、今日は社会見学として学園側が許可をもらったのだそうだ。
「えー、ご覧のとおりここにはコンテナが保管されています。コンテナの中には様々な商品が入っています。外国から来た品物だったり、国内の品物だったりと多種多様です。通関手続きなどの輸出入に関わる手続きもここで行われています」
物流施設を案内してくれているお兄さんが大声かつ丁寧な声色で説明してくれるのでとても聞き取りやすい。
コンテナには様々な色と大きさがある。中身は日用品から食料品、半導体などの精密機械とこれまた色々らしい。
「外国から輸入された貨物は税関で許可が下りなければ輸出入できません。なので許可が下りるまで一時的に退避、保管するスペースが必要です。そのスペースこそがこの港で保税地域と呼ばれています」
埠頭では精悍な顔立ちの港湾労働者たちが作業に勤しんでいる。作業着がバッチリと決まっていて凛々しい。
「もう少し近づいてみましょうか」
お兄さんに促された生徒一行は作業の邪魔にならない程度に現場へと近づいた。
「おお……」
男の顔は履歴書とはよく言ったものだ。作業員は皆男らしい見た目で俺みたいな陰キャっぽそうな人はいなかった。
偏見かもだけど、ブルーワーカーの人ってこんな感じの人が多いような気がする。偏見だろうけど。
「な、なんだか、こ、怖そうな人が、お、多いな……」
同じく陰キャの豊原は港湾関係者を見てビビリ倒していた。気持ちは分かる。体育会系が苦手な陰キャは多いのだ。話してみればいい人なのかもしれないけど、オーラで既にやられちゃうんだよね。
「ふーん、コンテナから品物を取り出す作業をデバンニング、反対にコンテナに品物を入れる作業をバンニングと呼ぶのか」
太一は興味深そうに何度も頷きながら港を見回している。
俺も詳しくはないけど、物流や運送業界は世界の生活の核というか、基盤となる職業だと思うんだよね。待遇はあまりよくない噂も聞くけれど、彼らがいなければ世界中の人々の生活が終わる。身近にある全てのモノというモノは彼らが入出荷し、運搬しているのだから。
俺がバイトしてるパソコンショップのパソコンやパーツだってそうだ。どれほど素晴らしいメーカーに生産してもらっても品物が店まで運ばれてこないんじゃまるで意味がない。
俺たちは通販を頼み、当たり前のように業者に運んでもらってるけど、彼らがいなくなったらと考えるだけでゾッとする。もっと感謝しないといけないよね。極力再配達にならないように考慮しないとだ。
彼らが今以上に脚光を浴びるよう俺は密かに祈るのだった。
「作業員たちが乗っている乗り物はフォークリフトといいます。大きな貨物を運搬する際はほぼフォークリフトで移動します。フォークリフトにも様々な種類がありますが、港湾作業者が使っているのはカウンターバランスフォークと呼ばれています」
カウンターバランスフォークは車のように座って操作するフォークリフトだ。スピードが出るので広い空間でパワーを発揮するとのこと。
現場では国内外からの輸入品が入ったコンテナを船舶から積み下ろしたり、逆に輸出品を船舶に積み込んだりと人とモノが往来している。
ここが、モノが通る上での関門なんだなぁ。
「続いて大手倉庫にお邪魔したいと思います」
案内人さんの一声を合図に倉庫へと見学の場を移した。
倉庫に入り、ネスラックと呼ばれる階数を分けて貨物が積載できるものを見たり、倉庫作業者の入荷、出荷作業の様子を見学させてもらったりしている。
「あれっ、さっきと違うフォークリフトじゃない?」
1科男子が指摘すると案内人さんは満足そうに頷く。
「いい疑問ですね。あれはリーチフォークと言って、爪の部分を上下だけではなく前後に動かすことができます。また小回りがきくので特に狭い倉庫内で真価を発揮します」
へぇ、用途によって様々なフォークリフトが用意されているんだなぁ。
リーチはカウンターに比べて縦長で転倒しやすそうな代わりに横幅が抑えられているので狭い構内も器用に走行できそうだ。運転席もカウンターとは違って椅子がなく立った状態で運転するスタイルだ。
「ちなみにフォークリフトに乗るには終了証を取る必要があるので興味がある人は十八歳以上になってからフォークリフト技能講習を受けてもらえると嬉しいですね」
まぁ、講習を受けないとフォークリフトの運転なんて危ないよね。重量物も運べる分危険だって伴う。
あと、フォークリフト技能講習の対象は十八歳以上なんだって。
「あの赤いフォークの爪みたいなものは?」
作業者が引っ張っている赤いフォークリフトっぽい形の器具を見た1科男子が声を上げた。
「あれはハンドパレットトラックと言って、免許がいらないので誰でも使える運搬器具です」
フォークリフトの免許がない人はあれを使ってパレットと呼ばれる荷役台に爪を差し込んで運搬するらしい。
「ただし移動に時間がかかることと、ネスラックの二階以上にはモノが置けない、また取れないという欠点があります」
フォークリフトならすぐできる爪の差し込み、パレットの上げ下げなどのオペレーションがハンドパレットトラックではどうしても遅くなってしまうらしい。
「倉庫内の作業の大まかな流れは入荷、検品、在庫登録および棚入れ、ピッキング、梱包、出荷発送です」
説明を受けながら移動して着いたのは梱包された荷物がコンベアに乗せられ仕分けされているエリアだった。
「当倉庫では倉庫管理システムを採用しており、この機械を使って配送業者ごとに荷物を自動仕分けしています」
最近の倉庫は機械化を導入して作業の効率化を図っているところが多いんだって。
仕分けされた荷物はカゴ台車に積まれ、満タンになれば各配送業者のトラック前まで運搬され、カゴ台車ごとトラックの中へと積み込まれてゆく。
倉庫の仕事はゲームのような作業もあって楽しそうだなぁって思えた。
倉庫見学を終え、最後に軽く近場の工場を見学させてもらって社会見学が終了した。
「物流業界は高卒も歓迎している職業です。気が向いた人はぜひ物流業界に飛び込んできてください! もちろん専門学校や大学で専門知識を学んだのち、管理職候補で来ていただくことも歓迎します!」
案内人さんが物流業界を宣伝してお話を締めくくった。お疲れ様でした。
物流業界、特にドライバーは人手不足と聞く。社会生活には欠かせない職業だけど業務内容、待遇、世間体などの問題があってなり手が少ないようだ。
物流業界のことはほとんど知らなかったけど導入部分だけとはいえ知識を得ることができて有意義な時間を過ごせた。
「高校卒業したらフォークリフト技能講習受けようかなぁ」
「俺、前々から物流業界の就職を考えてたんだよね。港湾短大に行こうか大学で通関を学んでから就職するべきか……」
周りの1科生徒たちは物流の話に花を咲かせている。こうやって興味を持つ人が少しでも増えるんだから、高校生の社会見学も悪くないよね。
ちなみに2科生徒たちはというと、案の定ほとんどの人が見学中も終始無言だった。




