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名もなき神学者の偽書  作者: уТ
第2章 パンタレイ
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第2章 2節 モメント

 ぼくは野営基地のテントで目をさました後、水辺に向かった。最近、起きた時にはなぜかポーチに入っている包帯が両目に巻かれていて、目が見えなくなっていることが多い。寝る前に寝ぼけてアイマスクにしようとしたのだろうか……。全く記憶は無いのだけれど。

 水辺についた。水面を見つめている。女みたいな顔がうつっている。白くて結べ無いくらいの少し長い髪、紅い眼、その上の凛々しい睫毛。華奢で丸みのある身体。お前を見つめていると心が荒んでしまう。ぼくはお前が好きなのかもしれない。気分はナルキッソスだった。いや、ぼくはレイだ。ぼくはこんな女じゃない。ぼくは拳銃を腰から取り出し、この水面にうつる女に照準を合わせる。生意気に、この女もぼくと同じことをしていやがる。これは人を殺す為の道具だ。引き金に力を入れると相手はもう二度と会話も息もできなくなる道具だ。


 ぼくは、引き金に強く力を入れた。薬室が爆発、拳銃のスライドが後退し、隙間から煙が上がる。水面にうつっていたぼくの顔は血のような水滴を跳ね飛ばし、木っ端微塵になった。水滴が顔に当たり、冷たい。夏だっていうのに、太陽がバカみたいにギンギンなのに薄ら寒い。ぼくはその場を去る。踏み込む足下にポキポキと折れる枝の音が聞こえる。ポキポキと人を殺してきた。自分さえも殺す。そう、枝を踏む感覚。なんら枝と変わりない。物質も、生物も、植物の屍も。


 数千日前の記憶がもうない。ぼくはどこで生まれたのか、どこで育ったのか……。そうだ、一番最後の乳歯が抜けた後の記憶だけが、記憶に残っている。それ以前の幼少期、ぼくは何をしていたのか。それを全く忘れていた。

 そうだな、記憶が無くなる前後、馬に乗っていた事だけは覚えている……。なぜか馬に……。駄目だ、ファジーにしか思い出せない。ファジーな馬に乗っていた。そして、なにか知らないものを欲して、死ぬような苦しみを味わった。苦しい、苦しい、喘ぎながら馬に乗って、どこに向かうのか知らないけれど、とにかく夜明けの太陽に向かって走らせていた。


 あの後、今でも仲間のツァラトゥストラに助けられたんだ。ツァラトゥストラは……

「レイ、敵影は見つかった?」

この少女、ぼくより数千日、上の少女がツァラトゥストラだ。

「いやツァラトゥストラ、敵影は見つからない」

「そう、じゃあここにはいないということね。第九地区にむかいましょう。さあ、はやくジープに乗って」


 ぼくはまた、とめてあったジープに乗る。ツァラトゥストラがよく姿の見えない運転手に、乗ったことを告げると、ジープは発進した。

 我々はモメントという装置を用いる敵を探している。でもなければ、こんなジープなんていう乗り物には乗らない。ジープに乗るのは物好きな金持ちか、馬も買う金のない貧乏人か、戦術的に遅く走れる乗り物を必要とする"血迷った軍隊"だけだ。普通、軍隊なら電磁パルスや電力不足に左右されない馬を使う。

「あら失礼ね?鹵獲兵器のストラテジックな応用と呼んで欲しいわよ」

 対面に座っているツァラトゥストラに独り言が聞こえていた……。要するに、モメントという装置を用いれば、瞬間移動ができるのだ。これにより世界中の車両の需要が減り、三食の飯を買う値段で車を買うことができるようになった。乗り物はガラクタとなったんだ。モメントの実装により世界の戦争は大きく変わった。戦争は変わったのだ。

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