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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
53/83

第6話 ①

 はい、遠足当日を迎えました。

 風が強いけど太陽が燦々(さんさん)と照っていて心地良い天候だ。絶好のお出かけ日和だね。まさしく五月にふさわしい陽気。

 場所は東京、お台場。

 現地集合なのでお台場駅前まで電車で着いたけど、既に結構な人数が集まっていた。

 私立高校なのに貸切バスがないのは寂しいけど、貴津学園は私立の割に学費が破格の安さだし、その分豪華な設備は用意できないのかもしれない。

 その辺の事情を学園長にでも尋ねてみたい気持ちはあるけど、「お前が金出してくれるなら貸切バスを手配するぞ」なんて言われそうで戦慄せんりつしか覚えない。

 遠足は学年行事なので1科も2科も関係なく全員参加。つまり各学科が珍しく同じ舞台に揃う貴重な機会だ。

 ……だからどうのってことはなにもないんだけどね。お互い警戒し合うだけだ。同じ学園の生徒同士なのに不思議な関係だよね。

 遠足の内訳は午前中に港湾こうわんや倉庫の見学、お台場公園で昼食をとったのち、午後はお台場周辺の散策だ。

 散策は自由行動になるので近場の娯楽スポットを楽しむもよし、スタンプラリー巡りをするもよし、ダルいから漫画喫茶に退避して時間を潰すもよし……いや、最後のはよろしくはないか。

 制服ってのが味気ないけど決まりだから仕方ない。

「良い天気だけど午後は暑くなりそうだなぁ」

「そうだね。熱い一日にしよう」

「あぁ――って、歩夢じゃないか」

「やぁヒロ」

 6組の生徒が集まってる場所は――と辺りを見回している俺にイケメンボイスで声をかけてきたのは幼馴染の松本まつもと歩夢あゆむだった。いつの間に俺の隣まで来ていたんだ。

 顔よし、成績よし、性格よ――うーん、性格は分からん。とにかく、2組所属で生徒会役員もやっている高スペック男子だ。

 で、それはいいんだけど……。

「……近くない?」

 そう、問題は歩夢の距離感よ。今まで離れてた距離が縮まったことを実感する。物理的な距離でね。

「当然。俺は君が誰よりも大好きだからね。かけがえのない人なんだ」

 歩夢は俺の肩に手を置いた。爽やかな香りがする。同性なのにちょこっとだけドキッとしてしまう。当然他意はないよ。

「面倒な展開になるから誤解を招く言い回しはやめてくれ……」

 それ見たことか。周囲の女子たちが恨めしそうに俺を睨んでいる。これ以上不用意に新たな敵を作るのは勘弁だよ。

「えぇーつれないなぁ。けど塩対応のヒロも好きだぞ」

「えー、あー、うーん」

 さも当然とばかりに俺への友愛表現を流暢りゅうちょうにするのは遠慮してほしいぞ。もちろん歩夢が俺に恋愛的な意味で好意を抱いているわけではないのは承知している。――――だよね??

 1科との学科紛争の黒幕だった歩夢と本気の思いをぶつけ合った結果、ギクシャクした関係が解消できたのは嬉しいけど――ここまで来ると別の意味で困惑する。

 歩夢の投げた爆弾に辟易へきえきしていると、なにやら視線を感じた。女子から発せられる乙女オーラではない。もっとこう、禍々(まがまが)しいものを感じる。

 視線の主を探して周囲を見渡すと、

「――――あっ」

 正体は見知った顔だった。向こうは目が合ってもなお、俺たち――というか俺を睨み続けている。

「や、やぁ高畑君」

 そんな状況もあって、気づかないフリもどうかと思ったので恐る恐る声をかけてみると。

「……死ねぇーー!!」

「ええー!?」

 俺に敵意むき出しの視線を送ってくる高畑君は顔を真っ赤に染めて怒鳴りつけてきた。

 藪から棒になによ。本当、沢口一派の考えは分からないや。

「聞き捨てならないな。ヒロが君になにをしたって言うんだい?」

 と、俺が罵倒された瞬間をの当たりにした歩夢が俺を庇う形で高畑君の前に立ちはだかった。味方だととっても頼れる男なのだ。

「はっ! ま、松本しゃん……!」

 自分よりも十五センチくらい身長が高い歩夢からじっと睨まれた高畑君はビビって――

(…………ん?)

 いや、違うぞ。様子がおかしい。いつもおかしいけどいつも以上に変だ。

 顔は真っ赤なままだけど、目が潤みはじめたぞ。

 歩夢をチラ見しては視線を逸らす、その繰り返し。焦点が定まっていない。表情は微妙に嬉しそうだ。口角も上がってるし。

 なに、この反応。まるで恋する乙女じゃん……。

「高畑君、だっけ? いきなり他人に『死ね』は酷いんじゃないの?」

 わった目の歩夢からめつけられた高畑君は背筋をピンと伸ばした。

「ひゃ、ひゃいぃ! しゅ、しゅみましぇん、松本しゃん~……!」

「あ、うん……」

 なんだ、この赤ちゃん口調は。それはそれは気味が悪いぞ。歩夢も想定外の反応を受けて表情に戸惑いの色が隠せていない。

 高畑君は歩夢にビビり倒してるのか? いや、そうじゃないような。

 …………まさか。俺の頭に一つの結論が導き出される。

 高畑君って――歩夢のことが男として好きなの? だとしたら今の反応はしっくりくるな。

 でもまだ分からない。確証が欲しいな。

「そう焦らなくてもいいんだよ」

 ここで歩夢は微笑を浮かべて高畑君の肩に手を置いた。

「ひゃひゃいっ!?」

 高畑君は素っ頓狂とんきょうな声を上げてビクリと身体を上下に揺らした。

 ……えっと? 歩夢はテレパシーで俺の考えが全て分かるのかな? そう勘ぐるほどに歩夢は俺が望む行動を起こしてくれた。

「むやみに他人を中傷してはいけないよ。分かってくれた?」

「ひゃ、ひゃい! 松本しゃんのおっしゃるとおりでしゅ!」

 歩夢のたしなめを受けた高畑君は首をぶんぶんと縦に振る。分かってくれたようだ。

「でぇ、ではボキュはこれで……!」

 高畑君は逃げるように俺たちから離れていった。

「まったく、ヒロを罵倒するとかとんでもない輩だな。表面上は冷静を装ったけど、ずっと拳を振るのを我慢してて苦痛だったよ」

 そして高畑君がいなくなった途端にこれである。存外毒を吐く幼馴染、松本歩夢。腹黒いところも含めて歩夢なんだなってもう納得したよ。

「ヒロに敵意を向けやがって。生徒会役員権限で制裁を加えたいところだ」

 恐ろしいこと言わないでくれよ。君が言うとこれっぽっちも冗談に聞こえないよ。

「君に対してはすこぶる好意的だったけどね」

 俺の言葉を聞いた歩夢は眉間にしわを寄せて首をひねった。

「えっどこが? 初対面だよ?」

 歩夢は「ヒロったらもう~」と一笑いっしょうに付しているけど、いやいやあれはガチでしょ。

「ヒロ以外から好意を向けられてもいい迷惑だよ。俺にはヒロさえいてくれれば――君さえ幸せになってくれさえすれば他になにも要らないんだ……」

「お、おう……」

 これまた際どい台詞だな。あと目を細めて遠くを見ながら言わんでくれ。

「………………」

 ほら~、またもや近くで聞いてた女子たちが俺に刺す視線を投げつけてきてるよ。夜道を一人で歩くのが怖いよ。なんにもしてないのに恨まれるとか勘弁して。

「じゃ、じゃあ俺は6組が集まってるところに向かうから」

「そうか、残念。もう少し絡みたいところだったけど」

 学科紛争で互いの心情を吐露とろし気持ちで殴り合ってからなんの気まずさも抱かずに話せるようになったのは嬉しいけど、

「納豆のように絡めて絡めてかき混ぜて、ようやく分かることもあるかなって思ってたんだけど」

 少々絡み方が、ね……。ねっとりした表現を使ってくれるな。

 俺は先ほどの高畑君と同様、逃げるように歩夢から離れたのだった。


「おはよう宏彰!」

「おはよう、誠司」

「女子がわんさかいるな! 遠足最高!」

 6組の生徒が集まってる場所に到着すると誠司がキョロキョロと周囲……というか貴津学園の女子生徒たちを血走った瞳を乱暴に泳がせて鑑賞していた。水を得た魚のようにハイテンションになっていて心底見苦しいことこの上ない。太陽の日差しで干からびてくれ。

 制服を着てるからまだ学生バリアーでセーフだけどやってることは普通に不審者だからね。……あ、やっぱ普通にアウトだわ。

「そんなに女の子が見たいなら休日に横浜とか渋谷に行けばいいのに」

 そんな提案をしてみるも、誠司はやれやれと嘆息たんそくする。

「お前は分かってないな。同じ学園の女子だからそそられるんだ。それに野球部の練習があるのに横浜や渋谷でチャラついてる暇なんかないっての」

「あ、はぁ」

 女よりも野球を優先する点は美しいんだけど、今やってる行動が美しくないからなぁ……。

「もう少し際どい部分も見れたら視力が回復するんだけどなー」

 誠司、君は健康診断で視力2.0だったって意気揚々と自慢してたよね? 左右ともに。

「谷田は女子に手を出しそうで危険なので自由行動は俺とペアな」

「そんな殺生せっしょうな!?」

 いつの間にか近くまで来ていた柴山先生から死の宣告を受けた誠司は膝から地面に崩れ落ちた――かと思えば即座に立ち上がって腕を天へと振り上げた。

「でも柴山先生とサシでお台場散策かぁ! 一周回って楽しみになってきた! 一生に一度きりの思い出になるぞぉ!」

「お前どんだけポジティブよ……」

 誠司の前向きさに柴山先生が珍しくタジタジにされている。しかし自分から言った手前、速攻で発言を覆すのも躊躇ためらっているご様子。

 俺的には暑苦しいキャラ同士お似合いだと思うけどね。

 そんなこんなで学年全体で先生の話を聞いたのち、遠足開始となった。

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