36,バッタ
走り続けてやっとたどり着いた西門周辺には中央より土の街の住民たちが避難しており、少しだけだが落ち着きを取り戻している様子だった。
軍の本部が近いだけあってパッと見た感じ軍の隊員の方が多く、それに後処理のためか慌ただしく動いていて声をかけづらい。けれども、運がいいのかその中に見知った顔を見つけた。
「おーい、ゴリ男!」
名前を呼ばれたのに気づいたゴリ男が振り向く。その表情は焦っていたのか真っ赤になっており、俺の方を振り向くと嬉しそうに近づいてきた。
「日々野じゃねえか! いいとこに来てくれた」
「ゴリ男こそこんな所でどうしたのんだよ?」
「嫌、ちょっとな」
周りを気にしたように目を動かす。
民間人には聞かれたくない内容って事か。
「で、何処に着いていったら良いんだ?」
「良いのか! ならすぐに来てくれ、実は遅刻してんだよ。事情はそこで話す」
急いでいた理由がそれとは……ゴリ男らしいというか気が抜けてしまう。
引っ張られるようにして連れて行かれたのはゲルトナーではなく軍のテント。中には見覚えのある防衛班の隊長格と軍の隊員が話をしていたが、テントに入った俺達に気付くと話を中断した。
「ゴリ男、何処で何をしていた! 既に時刻は過ぎているぞ!」
「済みません、途中で彼と出会いましたので連れて来るのに手間取ってしまいました!」
並んだ人に中の一人がゴリ男を怒る。それに対してサラッと俺のことを言い訳に、いや嘘を吐きながらそれを躱す。部屋の視線がお前誰だよって感じに向けられるので仕方なく一歩前にでた。
「ゲルトナー戦闘班十三番隊隊員日野日々野です」
人前、それも年上ばかりの前で話すことは久々だったので自分の口調が少し心配だ。
だが全員俺が言った自己紹介の中の戦闘班で目を輝かせたと思いきや、十三番隊と聞いた途端ほとんどが顔をしかめる。全くもって、失礼極まりない。
「ふむ日野君か。聞いたことのある名だ。それで、君は石山君から事情を聞いているのかね?」
表情を変えずにいたゲルトナー側にいる一人の男がが話を進めようと笑みを浮かべながら尋ねてくる。曖昧な記憶だが、たしかあの人は防衛隊の大隊長だったはずだ。名前は覚えていない。
「いえ、何も聞いていません」
「ならば、説明させもらう。先程、聖王会の方から通達があってねえ。どうも、ディーゼル中央部で木人が確認されたようなんだよ。私達は避難してきた人々を安全な所、中央に避難してもらうつもりだった所にこの事態だ。討伐と西門の警戒でも手一杯なのに、護衛までを付ける必要が出てきてねえ。つまり人手不足なんだ」
要約すると手を貸せって事か。この人の目的はそれだけじゃない、中央に木人という事はそれを生み出した植物人もいるということだからその対策もあるのだろう。
「それで、俺はどこに向かえばいいんですか」
「引き受けてくれるのかい。ならば、君には避難の護衛についてもらおうか。急いでいるものでねえ、すまないがすぐに出発してもらうよ」
初めからそうするつもりだったんだろうが、白々しい人だ。断る理由もないので肯定の意で一礼するとテントを出た。
そのまま護衛の任務が始まった。移動手段は軍の所有していた大型バスや車、それに乗れるだけ乗り込み出発して一時間ぐらいは経っただろう。
俺を含めた護衛の人数は十八人、そのうち鎌持ちは二人だけ。先頭をいくバスと最後尾の農作業に使われていたトラックに分かれ俺は後ろを任された。避難してきた人たちはかなりの人数で護衛の人数と釣り合っていない。十八人のうちにはゴリオも含まれていたため、道中アヤメのことを聞ける。
それにしても中央に侵入を許すとは守りがザルなのか、この騒動では仕方ないと考えるのか悩みどころだ。
「なあ、ゴリ男。ここに来た理由なんだけどさあ」
「そういえば聞き忘れていたな、なんなんだ言ってみろよ」
殿を務める俺と同じ荷台に乗っているゴリ男に尋ねてみる。
こんな時は真面目なのか立ったまま警戒しているゴリ男の装備は街中で使えるのか心配な火炎放射器で燃料のガスタンクを背中に背負い全身を分厚いアーマーで守っている。その姿は体格がいいゴリ男に似合っていた。それに比べて喰尾龍鎌も持たず防具も要所だけの俺はなんか雑魚に見えてそうだ。
「文目がどこにいるのかが気になってさあ」
「そうだったのか、すまんが俺の知る限り西門にはいなかったが心配だな」
西にいないとなると反対の東側だったか。後悔しても遅いしこちら側で役目があったので大丈夫だと信じよう。車はゲルトナー本部を通り過ぎ、止まることなくさらに中央を目指す。
「こんなに心配して走り回るとは、お前は花道のことが好きなんだな。護衛なんてせずに彼女のところに向かわなくていいのか?」
俺をちゃかしてくるゴリ男。恋愛的な感情を指摘されてもよくわからないというのが答えなんだが、心配かどうかといわれると微妙だな。
「いや、相当のことがない限り大丈夫だと思うんだけど」
「なんてこと言ってんだ、彼女が心配じゃないのか! か弱き女子だぞ!」
正直に答えたら怒られた。アヤメが植物人だという事を知らないと確かにそういう反応になるか。だが知っている身としては、逆にゲルトナーとかに保護されている方がもしもの時に本来の力で対処できないだろうからそっちの方が心配だ。
「いいか、お前はどうも女心が分かってないようだけどなあ大丈夫って言われてても助けに行かなくちゃなんねえだぞ? あと、好きじゃないって言われても好きの表れというし」
「そういうお前は付き合ったことあるのかよ?」
恋愛についた語りだすゴリ男にそれ以降は適当に返事をしておく。
木人の出現を聴き警戒しているが、ビルの影や道の先にも敵の影は全く見えない。まあ、まだ中央は先だし多分討伐班の奴らがなんとかしてくれているのだろうと思っておきながらもどこか違和感を感じていた。
そのまま走り続けようやく中央に位置する聖王会付近の広場に到着した。心配していたような襲撃はなかったので護衛任務は成功と言えるだろう。
広場には土の街の住民だけでなく不安に駆られたディーゼル内の住民も集まっているためすごい人数だが、未だ人口密度は上がっているようでそのうちの人間が全員集まるんじゃないかと思うくらいだ。
「皆さん、もう大丈夫です。我らがモーテス様がそのお力で悪しき怪物たちから守ってくださいます。この広場にいる限りそのお力の庇護のもとにあるのです!」
スピーカーから聖王会のありがたいお言葉とやらが聞こえてきた。こんなことに放送器具を使うんじゃなくて予定通りの警戒サイレンを鳴らしたり避難勧告に使えといいたい。
教会前では放送元であろう人が話す姿を見ようと人が流れていくので反対に広場の外向かって逃げる俺の周りは相対的に人口密度は下がっていき快適だ。これは放送様様といっていいだろう。
少し離れたところから見る人ごみをぼんやりと眺めながら、さっきから続いている違和感について暇つぶしがてらに考える。特に何かあるというわけではないが、歯に何かが詰まっているような感覚だ。
確か護衛が始まった時からだったと思うが……戦闘の後だからかも知れないな、余計なことまで気にしているのは。ここに来る間も襲撃はなかったし止まることなくスムーズに進んでいた、いいことばかり続いているからだな。きっとそうだ。
めんどくさくなって適当に証明終了。結論は気のせいだ。
「て、敵だーーーーー! 木人が現れたぞ!」
「こ、こっちにもだ! 早く教会の方に逃げろ!」
のんびりと帰ろうと考えた時誰かの叫び声が聞こえた。内容は何の機械も使っていないはずなのに、その場にいた全員に聞こえた気がした。発生源は広場の端からだが、住民たちはまだ距離があるにもかかわらず慌てて逃げている。
もちろん、帰ろうとしていた俺にも木人の姿は見えていた。アスファルトの地面を割って急激に次々に成長する木々は途中で絡まって人の姿になる。いつも森で戦っているので油断まではしないが、一人だからと簡単に撤退する気はしなかった。が、
「いや、これは多すぎやしないか。木人さんたち」
あきれてふざけてしまう程の木人達の数はここに見た感じだけでも二十は超えている。今までは多くて十体に届くかぐらいだったのに、これが広場の全体で起きているとなるとただ事ではない。
最後の最後で数の暴力とはクラ―レの奴らは他の植物人とは別物とみた方がいいな。
「喰尾龍鎌」
まだ完全回復といえないが鎌を出して応戦する構えを見せる。せめてここだけは死守する気持ちで鎌の力を強めた。
「落ち着きたまえ、人間たちよ!」
駆けだそうとしたとき声が聞こえた。さっきから皆俺が何かしようとする度に叫んで邪魔したいのかよ。
誰が叫んだのか今度はその憎らしい声でわかっている。モーテスだ。
「宣言した通り、我がこの怪物たちを倒し皆を守ろうではないか。行け、我が力を宿した僕よ!」
お前じゃないのかないのかよと言いそうになったが、その言葉は空を跳ねた黒い影たちに阻まれた。
ズドン ズドン ズドン
三つの重量感のある音とともに着地したそいつの肌は赤黒く、縦に細長く大型犬は優にある。八本の足の中で特に太い後脚はバッタに似ていて神の僕という言葉は似合わない。
黒一色の目玉に木人をとらえると声帯があるのか吠え始めた。
「「「ギュエエエエエエエエエエエエエエ」」」
丸太のように太い脚が地面をえぐり、木人目がけ一瞬だが視認できなくなる速度で突撃する。尖った頭部が木人の胴体に突き刺さり破壊する。木人達も黙てやられているわけでなく、一斉にとびかかり滅多打ちにする。バッタもどきはそれを受けながらも前にいる相手は顎で噛みつき、後ろには蹴りを繰り出している。
損害など気にしない捨て身の怪物同士の戦いはバッタもどきが最後に残った木人を嚙み殺して終わった。
足は二本失い、背中の羽も歪んでいるがまだ止まるつもりはないよう。なぜか俺の方を見てとぎれとぎれの遠吠えを上げる。
「ギュエ、ギュエエエエエエ」
「これって、俺も敵ってことか」
これは威嚇か。鎌を振りかぶる、よりも先に真横に飛ぶ。さっきまでいた場所を高速でバッタもどきが飛んで行った。見えないほど早いがあくまで直線的な軌道は容易に回避できる。
「ギュエエエエェ」
もう一度吠えて跳んでくるバッタもどきを躱してすぐそこに鎌を振り下ろす。
「ギョエ」
通過しようとした体を半分に切られ小さく鳴くと動かなくなった。手負いだったこともあるがかなり弱かったな。
木人をかたずけてくれたのは助かったが人間も襲うような生物兵器のようなものを使うなんて、モーテスはいったい何を考えているのだ。
他の場所でもバッタもどきと木人の戦い相打ちで死んでいき住民たちがのんきにも歓声を上げている。どうもほかの場所では人間は襲われていないらしい。
「ディーゼルに暮らす人々よ! 安心しろ、戦いは終わった! 無謀にも攻め入った植物人は全て滅された!」
モーテスの声が街中に響き渡る。戦いは終わったのか。その言葉を聞いて緊張の糸が完全に切れたのか安堵感なのか鎌を戻して少し離れた場所に座り込む。その場で座り込まなかったのはバッタもどきの死骸が残っていたからだ。
襲撃から大体六時間。長い一日にも感じるしあっという間だった気もして疲労感が一気に押し寄せてくる。とにかく疲れた、まずは帰ろう!
自分を自分で応援して家に向かう。空は夕焼けで真っ赤に染まっていた。
次回
襲撃が終わった街で更なる出会いが
章分け・はじめの方を改稿しました。
よければ読んでみて下さい




