第七章 12
「オーマ――」
花のような笑みを浮かべ、シアが腕の中に飛び込んでくる。
「おまえ――」
有るか無いかの体重を抱きとめた。
「おれがわかるのか?」
「どうして?」
わかるよ――くすくす、と笑ってシアが言う。
子猫のように大きな眼が無邪気な光を放っている。
「人形を操るのは存外に面倒でね」
シアの後ろからイツキが近づいてきた。
「食事もしない。眠りもしない。全部命令してやらないと動かない。こちらも付きっきりで世話をしていられるわけじゃない。なら、ある程度好きにさせていた方が楽だと思ってね。自由意志は戻したから、とりあえず兄さんに預けておくよ」
「連れて逃げたらどうする?」
「もちろん保険はかけてあるよ。僕から一定以上離れたらどうなるか、想像がつくよね」
「抜け目が無いな」
口の中で軽く舌を鳴らす。
二十四時間眠り続けた後、ドウマはガラスの部屋から出された。
聞けば、教祖用の無菌ルームとして用意されたものだったらしい。半ば以上潰れたドウマの身体を、ターニャとイツキは無菌ルームに運んだのだという。救けようとしたのだ。原因を考えると、礼を言う気にはなれなかったが。
「ターニャは?」
「遠慮してもらった。兄さんと話がしたくてね」
イツキが部屋のドアを開けた。
「ここは?」
「VIPルーム。しばらくここに滞在してもらう」
地下の施設にしては、広さも調度も一流ホテル並みだった。
「監禁するにしては上等な部屋だな」
「ラヴィアも一緒だからね」
「ふん。チェックさせてもらうぞ」
「お好きに」
言われて、簡単に見て回る。部屋の壁、天井、ベッドの影。監視カメラの類は仕掛けられていない。トイレ、シャワールーム、クローゼット、キャビネット、冷蔵庫。クローゼットの中には着替えが数着。キャビネットの中には酒のボトルとグラスが並んでいた。
「飲んでもいいのか」
「構わないよ。僕ももらう」
「シアも――」
白い手を高く上げて、シアが言う。
「子供はだめだ」
「子供じゃないよ」
「僕はいいよね。兄さんも子供の頃から飲んでいたと聞いたよ」
情報源はターニャだろう。
「好きにしろ」
グラスとボトルに手を伸ばしながら、ドウマは言った。




