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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
34/83

第12話 ①

「やぁヒロ。奇遇だねー」

 白々しい笑顔で歯を見せつつ手を振る幼馴染。

 かつて俺の比較相手だった人物。


 松本歩夢。


 笑顔こそ見せてはいるが、内面から滲み出ているどす黒い雰囲気は一切隠せていない。

「星川さんにスパイをさせたのは歩夢の差し金だったんだね」

「あぁ、その通りさ」

 俺が早速本題に入ると、歩夢は自分の暗躍をあっさりと認めた。

 そうだ。

 こいつこそが、星川さんとのデートの裏で糸を引いていた黒幕だ。


    ☆ ☆ ☆


 星川さんとのデートの帰りにさかのぼる――――

「私に今日の指示を出した人のことなんだけど――」

「どうせ辻堂でしょ? アイツは本当にどうしようもないね」

「――やっぱり噛み合ってなかったか……」

 星川さんは息を漏らした。

「ううん、辻堂君じゃないよ。松本君」

「……え――――」


    ☆


 星川さんで俺を釣って情報を引き出したのも歩夢だったのだ。

 2科の作戦を入手したのはまだいい。それよりも。

「星川さんがヒロから聞いた情報を提供しなかったのは意外だったなあ。『私は高坂君から情報を引き出せなかった』って」

 星川さんを利用したことは許せない。そのせいで彼女は罪悪感にさいなまれたんだぞ。

「ふ、そんな嘘をいたってペンダントに入ってた盗聴器で全て筒抜けなのにさ」

 鼻で笑いながら得意げに話す歩夢。

 もはやいつもの爽やかで柔らかい物腰は今の歩夢からは一切感じない。

 歩夢にこんな裏の顔があっただなんて信じがたいよ。

「こちらでもバッチリメモしたよ。盗聴器が途中で壊れちゃったのは誤算だけどね」

 太一がデートの日に尾行してくれていて本当に助かった。星川さんの家にお邪魔する前に盗聴器を水没させてくれたおかげで満さんとの会話は聞かれずに済んだ。

「辻堂が6組の教室を荒らしたのは?」

「俺のつてでピッキングに長けた生徒に開錠してもらったんだ。で、事前にけしかけておいた辻堂に6組へ喧嘩を売ってもらった」

 先日の辻堂の教室荒らしも歩夢の考案だったのかよ。

「あ、今日のゲームも俺の発案なんだよ。学科同士でいがみ合うなら派手にやってほしいじゃん」

 今日の勝負までもが歩夢の発案だった。つまり辻堂ではなく歩夢が全ての元凶だったのだ。

「とはいえ暴力沙汰はさすがにまずいからゲーム形式にしたんだけど、わりかし楽しめてるんじゃない?」

 自身の所業に一切の悪びれも見せずに歩夢は話を続ける。

「星川さんのペンダントもね、スパイのお礼に是非デートの時はこれをつけてねと言って渡したんだ」

 星川さんは人がいいから、もらった以上はつけないとって心理が働いてしまったんだろう。

 歩夢は利己のために星川さんをも利用したのか。

 ――いや。俺も己の都合に2科のみんなを巻き込んでいるから同類か。

「なぜ辻堂に2科を挑発させたんだ?」

 歩夢の目的はまだ分かってないけど、6組の面々に嫌な思いをさせてまで今回の争いを引き起こしたかったのか?

「球技大会前に優勝したいとか言ってたでしょ。つまり、1科に勝ちたいと」

 打倒1科を掲げた俺たちの初舞台に向けて公園で作戦会議をしていた時に太一が歩夢にそう述べた。

「あぁ、言った」

 歩夢ははぁ、とわざとらしく嘆息して俺に哀れみの視線を向けてきた。

「マジで言ってんの!? 無理でしょって思ったね。こっちは君のクラスが2科を目の敵にしてる辻堂がいる5組と一回戦で当たらないようにトーナメント表を作ってあげたってのに」

「その気遣いはどうも」

 歩夢も俺と辻堂の因縁は知ってるようでそこは気を利かせてくれたらしい。

「一回戦で負けると思ってたから、3組に勝った時はさすがに動揺したよ」

 公園で歩夢と会った日、歩夢が俺たちを見下すような顔をしていたと豊原が言ってたっけ。あれは豊原のやっかみじゃなくてマジだったんだな。

「事前特訓をして更に策を講じたりすれば、勝利も夢物語ではないって球技大会で希望を見出みいだせたね。努力が身を結ぶ保証はないけど、努力は裏切らない。俺は球技大会でそのことを噛み締めた」

 作戦を考えて挑んだのもそうだし、大会に向けての練習も特に5組戦でのパス戦法に活かせたので無駄ではなかった。

 結果として1科を負かすことが不可能ではないと確信できただけ収穫はあった。

 敗北した5組戦だって俺がゴールネットから離れなければ勝負は分からなかったわけで――って過ぎた出来事をうだうだ考えたってどうにもならない。稲田君を放ってはおけなかったし。

「だから2科には調子づく前に挫折してもらって、1科と争うことがいかに無意味で青春の無駄遣いかを痛感させたくて今回のゲームを企画したのさ」

 球技大会で3組に勝って歩夢に目をつけられたこと、更には5組に善戦して辻堂に逆恨みされたことが今回の勝負へのトリガーになったのか。

 歩夢はここまで話すと一呼吸置いて再度ゆっくりと口を開いた。

「けど俺の一番の目的はね――ヒロを完全敗北させることさ」

 表面上はにこやかだった歩夢から笑顔が消える。

 敗、北……?

 普通に俺は君に何もかも負け続けているんだけど?

「君はいつも俺に背を向けてるよね。なんで俺を避けるの? 昔は親友だったじゃないか。テニススクールだって辞めちゃうし、中学に上がってからは完全に俺から距離を置いてさ」

 歩夢は積年の恨みを吐き出すかのようにまくしたてて俺を責める言葉を羅列する。

 的確な指摘が俺の背中から雨漏りのように冷や汗を出させる。俺が意図的に距離をとってきたことに歩夢は気づいていたか。

「ねぇ、一体俺の何が気に食わないって言うんだ? なぁ、頼む教えてくれよ」

「それは……」

 親にすがる子供のような形相ぎょうそうを向けてくる歩夢に俺の口は動かない。

 言いよどむ俺を見た歩夢は首を横に振った。

「君はね、所詮はただの凡人に過ぎないんだよ。俺と君、同じ努力量でも成果の大きさが違う。その時点で君は俺に負けてるんだ。テニスでも、勉強でもね」

 歩夢はずっと寝かせてきたであろう想いの刃を向けてくるが、どこか違和感を覚えた。

「だったらなんだって言うんだ。勉強やスポーツって物差しでしか人を評価できないのか」

「……俺は君に一つだけ、どうしても勝てなかったことがある。このたった一つのせいで俺がどれだけ頭を抱えたか……」

 俺の問いを無視して言葉に力を込める歩夢。

 俺が君に勝った記憶がないんだけどなぁ。

「その苦悩は君には一生分からないだろうね! 分かってたまるか!」

「――――!!」


 ――――刹那、直径十センチほど、長さ五十センチほどの円形でできた光線が俺に向かって飛んできた。

 それは俺の顔の横を通過して壁に当たる直前で消えた。器物を破損しないように調整したのか。


「今のは、超能力…………」

「しかと見たかい、今の光線」

 なんとかかわしたものの――


 ――――歩夢が能力者!?


 驚愕の事実に愕然とする。

 だけどね、君の言い分はあまりに贅沢で一方的すぎやしないか?

「一つ負けてるからなんだよ! それ以外は全て君の勝ちじゃないか! なにもかもが俺に勝ってないと気が済まないのかよ! 完璧な人間なんていないことぐらい分かってるだろ?」

 ストイックなのは大いに結構だが、強欲は身を滅ぼす危険性だってあるんだぞ。なんでもかんでも欲しがるんじゃないよ。

「負けたその一つの重さが君に分かってたまるか……俺が負けてる内容も分からないくせに」

 俺を見据える歩夢の瞳はガラスの破片のように鋭く、少しだけ怖かった。

「なんでか知らないけど君に勝てない悔しさと、避けられ続けてることを思い出すとこんなビームもどきが使えるんだ。どうだ、俺は――俺は特別な人間なんだぜ?」

 それは違うよ。能力が使えるのは特別だけど、君が思ってる特別とは意味合いが違う。

 でも、知らなかった。

 いつも人気者で、青春を全力で謳歌していると思っていた歩夢にも、能力が使えるほどの過去の苦悩があったとは。

 それも原因は俺で、俺に勝てなかったたった一つの要素と俺が歩夢を避けてきたことが、記憶が歩夢の心をずっと蝕んでいるのだ。

 俺ばかりがずっと背負ってきたと思っていた羨望感、嫉妬心は、歩夢も俺に対して抱えていたようだ。

「君がずっと羨ましかった。勉強とか運動なんてどうだっていい。人として、人間としての強さに、俺はずっと叶わなかった! そう、あの日だって……!」

 歩夢の手から繰り出される光状のビームが俺めがけて次々と飛んでくる。

 それなりに速く、動体視力と反射神経でかろうじて避け続けるが、スタミナが切れたらまともに食らってしまう。

 こうなったら仕方がない。

 光線を避けつつ掌に神経を集中させて力を込める。

 意識を全て掌に向けてしまうと光線から逃げ遅れるのでその辺のさじ加減が難しく、勝負を左右するほど重要になる。

 雷の魂が出来上がったところで歩夢に向かって放り投げる。もちろん牽制が目的なのでわざと外して投げた。

 すると案の定、歩夢は驚きの目を向けてきた。

「――――! ヒロも、特殊な力が使えたのか……!」

「君だけじゃないんだ。それにこんな力が使えたって何の自慢にもならない」

 今の歩夢に俺の言葉は響かないと分かってはいるけど、言わずにはいられなかった。

 俺の能力をの当たりにした歩夢は固い肉を噛みちぎる勢いで歯軋はぎしりする。

「俺は――俺はっ! 君が羨ましくて仕方なかった! 君のようにありたいってずっと思ってた!」

 歩夢が、俺を目標にしていた……?

「それなのに……それなのに! 目標だった君は俺の前からいなくなった! 君は裏切ったんだ! ずっと親友だと思ってたのに! 俺はヒロがずっと大好きだったのに!」

 歩夢の叫びとともに光線が連続で放たれるも、感情に任せて無作為に放ってるので何発かは避ける必要すらなかった。

「球技大会前の時も頼ってくれてすごく嬉しかった! けど君は、俺よりも佐藤たちといる方が生き生きとしていた!」

 歩夢は慟哭どうこくの雨とともに、両手から次々と光線を放ってくるものだから、俺に球電きゅうでんを作る猶予すら与えちゃくれない。

 光線の一つ一つが今まで彼を避け続けてきた俺へのあてつけのように感じた。

 避けるので手一杯だけど、このまま平行線ではいられない。

 能力を使用している歩夢よりも攻撃を避け続けている俺の方が体力の消耗が激しい。

 今の状況が続けばいずれ俺の敗北は確定する。こちらも反撃しなければ。

 けれど――俺の目的は超能力で歩夢に一発ぶち込むことなんかじゃない。俺がすべきことは……。

「君は余計な真似しないで2科のぬるま湯に浸り続けていればいいんだよ! 1科からバカにされてただひたすら不平不満を地底から叫び続けていろよ!」

 なるほど、それが1科視点での1科に抗う2科(俺たち)への評価か。

 両手からとめどなく作り出されるビーム光線。歩夢はそれを連続で放ってくる。当たればただでは済まない。

 歩夢も辻堂のように2科を憎んでいるのだろうか?

 俺を憎み、その憎悪は次第に縦へ横へと広がっていって。知らず知らずのうちに2科全体を憎んでいったのかもしれない。

 ……今のこの状況は、俺の今までの行いに対する報いなのかもしれないな。

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