元上司
朝、目覚めれば、今日が最後の日だと覚悟を決める。本来はそうあるべきなのだ。
「端的に言おう。手を引け。」
元上司で、行政系トップの総務部長が唐突に話す。
「統括、それはどういう…」
「分かっている筈だ。貴様が今、やろうとしていることを……だ。」
きっともう、全てお見通しってところだろうな。どうしたものか思案をしているところで。
「部長補佐官、つまりはアイツが貴様に何を吹き込んだのかは概ね分かっている。そして、貴様も、気が付いていると思っていたが?」
全く嫌になるぜ。相変わらず、全てお見通しってわけだ。しかしながら今回は、カマをかけてきているのも分かっている。俺も少しは成長したのかもな。
「統括。お話は分かっています。しかしながら、私は今の本庁が何を考えているのか計りかねているのもまた事実です。少しだけでもいいのでお話下さいませんか。」
「私相手に、交渉とは…そして、こちらの情報の持ち具合も分かっているようだ。成長した、うむ。いいだろう。」
「今回の、憑鬼の一連の件は、本庁指導部の主導なのですか?」
「違うな。貴様は一つ勘違いをしている。本庁は指導部も、もちろん総務部も、自分達の意志で施策を講じる事はない。断じて。」
「なるほど、国…ですか。」
「そうだ。それ以外にはない。今も昔も我々は変わらない。だからこそ、おかしいと思わねばなるまい、あの男から吹き込まれたことに。貴様は何も感じなかったというのか?」
「………。」
「まあ、いい。私が伝えるべきは伝えた。勘違いするなよ。今の私は総務部だ。指導部の動きそのものをどうこうする立場にはない。ただ、貴様が、関わっていい案件ではない事だけを伝えにきた。昔のよしみだ。指導部は貴様らを監視している筈だ。せいぜい気をつけろ。ではな。」
「と…統括。あ、ありがとうございました!」
元上司はほんの少しだけ、微笑んだように見えた。
「架けろ、駆けよ、双頭の鷲…翔」
あっという間だったよ、相変わらず不器用なお人だ。…しかし、やはり、俺自身が引っかかっていることはどうやら気のせいじゃなさそうだ。そして、監視⁉︎、なるほど監視人がいるってことか。…さて、どうするかね。




