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魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第二章 新住人たち
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ギフト

「先に言っておく。おまえは今、殺されても文句を言えないような事をやらかした。これから少しでも妙なことをしでかしたり、俺の質問に対して虚言や口答えをしたならその時点で問答無用で殺す」


 強い殺気をセイジロウに叩きつけながらチラリとマカンに視線を向けた。


「うそだめだからっ! ビィせんせほんきっ!」


 マカンも俺が脅しで言っている訳ではないことを察し、セイジロウに間違っても嘘をつくなと注意を促した。


「ななななななんでこないな……」


 不思議なものだな。全身緑色しているくせして青くなっているのがわかるなんて。

 セイジロウは腰を抜かしたようにへたり込み、両手をついて荒く呼吸を繰り返しながら戸惑いの声を上げていた。こいつは自分がしでかしたことを恐らくちっとも理解していないようだった。


「さて。……おまえ今、俺にいったい何をしようとした?」


「な、なにて……」


 余計なことを言ったら殺すとばかりに短剣を握る手に力をこめる。わずかだが首筋が刃に押され、セイジロウの全身が強張ったのがわかった。


「ワ、ワイ『鑑定』いう力が使えるようになったんや……! つい最近気がついてん!」


「…………」


「そ、そんで、そこらの物とか試しに調べたりとかしとってな、これで人間を調べてみたらどないなもんが見えるんか気になったんや。それで……ビィさんに『鑑定』をつこうたんや! 別に変なことしとらんで!?」


「黙れ。十分変なことなんだよ」


「……なんでや……なんでこないなことで怒られなあかんねん……」


 この発言で俺がイラっとしたのを感じ取ったのか、咄嗟に動いたのはマカンだった。

 駆け寄ってくるとポカンとセイジロウの頭を殴りつけた。


「ぐはぁっ!」


 いや、ポカンとかそういう可愛らしいものじゃないな。本気ではないだろうが十分大怪我しかねない一撃だった。それを受けてセイジロウが地面を転がる。

 俺が短剣を引かなかったらあいつ死んでたぞ。


「おっちゃんはわるいことした! まずあやまる!」


「……す、すんませんした……堪忍してくだせえ……」


 マカンに殴られたことでこの場に味方がいないことと、下手な事を口にすべきでないことを理解したのだろう。大人しくセイジロウは謝罪の言葉を口にする。しかし当然ながら本人は自分がなぜ責められるのかはまだわかっていない。


 俺も少しは冷静になれた。

 恐らくこいつは俺に害意があって何かをしたのではない。


「セイジロウ。『鑑定』が使えるようになったといったな? それは対象となる物の情報を吸い出す力のことか?」


「そ、そうなんや。ビィさんも『鑑定』のこと知っとるんやな?」


「おまえは以前からその力を習得しようとしていて最近使えるようになったのか?」


「ちゃうねん。ワイもなんで使えるようになったのか全然わからんねん。ただな、田んぼにまこう思うてた種がどれかわからんようになってもうて、どれやったかなんとか調べな思うてたら『鑑定』できることに気がついたんや……。ホンマやで?」


 …………あー、またこいつは面倒くさいことを!


「ならそれはギフトだ」


「……なんやそれ?」


「ギフト。神からの贈り物、なんて言われる特殊な能力だ。その中でも『鑑定』は所持者を不幸に誘うカースギフトに分類される」




 ギフト。

 訓練によって習得する技術ではなく、ある日突然使えるようになる特殊な能力を指す。

 どうすれば得られるのかという条件に関しては一切が不明だが、召喚された勇者は例外なく複数のギフトを持っていたらしいことから異世界人はギフトが得られやすいのではないかという仮説もあった気がする。


 基本的には便利な能力であるのは間違いない。

 使いこなすことができればギフトを持たない者より確実に優位に立てる。神からの贈り物なんて言われるのは伊達ではないのだ。


 だがしかし、中にはカースギフトという分類をされてしまった能力もいくつかあった。この辺は長年ギフトの研究をしているダンクルマン一派による論なので一般に広く知られている知識ではないが、多くの魔術士も関わっているのでそれなりに根拠ある分類だ。


 カースギフトといっても実のところ能力自体が悪い訳ではない。

 その能力が人間という脆弱な個体には使いこなせなかったり、人間の社会に不適合だったりという理由で所持者を不幸にしてしまうのである。


 例えば自身の手の平の上に超高熱の炎を生み出す力があったとしよう。

 それを使えばあらゆる物質を焼き滅ぼせるほどの炎だ。使いこなせるならばあらゆる敵を駆逐できる戦士になれるだろう。

 だがこの力を使った瞬間最初に犠牲になるのは一番身近にいる使用者なのだ。


 能力が悪い訳ではない。人間が使って良い能力ではなかったというだけの話。

 そしてギフトは技術ではない貰い物、いや、借り物というべきかもしれない力である。もしこれが技術であるのならば習得の途中で強弱の調整ができるようになるかもしれないし、その力のヤバさに気づけるかもしれない。

 しかしギフトに力の調整なんて機能はない。技能ではないのだから。

 ただ使うか使わないかの2択しかない。使ってはいけない能力であることに気がつくのは使ってからという訳だ。


 セイジロウの得た『鑑定』に関してはそういう極端に反動がくるような能力ではないが、この場合は人間の社会の法に思いっきり喧嘩を売ってしまうことになるのが問題だった。

 特にセイジロウは魔族だ。本人は妖怪であり魔族ではないと主張しているが、そんな理屈は関係ない。

 考えてもみて欲しい。他国の者が国内で『鑑定』なる能力を使って自国の要人なりの情報を覗き見て回っているのだ。密偵だと言われても否定しようがない。この時点で発覚すれば拷問されて処刑待ったなしだろう。


「おまえが俺にやったことは、簡単に言えば魔力による正体不明の攻撃をいきなり仕掛けてきたようなものだ。おまえに悪気がなかったとしても、俺に悪影響を及ぼさない力だったとしても、そんなことをわからない側からしたら一緒だ。影響が出てからでは遅い以上、何かされたと悟った瞬間に防御・妨害・排除・逃走のいずれかを行う必要がある。無断で何かやらかした時点で殺されても文句が言えないということだ」


「……すんません。でもホンマそないに怒られる思うてなかったんや。『鑑定』いうのはそのなんや、カノベじゃ定番でみんなわりと気軽につこうとるもんやから……」


「カノベがどうとか定番とか言われてもさっぱりわからんが、おまえの世界では『鑑定』を使うのは当たり前だっていうのか? 危機感欠落しているんじゃないのか?」


「いやでも、ただ相手の情報覗き見るだけやで? 別にそんな悪いことでもないんやし……」


「十分悪いことだろうが。人によっては他人には知られる訳にはいかないことも多く抱えている。その能力でどこまで深く見えるのかは知らないが、例えばそれによって相手が自分より武力において格下か格上かの判断がつくなら、格上には媚びへつらい、格下なら襲って金品の強奪でもしようと考えてても不思議じゃない。

 おまえの言い訳にしたって、他人の家に勝手にあがりこんであれこれ漁ったあげくに家主に見つかったら『調べるだけの何が悪いんだ?』とか言ってるのと変わらん。おまえそんなことされたいのか?」


「…………ホンマすんません」


 能力としては使い方次第では非常に有用なのは間違いないのだが、だからこそ使い方を厳選すべき能力である。王国では『鑑定』の魔術習得者は厳重に管理されている程だ。

 こいつがそんなギフトを持っていることが知られたら確実に抹殺されるな。


「繰り返すが、おまえがやったことは問答無用で殺されてもおかしくない行いだ。俺もマカンが止めなければ殺すつもりだった。これは『鑑定』だから悪いという話じゃなく、不用意に魔力を使うこと、特に他者に魔力で干渉することは厳禁なんだ。断言するがな、俺以上に手の早いグラムスさんや、高位貴族であるジルユードなんかに同じことをやっていたらその時点でおまえが助かる可能性はほぼ無かった」


 俺が手を止めたのはマカンが静止したからでもあるが、こいつにこの世界の常識が欠けている可能性に思い至ったからでもある。飼い主はマカンだが、俺にもこいつの世話をやいている立場として教育を怠った責任はあるだろう。


「ほな……もう使わん方がええいうことやね」


「そういうことだ。その能力はカースギフトだ。そう呼ばれる理由をよく頭に刻んでおけ。この能力はおまえの身を滅ぼす」


 ギフトというのは労せずに手に入れた便利な能力だ。

 だからたいていの者がその能力を使いたがる。今俺がこうして厳重に注意したとしても、少しぐらいならいいのではないかという誘惑がこれから何度もセイジロウに襲いかかってくることだろう。その誘惑に一度でも乗ってしまえば徐々に頻度が増しいつかきっと破綻する。

 『鑑定』というギフトを得ただけでこいつは破滅への一歩を踏み出してしまったのだ。


「どうしても『鑑定』が使いたいなら俺が許可して監視できる場合のみ認める。それ以外で使用したのが発覚した時点でおまえを殺す。それ以外にもジルユードにおまえが『鑑定』を使えることが知られた場合も殺す。あの女には絶対に知られるな。マカンが口を滑らせただけでも死ぬことになる、というのを覚えておけ」


「あかんやーんっ!!」


 セイジロウの声には絶望感がつまっていた。

 ああうん、マカンが口を滑らせない保証なんて俺にもできんからな。諦めろ。

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