表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花鬼  作者: KATSUKI
81/132

第六章   3

 

 ――軍属承諾のサインをお願いできますかな。レイヴンズ卿。

 ――……

 テーブルに置かれた一枚の用紙を伯爵は無言で見つめた。

 右手側にオーク製のデスクが置かれ、初老の男が坐っている。軍服の階級章は大佐を示す四本線。対デーモンスーツは身に着けていない。

 伯爵閣下に失礼なのでね――大佐はそう言ったが、伯爵の周囲を固める兵士は完全装備だ。吸血鬼に有効な高圧放水銃とリベット銃を携え、銃口はいずれもこちらに向けられている。

 ――拒否したら処分なんだろうね。大佐。

 ――吸血鬼は放置できない。貴公も知っているはずだ。不老不死にして不死身の化け物。放置するにはあまりにも危険過ぎる。他の魔物であれば、脳に爆薬を埋め込むことを条件に自由にさせる場合もあるが……

 指の先で側頭部を示す。

 ――吸血鬼に爆薬は意味を成さない。爆薬を埋め込んだとしても、身体を分解再構成すれば簡単に取り除くことが可能だ。違うかな。

 ――試してみなければわからない。

 伯爵は肩をすくめ、承諾書に眼を向けた。

 ――こんな紙切れ一枚のサインを信用するのか。

 ――もちろん。信用できない。だが人間の名残り、あればの話だが、に期待していないわけではない。

 ――……

 テーブルに置かれた羽ペンに指を伸ばした。

 小さな手だった。五歳児の手。

 身体は縮み、子供のような姿になってから止まった。

 死ななかった。死ねなかったと言うべきか――

 インク壺にペンを浸し、サインした。

 レイヴンズ――

 領地名だが、カラスの名前であることも知っている。

 肥沃な大地がカラスの羽のように黒々としている我が領地。

 いつかあの地に帰ることがあるのだろうか――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ