第四章 6
「甲斐甲斐しいわね」
ドウマとシアが去ってから、ターニャはカウンターで笑った。
「それにちゃんと育ててるのね。あそこであんたのせいにしたら叱ったんじゃない?」
「そうだね。大したものだ。少し驚いたかな」
手の中で薔薇の花を弄びながら伯爵が言う。
「そう? もともと面倒見はいい方だし、子供に優しいし、保育士の素質はあったと思うけど。でもまあ、いつまで保護者でいられるかってところよね」
伯爵が怪訝そうな貌をする。
「べたべたに甘えさせてるじゃない。あの甘えさせ方は保護者じゃないでしょ」
男として、甘えさせてるわよ――煙管に火を入れて、ターニャは笑った。
「彼女のバックは?」
「あら。怖い貌。残念ね。ぜ~んぜん、わからないわ」
「全然?」
「端末は架空名義だったし、シア・ラヴィア――もたぶん偽名ね。現実に存在しない。画像検索もかけたけどヒットしない。あれだけの美少女よ。幼少の頃から相当に目立ったと思うけど。隠し撮りすら無い」
「何が考えられる?」
「ネットから隔絶された環境に置かれていた。たとえばどこかに閉じ込められて育てられていた、とか。あるいは変身とか整形とか。あの姿が本当ではない可能性もあるわね。でも――」
「確証は無い」
「ええ。要するに、背後関係を探りようがないのよ」
「マンションの名義は?」
「あの部屋は空き部屋だったわ」
「――」
「もうひとつ。モデルというのも嘘――」
「嘘?」
「モデル事務所ム・シャンファは実在している。でもあの事務所が魔物を登録したという事実は無かった。シア・ラヴィアはどこにも登録されていない。あたし達が見たHPは端末に仕掛けられた架空サイトだった」
「この話、ドウマオーマには?」
「したわ」
「彼は何て?」
「あの子には言うな。――傷つけるな、という明確な意思表示よね」
煙管を吸いながら、ターニャは言った。白い眼を蛇のように細くする。
「まあ、もとから女子供には甘い男だし、最初からあの子のこと護っていたけど、今にして思えば、幼い子供を保護するような感じだったわね」
「今は『男』として護っていると?」
「オーマに訊いてみたら?」
ふ、と紫煙を吐いて、ターニャは笑った。
「自覚してるかどうか、わかんないけどね」




