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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
32/83

第11話 ①

 無事に2科Aに辿り着いた。

 読みが外れていないならば、2科側の教室のどこかに手帳があるはず。

「まずはここから入ってみるか」

 2科Aの扉を開ける。

 すると中では1科と2科の生徒が睨み合いの膠着こうちゃく状態となっていた。

「あれ? 確かここには1科を陥れる罠を張ったはずだけどなぁ」

 相手は俺が考案した罠に一切引っかかっていなかった。

「お前らの考えそうなことなんてなぁ、勝負前から分かりきってんだよ!」

 1科男子は得意げにふんぞり返った。

 けど驚きはしない。戦法をばらしたのはなにを隠そう俺なのだから。だから奴らが知らない追加の罠も仕掛けてある。

「ふーん。まるで、戦いがはじまる前から既に知っていたかのような口ぶりだね」

 勘のいい太一が零すが、1科男子は焦った様子も見せない。

「ハニートラップに引っかかった高坂ちゃんが全部綺麗さっぱりリークしてくれたからな」

 ハニートラップって。厳密には俺が自らバラしたんだけどそういうことにしておく。

「高坂君、どういうこと!?」

「対1科を掲げた君が俺たちを裏切っていたのか!?」

 当然ながら事情を知らないクラスメイトたちは俺に非難の視線を送ってきた。

「本当に申し訳ない! 美少女の誘惑には勝てなかったんだ」

 俺は深く頭を下げて謝罪した。理由はどうであれ、俺の身勝手で今回の勝負を不利にしたのは事実。

「……まぁ、あんな美人に誘われて断れる硬派な人はいないよねぇ」

「ある意味高坂君らしいというか」

「……みんな、ありがとう」

 クラスメイトたちは背信行為をした俺を思いの外あっさりと許してくれた。

 やっぱり失敗者に優しい2科がナンバーワンなんや!

「あとで全員にファミレス奢ってチャラね」

「全員にですかっ!?」

 地味にエグい償いになりそうだけど仕方ない。悪いのは俺なのだから。

「ここは俺たちが引き続きなんとかするから、高坂君たちは他を当たってみてくれ」

「了解。ここは頼んだよ」

 2科Aはクラスメイトたちに任せて、俺たちは廊下へと戻った。


「ごめんよ太一、俺のせいでせっかく考えた作戦がパーになっちゃって」

 追加の作戦こそ機能してるみたいだけど、それでも星川さんのメンツと引き替えに2科のギミックの減少を引き起こしてしまった。

「謝るのは俺もだよ。友達が異性とデートしている様子を監視してたんだからね」

 …………え?

 あの時何度も俺に不気味な笑みを見せていた黒ニット帽は太一だったの? どうりで既視感を覚えたわけだ。

「どうしてそんな探偵みたいなことを? 推理小説を読んで感化されたのか?」

「どう考えても星川が君を誘うなんておかしいでしょう」

 星川さんから誘いを受けた話をした当初から太一は彼女が俺を誘ったことに対して懐疑的だったっけ。

 いやまぁどう考えてもそうなんだけどさ。思惑なく誘われることなどないと遠回しに言われると悲しい気持ちになる。

「本当は少し尾行して帰るつもりだったんだけど、想像以上に事態は深刻だったから君が作戦を暴露するところまで尾行を続けた」

 作戦を漏らしたところもしっかりと聞かれてしまっていたのね。

 それはそれとして、気になる単語が。

「深刻?」

「まぁ気づかないよね。星川がつけてたペンダントはこれだったでしょ」

 太一が見せてきたスマホには、某有名通販サイトの商品ページが表示されている。

「うん、これだった」

 商品ページには星川さんがつけていたものと同じペンダントが映っている。

 そして、派手なフォントでとんでもないうたい文句が。


『大切な人を守るための防犯グッズ! ペンダントの中に盗聴器が入ってます!!』


 その一文に身の毛がよだつ。

 これも奴の暗躍なのか? ここまで本格的にきてるとは考えもしなかった。

「ボウリング場で星川に接近した時に気づいたんだ」

「よく気がついたな……」

「けど宏彰が作戦を漏らしたのが星川の名誉に傷をつけさせないためだと勘づいたので、君の考えを尊重した」

 だからあえて俺が作戦をバラし終わったあとにあの演技で盗聴器を壊したんだね。

 にしても太一は本当に察しがいいな。よすぎるくらいだ。

「ありがとう太一。助かったよ」

「下手な善意は首を絞めると前に忠告したのに」

「面目ない」

 太一は溜息を一つくと、

「でも君がそういう奴だからこそ、周りのみんなが君の意見に耳を傾けるんだろうね」

 穏やかな表情で素直に俺を称賛した。太一にしては珍しいな。

「これは貸しだからね」

「……結局、言い出しっぺの俺に委ねられるのね」

 太一は言外ごんがいに「君が勝負を決めてくれ」と訴えてきた。

 学科間の対立を大きくさせた原因は俺だ。

 けじめはしっかりつけなければならない。


    ★


 一方、2科C――――

「なぁ、お前らはいつまでそこに固まってるんだ?」

「どうもこうもないわ。邪魔になると悪いからこうしてるんだが?」

「ふぅん――もしかして、その辺に見られちゃまずいものでもあったりしてな」

「んなわけないだろー? さすがに深読みしすぎだな」

「はっはっはー、だよなー…………よーし、この辺をくまなく探すぞ!」

「くっ、こいつらからこの場所を守れ! 学級委員として命じる!」

「おっとー? これはこれは、いよいよそこが怪しくなってきたなあ。どうやら決着がつくのも時間の問題かもねー」

(ちっ、もう少し粘りたかったが限界だな)

「お前らっ! 全力で抗うぞ! 2科のフルパワーを見せてやろうぜ!」

「「「おーっ……!」」」


    ☆


「ん、そろそろだね」

「何が?」

 スマホを見ていた太一が突然切り出してきた。

「1科の連中を一気にリタイアさせる機が熟したのさ。ここからは一端別行動になるけど――再会するまでやられるなよ?」

「分かってるよ。太一こそ無事でいてくれ」

 2科の本部へと歩いていった太一を見送った俺は、2科Bの様子を見るため扉を開けようとした――――

 ――その時だった。


「ヒャーッハッハッハー! ここで真打ち登場よぉ! 待たせたなぁ、カス野郎!」


「いやいや、この世界で誰一人としてお前なんか待ってなかったからな?」

 神経を逆撫でする声色こわいろの主は辻堂だ。唐突に現れやがったな。

「テメェ等クソコンビがバラバラになる時を待ってたんだよぉ! 昔の偉人も名言を残してるだろ? 鳴くまで待とう、と」

「…………! 仲間を引き連れてきたのか……」

 辻堂の背後には取り巻き二名がギラギラした目で俺を睨んでいる。

「小賢しい悪知恵が働く佐藤がいねぇテメェなんざ、味噌の入ってねぇ味噌汁同然だ!」

「味噌が入ってない味噌汁ってアンタそりゃただの白湯さゆでしょ」

 まぁ、商品として成り立っていないと言いたいのは分かったけど。

「ほざけ。どんなに吠えようがテメェが生き伸びるすべなんざねぇ」

 悔しいけどその通りだ。俺は今、三角形を描く形で三人に囲まれている。仮に水鉄砲を使ったとしても助からない。

 ……普通ならな。

「よーし、コイツを床に押さえつけろ! 俺が直々にシールを引き剥がしてやらぁ!」

「へっへっへ、了解~」

「2科め、覚悟しな!」

「くっ!」

 取り巻き二人は俺を床に叩きつけて両腕両足を押さえてきた。

 こんなにあっさり捕まるなんて我ながら情けなさすぎる。

 辻堂の言う通り、俺は太一がいなければ何一つできないのか。

「お? おぉ? 抵抗しねぇのな」

 俺がもっと抵抗すると予想していたのか、辻堂は意外そうな表情を向けてきた。

「諦めたのか? それとも佐藤や他の連中が駆けつけてくれるってかぁ? 誰かのケツにしがみついてねぇと何もできねぇんだな、テメェは」

 確かに俺一人でできることなんてごくごく僅かだ。

 けどな、それの何が悪い?

 いかなる人でも他人との繋がりが避けられない現代社会において、一人でなんでもこなせる人はほとんどいない。みんなどこかしらで誰かの力を借りているんだ。

 打倒1科を掲げたのは俺だけど、到底俺一人の力で成し遂げられる野望ではない。だから同じこころざしを持つ人たちと協力して、力を出し合っているんだ。

 その確たる例が先の球技大会だ。1科に勝ちたい想いを抱いたメンバーが集結して1科クラスの3組に勝つことができた。負けたけど5組戦も善戦した。

「ワンマンショーしかできないお前よりはマシだバーカ」

 俺は福笑いのような顔を作って辻堂を煽る。

「あ? なんつった!?」

 顔を歪めた辻堂が俺の胸倉を掴んで睨んでくる。

「先月の球技大会、稲田君をクラスメイト扱いすらせずに、自分のことしか考えない行動ばかりしてたよな」

 負傷したクラスメイトを放置して勝つことだけに執着していた。チームプレーもせずに個人プレーに走って揚げ句の果てにはクラスメイトに無茶な要求を突きつけて雰囲気を悪くさせていた。

「それに比べれば俺の情けなさの方が遥かにマシだね」

 俺も大概甘ったれのクソ偽善者野郎だけど、コイツと違って人の心は持ち合わせている自負はある。

「俺には助けてくれる友達がいる。お前はどうだ? その取り巻き連中は果たしてお前がいざとなった時に手を差し伸べてくれるのかね?」

「挑発しても聞く耳持たねぇぜ。勝手に友達自慢してろってぇの」

 取り巻きと友達は違う。弱い者を虐げる時にだけ結託するような連中に負けてたまるか!

「ああああああーーっ!」

 雄叫びを上げて身体中に力を込める。

「2科が1科から見下されないように――1科と同等の学園生活が送れる未来のために、まだまだ終われないんだよ!」

 俺の勝手な打倒1科という目標に付き合ってくれているクラスメイトたち。俺なんかよりも何倍も素晴らしい友達。

 今だって、みんな必死に戦ってくれているんだ。

 それなのに、俺だけこんなにあっさりとやられていいのかよ?

 否、いいわけないだろ!

 みんなが俺の想いを背負ってくれているように、俺もみんなの想いを背負っているんだ! ここで終わらせてたまるもんか!

 抗えば1科に報いることもできるって2科のみんなに希望を持たせたいんだ!

 だから俺は、決して諦めない!

「フン、お前ごときの腕力で俺らの腕を振りほどこうなんざ甘いんだよ!」

 しかし、相手の方が力が強い上に二人から押さえられているため闇雲に暴れたところで状況が好転するはずもなく。

「そーそー。大体さぁ、俺らだって無駄にダチやってねーんだぜ? こういう時の俺らは息ピッタリよ」

 息ピッタリねえ。今まで2科生徒を虐げる時にもきっとこんな感じのことをして虐めてきたんだろうな。

 けど負けるか!

 こんな奴らに負けてなるものか!

(両手に力が集まるイメージで――)

 厳禁だと理解はしてるけど、こいつらにはなくて俺にはあるコレを使うしかない!

 俺は身体中の力を両手に流し込む。

 両手に電流が流れているのが感覚で分かる。

 前回は誠司相手に失態をさらしたけど、同じてつは踏まない!

 相手に危害を与えない程度のほんの一瞬だけ、電気を両手から放出した。

「ってぇ!?」

「せ、静電気か!?」

 取り巻き二人は痛みから俺の身体を放したため、俺は解放された。

「チイッ。テメェ等、手ぇ抜いてねぇでもっとちゃんと押さえ込んどけよ! 使えねーな!」

 辻堂は憎々しげに俺をねめつけてくる。

 コイツもコイツですぐさまシールを剥がさずに無意味に焦らしてくれたのも俺が助かった要因なんだけどな。


「……ケッ、まぁいい――――高沢ぁ! 星川さん!」


 辻堂が叫ぶや否や、廊下の突き当たりから高沢君と星川さんが現れた。


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