表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花鬼  作者: KATSUKI
23/132

第二章  13

 

「シアちゃん。この人、だ、誰かな? 教えてくれるかな?」

 運転席で、男はバックミラー越しに怯えた視線を投げてきた。

 まだ若い。二十代だろう。口調は軽いが、軽薄な印象は無い。細身だが、貌は丸く、人好きのする貌である。

 男はモデル事務所のマネージャーだと名乗った。

 シアとは初対面らしく、綺麗だね、画像よりずっと綺麗だ――とうわ言のように繰り返した後、ドウマを見て顔色を変えた。

 ドウマは前髪を上げ、漆黒のサングラスをかけていた。服は黒いスーツに着替えている。調達はシアに任せた。指名手配の貌を晒して、店に入ることはできない。組み合わせは何でもいいと言ったが、無邪気な貌で差し出してきた袋の中身を見て、ドウマは苦笑を浮かべた。黒いスーツはいいとして、血よりも赤い真紅のシャツ、目玉がデザインされた紫色のネクタイは、逃亡中の重要参考人(十八歳)には見えないだろうが、別の意味で職質の対象になりそうだった。どう見ても、暴力系組織の関係者だ。

 マネージャーはドウマの外観に怯えながらシアを車に案内し、シアの後から当然のようにドウマが乗り込むと、泣きそうな貌になった。

 普通の男である。

 魔物に関わる人間には見えない。

 シアを魔物と知って登録している――そう聞いた瞬間、裏があるはずだ、とドウマは(おそらくターニャも)思考した。

 人間の魔物に対する恐怖と嫌悪、それに伴う差別意識は根深い。当然、まともな職業は存在しない。

 ――テロ組織にでも就職して?

 ターニャの冗談は、半ば以上冗談ではない。

 モデル事務所とは表向きの貌で、裏は魔物を構成員に含む犯罪組織の類、というのはよくある話だ。そうでなければ、魔物をどこぞの研究機関に売り飛ばす人身(?)売買の組織か。引っかかるのは、シアのような子供だろう。意識の奥で、ゆらり、と蠢くものがあったが、ドウマは表情を変えず、それを抑えた。

 ターニャからの情報はまだ無い。

「あのね。シアのボディガードだよ」

 ドウマの右隣でシアが口を開いた。何か言われたら、そう言えと伝えてあった。

 昨夜とは違う服にシアも着替えていた。白を基調としたワンピース。バレリーナのチュチュのようにも見える。レースのフリルとリボンが胸元を飾り、スカート部分は花のように膨らんでいる。首にかかる金色の細い鎖(端末付き)が唯一のアクセサリだが、この少女にアクセサリは不要かもしれない。月光色の髪と透明な眼に優る宝石は存在しない。

「ボディガードって――」

 マネージャーは貌をしかめた。

「困るんだよね、そういうの、ぼくを通してもらわないと」

「ごめんなさい」

 シアが子供のように謝罪する。

「あ、や。別に責めているわけでは。え、と、彼の名前は?」

「オー……」

 シアは言いかけたが、名前を呼ぶな、と事前に伝えておいたことを思い出したのだろう。

「オー君」

 そう言い換えた。

 サングラスの下でドウマの視線がシアに動いた。シアが小さく舌を出し、無邪気な笑みを浮かべる。

「オーさん、ですか。あ、あの、初めまして。え、と、その……いい天気ですね?」

 マネージャーが話しかけてくるが、ドウマは無言で窓の外に眼を向けた。

 巨大な建造物が見える。

 三つの超高層ビルであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ