出発…?
頂上から見る景色の本当の美しさは、麓から頂上を見上げたことのない者には解らないのだ。
気づけば、時間は過ぎていた。
もう、出発の刻だ。
校庭。
組織委員会、そして校長会の幹部たちが並ぶ。
……大げさだな、全く。
「ハンカチは持ったかい?腹痛の薬は?替えの――」
「子供じゃないんですから」
俺は軽くいなす。
「念のためだよ、念のため」
やれやれ。
そんなやり取りをしながら、俺は三人を見る。
――今回、連れていく連中。
一人目。
主任教諭。
表情がない。
感情が、読めない。
俺が以前いた学校で、少しだけ面倒を見た男だ。
“育てた”なんて大層なものじゃない。
ただ、機会を与えただけだ。
だが今は違う。
主任でありながら、実質この学校を回している。
……面白い男だ。
伸びしろで言えば、俺以上かもしれない。
天涯孤独。
だからか。
妙に、壊れにくい。
二人目。
教諭。
いわゆる、体育会系。
真っ直ぐで、分かりやすい。
今回の“裏切り者”と同期。
……思うところは、あるだろうな。
それでも来た。
それだけで、十分だ。
三人目。
養護教諭。
「回復役」と言えば、それまでだが――
それだけで連れてくるほど、俺は甘くない。
年齢不詳。
……校長と同類か。
ふと視線を感じる。
校長が、養護教諭を睨んでいる。
……ああ。
なるほど。
面倒くさいやつだ。
「行くかね」
「はい」
「うぃっす」
「いつでも」
三者三様の返事。
その時。
「あら、副校長先生」
養護教諭が一歩近づく。
「襟が曲がっておいでですわ」
指先が、首元に触れる。
「――っ」
「直して差し上げても?」
「結構です」
一歩、引く。
「……そう」
微笑む。
その瞬間。
「やめんかこの女狐ッ!!」
校長の怒号。
「……は?」
「副校長に気安く触れるな!!」
「……」
養護教諭が、ゆっくりと振り返る。
「あら」
にこり、と笑う。
「どなたかと思えば」
一歩。
距離を詰める。
「結婚もできず、出世に全てを捧げて“校長”になられた方ではありませんか」
「なっ……!」
「お元気そうで何よりですわ」
視線が落ちる。
「……あら?」
くすり、と笑う。
「言霊を使いすぎて、ずいぶんお疲れのご様子ね」
「貴様……!!」
校長の霊圧が、わずかに漏れる。
「相変わらず……口の減らぬ女狐め……!」
「お褒めに預かり光栄です」
一礼。
「狸校長先生」
「〜〜っ!!」
……だめだ。
長引く。
「……行きます」
俺は一歩前に出る。
「――ああ、そうだね」
校長が、少しだけ真顔に戻る。
「副校長」
呼ばれる。
「……はい」
「死ぬなよ」
一瞬だけ、間。
「君が死ぬと、困る」
「……承知しています」
軽く頷く。
振り返らない。
「じゃ、行くかね」
歩き出す。
三人が続く。
校門を越える。
その瞬間。
空気が、変わる。
――ここから先は、学校じゃない。
戦場だ。
「……さて」
小さく呟く。
「始めるか」




