439 ストライクですよね?
「では九郎左衛門殿、中務大輔(朝倉景恒)殿に宜しくと。九郎左衛門殿共々、くれぐれも自棄にはならぬ様に」
やる気を失った朝倉景紀に優しく声を掛け、北へ逃げていくのを見送る。
朝倉攻めをする時に味方してくれる事を期待してだが、まあどうなるかは分からんけどな。
敗戦の責任を取らされて切腹させられたり、内通の罪で殺されたりするかもしれんし。
何より、この戦場から無事に逃げ出せるとは限らないしな。
義治に討ち取られてしまうという事も無い訳ではない。
そこまで面倒を見てやる気もないしな。
「殿!」
さて、これからどうしようかと考えていると、多羅尾光太がやってくる。
「居場所は知れたか?」
「はっ。どうやら真柄十郎左衛門は六角家と朽木家の軍を突破して、北へ退却した様に御座います!」
どうやら真柄直隆は、無事に逃げ延びた様だな。
真柄直隆がこの戦場に居ないなら、俺達の死亡する確率も少なくなるので問題なし!
「十郎左衛門が何処へ向かうか、引き続き調べよ。越前へ退くか、小谷へ向かい浅井家と合流するのか、将又此処へ戻り奇襲を試みるのか」
「はっ!」
真柄直隆が引き返して来たら怖いからな。
確実に居場所は把握しておきたい。
「大将の式部大輔は宜しいので?」
「構わぬ」
林助蔵が朝倉景鏡の行方を調べずとも良いのか尋ねてくるが、正直景鏡の行方なんて興味ない。
まあ、大将なので位置は直ぐに知れるだろうし…
「ふむ、どうやら終わった様だな、傳兵衛」
「その様に御座いますな、権六殿」
うん?権六殿?
あれ?いつの間にか権六殿が居られる…何で?
「では、殿の許へ参るぞ」
え?何故、殿の許へ?
「殿の許へに御座いますか?」
「左様。殿からは、戦を終えたなら直ぐに傳兵衛を連れて参れと言付かっておる」
何故に!
「しかし、まだ朝倉家の掃討が済んでおりませぬ。全てを終えてから纏めて報告に参ろうかと思いますが?」
まだ残党が残っているし、完全に敵が退くまで警戒しなくちゃ…
「その様な事は、三左(森可成)に任せておけば良い。お主は儂と共に、一刻も早く殿の許へ向かうぞ。色々と申し開きする事があろう?」
ないよ?
「その様な事は御座いませぬが…」
「ほう、播磨に居る筈のお主が此処に居る事や延暦寺の焼き討ち等、殿に報告せねばならぬ事が色々とあろう?」
「いや、此処に居るのは京にて朝倉家の南侵を知ったが故に御座いますし、延暦寺を焼き討ちしたのは某では御座いませぬ。寧ろ反対に延暦寺の焼失を防ごうと尽力致しましたぞ!」
抗弁するも何故か権六殿に胡散臭いものを見る様な目で見られている様な気がしなくもない。
いや、気のせいだな。
「まあ良い。申し開きする事柄が無いのであれば、直ぐに話は済もう。殿の許へ向かうのを渋る必要などあるまい?」
「いや、渋ってなどおりませぬが…」
う~ん、叱られるかなぁ…
いや、殿の許容範囲にギリギリ入ってますよね?
一見暴投気味な球を投げようが、ストライクゾーンを掠めさえしていればストライクですよね?
…暴投はしてないけど。




