第五章 5
――死んでいるのか。
部屋の床に、子供の身体が横たえられていた。子供と言っても、年恰好は少年とほとんど変わらない。幼い貌は眠るように眼を閉じていたが、息をしていないのは明らかだった。
――崖から落ちてね。
男が言った。床に白いシーツを広げている。
――延髄が損傷した。それほど苦しまなかっただろう。
子供の首の下に手を入れて、男が子供の身体を抱き上げた。そうしないと、頭が背中側に落ちてしまうのだとわかった。首の骨が完全に折れている。
男はシーツの上に子供の身体を降ろし、シーツで包み始めた。頭から足まで。小さな身体にシーツを幾重にも巻きつけると、それが子供の身体だというのは、言われなければわからない状態になった。
少年は無言でシーツの塊を見つめた。
――わしの孫でな。
傍らに腰を下ろし、男はシーツの塊に手を置いた。
――ほんの数時間前までは生きていた。儚いものだ。
――はかない?
――夢のように消えてしまう。
男の眼は遠くを見ているようだった。
――かなしいのか?
少年が訊くと、男はほんの少し笑みを浮かべた。
――ぼうや。名前は?
首を振った。
オー君と呼んでいたユミエはもういない。
――戸籍はあるのかな。
――無い。
意味は知っているが、そんなものが自分にあるとは思わない。
――個人番号は?
――知らん。無い。
――この子の戸籍と個人番号をぼうやにあげよう。死亡届はまだ出していない。警察と医者を呼びに行く途中で君に会った。これも何かの縁だろう。これからはわしの孫を名乗りなさい。
少年は男を見つめた。
男が子供の死を隠匿するつもりだとわかった。それが違法行為だということも。
――なぜ?
――なぜかな。ぼうやの眼があまりにも暗いからかな。
――……
――子供は笑っている方がいい。魔物には生き難い世の中だろうが。人間の戸籍は君を少しだけでも自由にするだろう。いつか君が好きなものを見つけて、心から愉しいと思える日が来るといいね。孫の分まで
男は穏やかに笑った。
――生きなさい。




