第二章 19
「……マンションはパレスフォレストです」
マネージャーは言って、端末を切った。
口の中が酸い。罪悪感からだ。わかっている。
車のドアを開け、運転席に坐る。ドアを閉めようと腕を伸ばしかけた。
「いけないなあ。個人情報を洩らしちゃあ」
背後から声が聞こえた。
どこか愉しそうな声に首をねじる。人影を捉える前に、両眼を塞がれた。
身体が動かない。
「相手は創世神来教?」
耳元で声が囁いた。愉しそうに。その無邪気な響きがかえって怖い。
「あ、ああ……」
マネージャーは震えながら答えた。
魔物を滅ぼす、などと言う団体に魔物の居場所を教えればどうなるか。考えなくてもわかる。もはや普通の宗教団体とは思っていない。普通の宗教団体は銃を持っていない。レーザの檻など設置していない。それだけに、怖くて、逆らうことができなかった。
殺すわけではない、と言われ、ボディガードがいれば――と罪悪感から眼を逸らした。
だが、やはりしてはいけなかった。断るべきだった。後悔の波が押し寄せる。
モデルを護るべきモデル事務所が。
モデルの住所をリークするなんて。
自分は何てことをしたのか。
所長に何て言えばいいのか。
いや。その前に。
背後にいるのは誰なのか。
どうして身体が動かない。
口の中に苦いものが逆流してくる。
くすくす、と声が笑う。
「怯えなくていいよ。狙い通り、創世神来教はあの男に興味を持った」
「ね、狙い……?」
「だからもう君に用はない」
「な、な……」
「さよなら」
脳の奥で何かが炸裂した。暗い闇が広がる。
その闇の中に、マネージャーの意識は呑み込まれていった。




