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逆襲の花嫁  作者: 五十鈴 りく


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✤22

「男性がリゼットを訪ねてきたそうなのです。どうしてここにリゼットがいると知ったのでしょう?」


 メイドから報告を受けたらしく、ロジーナが慌ててジスランの部屋までやってきた。また薔薇の手入れをしようかと思い、着替えをする直前だったので助かった。おかしな格好をしているところを見られたら小言を食らう。

 しかし、男がリゼットを訪ねてきたとは――。


 そこでジスランは思い出した。それはサンテールで会った御者の青年ではないのか。

 リゼットに彼が心配していたことを伝えるつもりが、いろいろとあって忘れていた。ついでに言うと、名前も思い出せない。


「それはリゼットと同じ屋敷で働いていた青年かもしれない。俺がリゼットはうちにいると教えたから……」


 すると、ロジーナは目を瞬かせた。


「兄様が? それは、兄様から見て害がないということですの?」

「多分……」


 害はないと思う。むしろ、リゼットに好意を持っていて心配している。

 会いたがっていたから、行方がわからなくなる前にここまで来たのだろう。


 ロジーナは納得した様子だが、それでも気がかりに見えた。


「でも、リゼットはロッセル家の馬鹿息子に嫌な目に遭わされたところですから、いくら知り合いとはいっても心配ですわ。私、様子を見てきます。兄様はどうなさいます?」

「うん?」

「兄様、リゼットが彼と出ていっても構いませんの?」


 いきなりそんなことを言う。

 ロジーナは一体、ジスランに何を期待しているのだろう。その期待が過度である気がする。

 いくら独り身の兄を残して嫁ぐのが気がかりでも、リゼットのことを心配していても、だからといって二人をまとめて片づけようとするのはどうかと思う。


 まったくそうした可能性がないとは言わないが、今の段階で彼女にそこまでの執着はない。

 ジスランがそんなふうだから、ロジーナからしてみると、この時に男が訪ねてきたことが不安の種なのかもしれない。


「それがリゼットの幸せなら、お前も送り出してやるべきだ」


 そう言ったら、途端にロジーナが憤慨した。怒られる筋合いはないはずである。


「その男性がどんな方かもわからないのに見送るなんて、私にはできませんわ。相応しいと思ったらいくらでも応援して差し上げます。ええ、それこそ兄様よりもお似合いかもしれませんし、だとしたら兄様が後で何を仰ろうとも仲立ちなど致しませんわっ」


 怒らせると厄介な妹なのだが、どうやらジスランの返答が気に入らなかったらしい。

 仕方がないので、ジスランはロジーナについてリゼットと来訪者の元へ行くことにした。

 ジスランも、彼には少々謝らなければならないような気もしたのだ。


 しかし、屋敷の外で話していた二人は穏やかではなかった。男性がリゼットの手をつかみ、引き寄せようとしているのをリゼットが拒んでいるように見えた。

 そして――。


「嫌な思い? したわよ、そりゃあね。メロディたちがあたしを売り渡したことを一生忘れない。友達だって信じてたのに、あっさり裏切って――それを忘れろっていうの? 嫌よ。絶対に復讐してやるんだって決めたんだから。あの子たちがあたしが嫌な思いをした何倍も不幸になればいいのよ」


 リゼットの口から生々しい怨嗟の言葉が漏れる。

 大人しいリゼットだから、恨み言は呑み込んで耐えていたのだろう。けれど、ふとした拍子にそれが零れた。


 御者の青年はそれに対し、何かを返していたが、低くボソボソと喋るからこの距離では聞き取れない。

 リゼットは激昂した。


「やめてよ。もう帰って!」


 この青年ではリゼットの苦痛を和らげてやることができない。リゼット自身が求めていないのだ。


 しかし、復讐とは穏やかでない。

 リゼットの言葉からすると、リゼットは友達に裏切られた。多分、アダンにリゼットを売り渡したのがその友達だということらしかった。


 もしそれが事実なら、リゼットが心に負っている傷は、ジスランが思っていた以上に深い。理由があったとしても、恨むなとは言えない。

 ただ、恨みを抱えるつらさを思うと、その感情はリゼットのためになるだろうか。どうしたらリゼットは恨みを忘れられるのだろう。


 ふと、リゼットは、今の話をジスランとロジーナが聞いていたことに気づいた。顔色が怒りから絶望に代わっていく。

 自分の身を心底案じてくれているロジーナには、きっとこんなことは聞かせたくなかったに違いない。ロジーナもまた、リゼットの心中を思ってか、つらそうに見えた。


 いたたまれなくなったのか、リゼットは身を翻して駆け去る。行く当てはないはずだから、そう遠くへは行けないはずだ。

 ロジーナは、御者の青年に鋭く言う。


「リゼットのことは私たちに任せてくださらない?」


 青年もまた苦しげに見えた。戸惑い、口ごもっている。

 ロジーナは、ジスランの方を向かずにささやく。


「兄様、リゼットを追いかけてくださいませんか? よろしくお願い致します」


 ジスランも、今のリゼットをどう扱っていいのかわからない。けれど、隠れて泣くのだろうなと思ったら、やはり放ってはおけなかった。

 ジスランはロジーナに言われるまでもなくリゼットの後を追う。


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