294 当初の予定なんて聞いてないんてすけど
篠原家とは無事に和睦が成り、俺達は利生寺を離れ、小寺家との戦の前線である北脇城へ入る。
いきなり小寺家と合戦だ!とはならず、先ずは岫雲斎に書かせた赤松義祐と小寺政職への手紙と織田家への降伏を促す書状を、それぞれに送りつける。
これで両家がどう反応するか様子見だな。
程なくして、赤松宗家と小寺家が共に降伏を申し出てきた。
頼みの篠原家は阿波へ戻り、英賀の三木家も兵を退いてしまった。
織田家を始め、別所家、摂津衆は依然大軍をもって攻め立ててくる。
これ以上戦っても被害が増すだけで勝ち目がないと考えてくれた様だ。
赤松家との交渉には、俺も立場的に参加しても良かったのだが、全て弥右衛門殿に任せて、のんびりさせてもらう。
俺が要らん茶々を入れて交渉を台無しにしてしまうかもしれないし、交渉のエキスパートである弥右衛門殿を信頼して一任した方が、弥右衛門殿からの印象も良いだろうという判断だ。
正直面倒な交渉事を一手に引き受けてくれるのだから、俺としても有難い事だ。
残る俺の仕事は龍野を攻める浦上家を備前国へ押し返す事だけだが、ここからは時間との勝負だな。
浦上家が降伏する前にどれだけ赤松政秀と浦上宗景、そして宇喜多直家の領地を削る事が出来るか…
宇喜多直家は、この戦いでは同陣営なので、その領地に攻め込む事など出来ないが、直家に浦上家の領地を奪わせない事が、宇喜多家の勢力拡大を防ぐ事に繋がる。
それに今回の戦は、誰かさんのお陰で精神的な消耗が激しいので、さっさと京へ戻りたい気分になっているんだが…
抑々俺は、赤松政秀の娘から足利義尋が生まれる事を知っている事で、政秀の権力を削らないといけないという思いに駆られていたのだが、よくよく考えると、それがどうしたという思いの方が強くなってきたなぁ。
後で播磨攻めをするであろう藤吉郎が苦労するなら、それならそれでもいいんじゃない?
まあ、言い出しっぺが投げ出す訳にもいかないので、頑張るけどさ…
「傳兵衛殿」
赤松家他との話し合いが終わったのだろう、弥右衛門殿がやって来る。
「弥右衛門殿、話し合いは如何なりました?」
「なんとか。細々とした所は此れから詰める事となりますが、凡そは纏まりました」
和睦の主な内容は、戦費の負担、既に奪っている領地の割譲、人質、後は未だに龍野を攻めている浦上家の討伐に赤松宗家も兵を出す事などらしい。
赤松家は史実と比べて、大分悪条件での和睦になったんじゃないのかな?
「して、我等はこの後、如何致しましょう?」
赤松家も素直に降伏した事だし、もう作戦は終了という事で俺達は帰っても良いんじゃない?
「傳兵衛殿は予定通り、浦上家を追い返して頂きたい」
やっぱり駄目ですよね~。
「とは言え、此方は龍野赤松家を始め、別所家、摂津衆に加え、赤松宗家も浦上家を攻める事となります。与次郎(浦上宗景)も早々に和睦致しましょうな」
まあ、皆で力を合わせて龍野から浦上宗景を追い返すんだから、あまり深くは攻め入る事は出来ないだろう。
西からは宇喜多直家も動いているし、さっさと和睦するだろうな。
「いや、これを機に浦上家の討伐を考えておる」
はっ?何言ってますのん?
俺としては、宇喜多直家の勢力が増すのは勘弁してほしい。
理由は、俺が宇喜多直家の事が怖いからだけど…
だって、毒殺とか暗殺とか多用する奴の勢力が増すなんて冗談じゃない。
無いとは思うが、何かの拍子に俺が播磨へ派遣された日にゃあ…
「某としては浦上家の力を削ぐ事には賛同致しますが、浦上家自体は残して宇喜多家にぶつけるのが良いかと思いますが、弥右衛門殿は如何思われますか?」
いや、浦上宗景も大概だけど、宇喜多直家はイメージ補正も加わって物凄く怖いんだよなぁ。
「傳兵衛殿は、宇喜多家が危険だと?」
「宇喜多家が、ではなく、三郎右衛門が、に御座いますが。あの者は、毒殺や暗殺など策謀が目立ちますれば、とてもではないが信の置ける者では御座らぬ。いつ織田家に刃を向けるか分かったものでは御座らぬ」
ひょっとしたら宇喜多直家が暗殺等を行ったという話が、作り話の可能性もない事はないが、どの道それを警戒しなきゃいけないのだから同じ事。
「ほう、傳兵衛殿が其処まで誰かを警戒されるとは珍しい」
「某も互いの意地や名誉を賭けて争い敗れるならば、已む無き事と諦めますが、陰からこっそり殺されては堪りませぬ。浦上家が残っておれば、三郎右衛門も先ずは浦上家の方へ目を向けましょう。与次郎も裏切り者の三郎右衛門の事は許せぬ筈。互いにいがみ合っておる間は、我等に牙を剥く事もありますまい」
本当は正々堂々と戦って死ぬくらいなら、暗殺したり逃亡したりするけどな。
それは置いておいて、浦上宗景と宇喜多直家が、互いに食い合っていてくれれば、周りの小勢は難しいが、多分織田家は安全だろう。
「…宜しいでしょう。殿や大樹へは某が話を通しておきましょう」
「有り難う御座いまする」
少し考えた後、弥右衛門殿も俺の考えに同意してくれる。
「では、これより我等は如何致すべきか…」
如何致すといわれてもなぁ…
確かこの戦いの結末って、降伏した置塩の赤松宗家が、龍野赤松家の救援に向かい浦上家と戦うんだが、元々浦上家は赤松宗家の援軍にやって来ていたので、赤松宗家の軍勢の士気は低く、また浦上勢と戦う気は全くないので、結局龍野赤松家は浦上家に降伏したんだったけ?
つまり、龍野赤松家の援軍に、赤松宗家を送っても役には立たない。
別所家や摂津衆がヤル気を出していたら邪魔だけどな。
「浦上軍の相手は他の者共に任せて、某は備前へ攻め込み、与次郎が降伏するまでに少しでも浦上家の領地を削りましょう」
宇喜多家との境まで侵攻出来れば、宇喜多家もそれ以上領地を広げられないので、俺は一気に奥の方まで切り込みたい。
弥右衛門殿も同意し、浦上家を滅ぼすのは中止となる。
「しかし、元々大樹や殿の考えでは、播磨国は赤松左京大夫に代わり下野守殿に治めさせ、備前国三石に陣を敷いて浦上家を討伐する予定であったのだが、傳兵衛殿の御陰で当初の予定とは全く違う事となってしまったな」
えっ?そんな話されてたっけ?
播磨へ向かって赤松政秀を救えって言われただけで、そんな話聞いた覚えないんですけど!




