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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
13/83

第4話 ②

 幸いにも、相手はこちらより四人も少ない七人というハンデを自分たちから作ってくれた。

 逆境であることには変わりないけど、これで勝負はまだ分からなくなったぞ。

 四度目のキックオフをするが、四人抜けただけでもピッチの中は結構ガラガラになるものだね。

 と考えているうちに、早くもボールが奪われてしまった。

 けど、これ以上はもうシュートは入れさせないぞ。

「ちっ、邪魔臭ぇなあ」

 高沢君には四人もマークがついており、さすがに振り切れないので彼にパスは出せない。

 相変わらず女子集団からは激しい罵声が飛び交っているけど、気にしている余裕などない。

 更に今ボールを操っている3組男子にも二人マークがついているので、そう簡単にパスはできない。てかさせない!

「だから、パスする相手は高沢だけじゃないと――」

 と、そこまで言って相手は絶句する。

 そりゃそうだ。残りの四人にも一人ずつマークがついており、ノーマークの生徒は誰もいないのだ。

 強いて言えばゴール付近がノーマークだけど、二人に周りをちょろちょろされていれば安易にあそこまでパスは回せない。

 サッカー部の山田君が抜けた今、3組の面々で特別上手いのは高沢君一人だ。フルメンバーだった時と比べると脅威はない。高沢君さえ警戒しておけばまだ勝利の目はある。

「ちっ!」

 埒があかないと考えたのだろう。3組男子は悔しげに舌打ちをすると、6組側ゴールの一番近くにいる男子にパスを繰り出す。

 だけど焦りからか、ボールの軌道は大幅に逸れ、コートの外へと飛び出した。

「よし、こっちボールだ」

 ゴール近くで待機していた誠司にボールがパスされる。

 通常、攻撃側がマークをされるものなんだろうけど、逆に俺たちが相手を足止めする。誠司の直進を邪魔されるわけにはいかないからだ。

 マークがいない誠司は3組側ゴールに向かって全力でボールを蹴り、見事にゴールインした。

「よーし一点取ったぞ! あと二点で同点、まだまだ勝負は分からないぜ!」

 一人大声で盛り上がる誠司。

 俺も同じ気分だけど、2科の性質上、誠司以外に声を張り上げて感情を露わにする熱い生徒はいない。

 が、みんながちょっとした達成感のようなものを感じているのが分かる。

 まだ二点差あるので悠長なことは言ってられないが。

「おいおい、2科に一点入れられちまったじゃないかよ」

「ま、まだ二点リードしてるし大丈夫でしょ」

 2科に一点を返されたことがよほどショックだったのか、3組の生徒たちは動揺を隠せないでいる。

 うんうん、これも想定していた通りのシナリオだ。

「宏彰、ちょっと」

 太一が小声で俺に話しかけてきた。

「誠司や豊原にはもう伝えたけど、さっきのプレーを見るに、キーパーはあまりサッカーが上手くないと見た。それと2と7のゼッケンもあまり上手くない。二人にはこれ以上マークはいらないね」

 よく見てるなぁ。俺は走り回るだけでも精一杯だというのに。

 あぁそうか。太一は基本的に2のゼッケンを着た人をひたすらマークしてただけだから、3組生徒を観察する余裕があったんだな。

 3組の穴を発見したことで流れが更にこちらに傾く。

 マークの人員を二人分減らすことにより6組には更なる余裕が生まれ、試合開始直後に比べて皆の動きが機敏になってきている。

 3組は先ほどの三人以外は誰かしらからマークをされているが、こちらにはフリーの人が何人もいる状態だ。

「んー、これはかなりまずいな」

 高沢君が腕を組んで嘆く。つい数分前までは自分たちの勝利を確信していたのに、今では3組の持ち味だったコンビネーションはガタガタになっており、運動能力に劣る2科クラスに圧されているのだから、嘆きたくなるのも無理はない。

 メンタル面での疲労とともに完全にリズムを崩した3組の生徒たちはドリブルすらも安定しなくなってきており、誰もいないところにボールを飛ばしてしまった。

 転がるボールを追いかける人物が一人。それは俺だったりするんだけど。

 俺はボールの主導権を握り、不安定なドリブルでひたすら前進する。

 途中で3組男子がボールを奪おうとするものの、6組男子が邪魔するので満足に身動きが取れない。

 みんな、ありがとう。おかげで警戒いらずにドリブルができる。

「くそっ、お前らは背丈だけは無駄に高いから本当に鬱陶しいな……!」

 3組男子は苛立ちから下唇を噛む。

 と、その背後から高沢君が走ってきた。

「これ以上、そっちの好きにはさせない!」

 マジかよ! 高沢君はマークする生徒を俊敏な身のこなしで強引にかわして、俺からボールを奪おうと迫ってくる。

 くっ、パスを回せそうな人は――――いた!

「豊原、頼む!」

 運動が苦手な豊原にパスするのは酷だけど、3組ゴール少し手前、しかも周囲に誰もいない最高の位置にいる君にパスするのが最も成功率が高いんだ!

「ぼ、ぼぼ、僕?」

 俺のパスは軌道が逸れ、ピッチの端付近までボールを飛ばしてしまったけど、走れば拾える範囲内だ。

 なんとか豊原は足でボールを止めた。

 すると。


『うっわ~、豊原がボールに触れちゃったよ』

『椋、ボール奪っちゃって~! ――けど、奪ったらあいつの呪いが』

『いやぁ! 高沢君がけがされる!』


 酷い言われよう。この試合で一番女子たちから罵詈雑言を浴びせられているな。

「………………」

 ――あれ? 豊原の様子がおかしい。俺がパスしたのがそんなに意外だったのかな?

「………………の……どもが……!」

 ん? 何か呟いた? ほとんど聞き取れなかった。

 疑問に思っていると、豊原は後退して助走をつけ、ボールに向かって走り出し――


「う、うう、うぜーんだよ! く、く、くたばれ三次元のメ、メスどもがぁアアアアアアアァァァ!! 死ね死ね死ね死ね死ねーーーーーーーーっ!!」


 怨念のこもった叫喚とともに、漆黒をまとったシュートがピッチの端から放たれた――

 って、豊原のどこにこんなパワーが? これが憎しみの力だとでもいうのか?

 ――だがしかし。

 3組のキーパーは、なんと暗黒の力が込められたボールを正面から受け止めた。

 や、やべぇ! あんなシュートを放った豊原もすごいが、そのシュートを止めたキーパーにも脱帽だ!

「と、取れちゃった――って、あれ?」


 刹那、キーパーの体ごとボールがゴールネット後方まで吹っ飛んだ。


 男子高校生ごとゴールインさせるとか、トヨハラアンタナニモノ?

 と、とにかく。これで一点差だ。

「なんなんだ、豊原のあの力は……」

 高沢君をはじめとした、その場にいる全員が唖然としている。俺もビックリだよ。

「はぁ、はぁ……ぞ、憎悪の底力を、な、な、舐める、なよ……!」

 憎悪のパワーを右足に込めてシュートを放った豊原はすごすぎるよ。

 でも、今君の周りから発せられているオーラは闇よりもドス黒いよ。これじゃ悪者そのものだよ。

 豊原の隠れた超能力が発動したのは驚いたけど、概ね俺たちの想像通りに事は進んでいる。

 太一が考えたプランはこうだ。はじめは相手にどんどん点を取らせる。こちらは下手なりに全力でプレーをする。そうすることで相手はこちらの弱さを確信し、舐めきって真剣にプレーをしなくなり、そこからコンビネーションの乱れや流れが傾くのを待つ。

 一種の賭けだった。失敗すれば相手に点を与えるだけ与えて試合が終わってしまう危険性をはらんでいた。相手が大量リードしたところで時間稼ぎをしてくる懸念もあった。

 しかし作戦は見事に功を奏し、太一の思惑通りの展開となった。

 四人も、おまけに3組ナンバー2の山田君まで抜けてくれたのは想定以上だった。

 スポーツにとって、メンタルは非常に重要だ。いくら運動能力が高くても、気持ちにぐらつきがあれば、できるものもできなくなる。

 反対に運動能力が劣っていても、流れが自分たちに向いており、チームの雰囲気が良ければ意外と良いパフォーマンスを発揮できることだってあるのだ。

 まさにこれら両方の例が今の3組と6組の状況だ。3組の方が総合的な力は上だけど、チームワークが乱れ、人数的にもハンデがある今の状況下では本来の力は出せない。

「完全に流れは俺らに傾いてるぞ! この調子で最後まで押し通すぞ!」

 誠司が意気揚々と叫ぶ。

 対照的に3組の生徒たちからは覇気がなくなっている。

「まだこっちがリードしてるんだ! 残り三分、全力で守れば勝てる!」

 高沢君が3組の面々を鼓舞するけど、勢いに乗った6組はもう止められない。

 更に人数の差も手伝って、6組は最後の反撃を開始し、試合終了ギリギリのところでどうにか勝つことができたのだった。

 完全に太一の作戦が上手く行った最高の結果と言えよう。


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