第五章 8
眼を開けると、光のビルが見えた。
オーマがごてごて――と言っていたビル。
え、と……と呟いてみる。
「どうしてここにいるのかな」
身体の下に柔らかな芝生を感じた。オーマの腕の中で寝ていたのに。
半身を起こすと、人影が眼に入った。すぐ近くの樹に背中を預け、両足を投げ出している。三つの首のひとだとわかった。眠っているのかな。眼を閉じている。頭から血がいっぱい流れている。
シアは首を巡らした。白い石造りの回廊が眼に入った。水の音が聞こえる。近づくと、水が流れていた。両手ですくって、三つの首のひとに持っていく。真ん中の男のひとの貌にそっと水を垂らしながら、両肩についているふたつの首を見た。頭が半分無かった。赤黒い空洞にぐずぐずに崩れた白っぽいものが見えた。脳の残骸だということはシアにはわからない。
手の中の水が無くなった。
回廊に戻ってもう一度水をすくった。口に含んで、男のひとの足の間に跪いた。
唇を寄せた。
「……ドウマ……が嫉妬…するぞ」
男のひとが片眼を開けていた。赤い眼が白目まで真っ赤になっている。
こくん、と口の中の水を飲む。
「オーマは?」
「ここ…には……いない」
絶え絶えの息を吐きながら、男のひとが眼を閉じた。赤い液体が眼尻から流れる。耳からもどろりとした血がこぼれているようだった。ひどく苦しそうに見える。
口の中の水は飲んでしまったので、もう一度汲んで来ようと立ち上がりかけた。
立ち上がる前に、男のひとの手がシアの手首を掴んだ。
引き寄せられ、男のひとの胸に抱かれた。
「離れるな」
耳元で囁かれた。貌を上げると、じゃらり、と鎖が鳴った。男のひとの鎖が輪を作って、シアの首に巻かれた。
「……それ以上…近づけば、くびり…ころす」
誰に言ったのだろう。男のひとが眼を開き、シアの背後に眼を向けている。
誰かいるのかな。愉しそうな笑い声が聞こえたような気がした。
男のひとの身体に力が入った。
「ドウマを呼べ」
「オーマを?」
「下僕なら……主人の命令に反応するはずだ。来いと命令しろ。おれは……長く保たない」
もたない。なにが?――何を言っているのかわからなかった。
でも呼べと言われたことは理解した。
シアは喉を天に向けた。首の後ろでクロスした鎖の両端を男のひとが握っている。
オーマ
シアはここだよ
ここに来て
光の粒が空に昇っていくような気がした。




