476 断固として断る
近江国での居城は、浅井家の居城であった小谷城をそのまま使う事にした。
史実では小谷城は破却となって、藤吉郎が今浜(長浜)に長浜城を築くのだが、新しく城を築いている時間が勿体無い。
何より今浜は俺の領地じゃないしね。
まあ、小谷城は戦でボロボロだし、抜け道とかあったら旧臣共に筒抜けになるから、改築は必須だけど。
よし、小谷城の普請は、普請担当の一柳弥三右衛門(直秀)に任せよう。
今、弥三右衛門は京屋敷で極秘作業中だが、まあ気分転換にもなるだろうし小谷城もパパッと建ててもらおう。
給料アップもさせてあげられるしね。
「殿、左衛門佐様が御越しに御座います」
小姓の平野五郎左衛門が親父の来訪を伝える。
今回の報酬の事で打ち合わせかな?
「傳兵衛、新たな所領は如何か?」
親父は、大領を得た俺が心配で様子を見に来たらしい。
有り難いね。
まだ赴任してないけどね…
「浅井家旧臣に大領を持つ与力連中。果たして某の言う事を聞かせられるか、些か心配に御座いますな」
今までの所領には、阿閉家や宮部家程の大領を持つ者は居なかった。
まあ、貰った所領が近江国程豊かな場所ではなかったってだけなんだが。
「それにお主の所領は、備前守が治めておったところ故、余計にやりづらかろう」
浅井家に忠義を尽くして反抗的な態度を取る奴もいる事だろう。
敗れた国人衆共から領地を巻き上げるのは良いが、それで大量の牢人が湧くのは勘弁して欲しい。
所領を削りつつ臣従させるか、越前にでも追放するのが良いか。
なるべく御家取り潰しは避けた方が良いんだろうけど。
「また新たに人を…」
「此度は儂の所領も増えた故、人は出せぬぞ」
む、断られた…
やっぱり現地調達しないといけないかぁ。
「仕方ありませぬ。現地で徴用致します」
「どうしてもというのであれば、お主と仲の良い武藤五郎右衛門(兼友)を…」
「いえ、結構です。父上も人手は必要に御座いましょう」
やっべぇ~、五郎右衛門みたいなトラブルメーカーは要らん!
それならば近江衆の懐柔をした方が良い。
「父上。近江衆を宥める為にも、浅井家の菩提寺である医王院にて備前守や万福丸等を弔いたいと思いますが…」
小谷城の麓の清水谷には浅井家の菩提寺である臨済宗の医王院(後の徳勝寺)がある。
浅井長政を弔いつつ、万福丸は死んだと皆に認知させたい。
「しかし、大樹は良い顔をせぬであろう?」
「はい。そこで曾祖父様や高祖父様の力を借りられればと」
親父は俺の言葉に少し考える。
「成る程…。では父上も呼んで一族で法要を行うか」
「宜しく御願い致します」
流石は親父、森家の事だからピンと来たようだな。
俺の曾祖父さんである森可秀は、享禄元年九月八日(西暦1528年9月21日)に近江国小谷で討ち死にしている。
序でにその父ちゃん、俺の爺ちゃんの爺ちゃんである可房も、近くの赤田という土地で永正九年九月十三日(西暦1512年10月22日)に討ち死にしている。
折角、2人の亡くなった土地を所領としているのだから、亡くなった日も近い事もあって森家で法要を執り行いたい。
その序でに、こっそり浅井家の三代も弔って、浅井家旧臣の俺に対する好感度を上げたい。
そして義昭からも目を付けられたくない。
祖先への戦勝報告を戦死した土地で執り行いたいと願えば、流石に否とは言われまい。
そして、その法要に俺の家臣や与力が参加するのは当然と言えよう。
その時、この度の戦で亡くなった者達にも念仏を唱えてやるのは当然の事だ。
流石に長政の遺体を手に入れるところまでは無理だが、墓くらいは建ててやれる。
墓石に名前を刻むのは無理だが。
しかし、ひいひい爺ちゃん、ひい爺ちゃん、親父、俺や弟達と、森家代々皆討ち死にしているのを考えると、討ち死にしなかった爺ちゃんの方が異質なのでは?とか考えてしまうな。
爺ちゃんも自分の父親と祖父が大々的に弔われて、満足してくれる事だろう。
まあ、ひい祖父さんの墓自体は、あの義昭も居た事のある矢島御所の近くにある小林寺にあるんだけど。
その後、親父とこれからの事を相談という名の雑談を交わしていると、親父の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
「しかし、お主と於市様との婚姻をという話もあったのだが…」
「はっ?」
大抵の言葉は受け流せる俺でも、この言葉は無視出来ない。
「流石に子等が養子だの猶子だのになったばかりの事でもあるしな。お主の事であるから嫌がるかと思い、畏れ多いと断ったが、お主もそれで良かったか?」
有り難う!パパン!
おいおい、誰だよ、そんな恐ろしい事を言い出したのは!
俺に嫉妬どころか殺意や憎悪でもあるのか?!
「無論に御座います。室が殿の猶子となっておりますれば、これ以上の厚遇は無用に御座います。万福丸の事も御座いますれば、於市様も某とは会わぬ方が良いかと思いまする。それに某の許へ嫁ぐとなれば、於市様は小谷城へ入る事となりましょう。夫君と死別したばかりで心の傷も癒えておらぬ於市様に、その様な酷い事は出来ませぬ」
於市様に、先日まで居った小谷城に入れとは、あまりにも残酷だとの主張で断固として断る。
於市様との結婚なんて死亡フラグだからパスという本心を言う訳にはいかないからな。
赤穂へ連れて行けば?とか言ってはいけない。
え~と…殿の妹君をその様な遠方へ連れて行って苦労させる訳にはいかないではないか!
於市様は、他の誰か…権六殿や藤吉郎、はたまた他国の大名とかに嫁いで下さい。




