438 朝倉九郎左衛門尉
さて、もう一踏ん張りするとしましょうか。
決して親父の視線が冷たかったからではない。
万が一にも親父が討ち死にする事がない様に、本陣へ突っ込んで来る敵から親父を守る為だ。
最重要人物は、真柄直隆。
でも、お前は逃げていいぞ!
いや、寧ろ逃げてくれ。
怖いし!
「殿!敵がやって来ます!」
岸新右衛門が敵の襲撃を知らせる。
え?
万が一に備えて本陣の守りを買って出ていてなんだが、まさか本当に突っ込んでくる様な奴がいるとは思わなんだ。
死ぬ気なのか?馬鹿なのか?
真柄直隆じゃないよね?
流石に有名武将は撤退の方を指揮している筈。
「数は?」
「凡そ二十!」
は?
たった20人程度で攻めてきたの?
三國志の物語みたいに、寡兵で俺達を撃破出来る自信がある馬鹿…勇者だったりする?
「此処で儂等を討ち取る事が出来たとて、間も無くやって来るであろう織田家の本隊と搗ち合えば、生き残る事は出来まいに。此処は逃げの一手であろうが。死ぬ気か?」
運良く俺や親父を討ち取れたとしても、織田家の本隊が直ぐに摂津から戻ってくる。
さっさと越前へ逃げるべきだよね。
越前へ戻るのにも、六角家や朽木家を突破しないといけないから、少しでも兵は必要だろうに。
まあ、20人程度なら、ウチの脳筋共が片付けてくれるだろう。
「退けい!」
親父より年上のお爺…おっちゃんが突っ込んでくる。
もっと年若い馬k…破天荒な奴が来るのかと思ったが、ウチの爺ちゃん程ではないがかなり年上だなぁ。
こりゃ、撤退の時間を稼ぐ為に死を覚悟して突っ込んできたのかな?
それでも20人は、少な過ぎるけど。
「はっ!その様な寡兵で大将の首を取ろうなどとは笑止千万よ!この森兵部少輔が相手してやろう!」
ま、真柄直隆でなければ何とかなるだろう。
「何?森兵部少輔だと?ならば好都合!その首、貰い受ける!儂の名は朝倉九郎左衛門尉!お主等が落とした金ヶ崎城の城主であった中務大輔は、儂の子よ!」
金ヶ崎城の城主は朝倉景恒で、その父親という事は、こいつは朝倉景紀か。
「ほう!中務大輔殿の御父上か!しかし、中務大輔殿の御父上ともあろう御方が、このような無謀な攻撃を仕掛けるとは…」
「其れも此れもお主等のせいであろうが!中務大輔は金ヶ崎城の失陥を責められ、情けなくも寺に篭っておるわ!その上、儂まで逃げ帰ったとあらば、家さえも潰されかねぬ!」
ああ、景恒は金ヶ崎城を放棄した事を責められて隠遁するんだったな。
それにしても、やっぱり死にに来たのか。
う〜ん、ちょっと揺さぶってみるか。
「は?何故中務大輔殿が責められねばならぬ?中務大輔殿は、後詰めが来る事を信じて、寡兵を以て我等を足止めし、後詰めが来ぬ故に、仕方なく城を明け渡したのであろう?中務大輔殿が責められる事など全くない!責められるべきは、国へ攻め入られているのにも関わらず、後詰めを遅らせた者共に御座ろう!」
俺が景恒を擁護する発言をすると、思わず景紀の動きが止まる。
これは効いてるか?
「左衛門督(朝倉義景)も左衛門督よ。何故に中務大輔殿程の良将を擁護せぬ!儂等には考えられぬわ!」
俺が怒って朝倉義景を罵ると、更に景紀が動揺するのが見て取れる。
「九郎左衛門尉殿、此処で死んだとて得られる物など一つも無い。それよりも越前へ戻り、中務大輔殿に伝えては下さらぬか?この兵部少輔、敦賀にて再び会える事を楽しみにしていると。そして叶うならば共に轡を並べ、一乗谷へ攻め入ろうぞと」
「兵部少輔殿…」
チョロ。
完全に力の抜けた九郎左衛門尉を見て、心の中で舌を出す。




