第四話 隣にいる理由
朝の光が訓練場に差し込んでいた。
昨日の戦闘の熱が、まだ体に残っている。
「——遅い」
リゼルは腕を組んだまま立っていた。
「時間ぴったりだろ」
カイトが軽く返す。
「余裕がないのよ」
ため息をつく。
「昨日ので分かったでしょ」
リゼルは杖、《アルカナ・コーデックス》を握る。
「距離、まだ甘いわ」
カイトは剣、《ネメシス・リベリオン》を肩に担ぐ。
「詰めすぎも危ねぇけどな」
「それはあんたが合わせなさい」
即答。
「俺かよ」
「当然でしょ」
一歩、近づく。
「……ここ」
最適距離。
昨日の戦闘で自然と身体に刻まれた位置。
「分かるだろ」
「ああ」
言葉はいらない。
—
「いくわよ」
リゼルが構える。
カイトが踏み込む。
「今」
炎。
滑らかに発動する。
「……いいわね」
昨日より速い。
昨日より正確。
「次、風混ぜる」
「また無茶言うな」
「できるから言ってるのよ」
杖が振られる。
剣が動く。
風と炎が重なる。
少しだけ揺れる。
だが、崩れない。
「……できた」
小さく呟く。
その声には確かな実感があった。
「やるじゃん」
「当たり前」
—
だがその直後。
リゼルが一歩下がる。
「……あ」
魔法が途切れる。
「だから言ったろ」
カイトが言う。
「距離だ」
「分かってるわよ……!」
すぐに詰める。
再発動。
「……安定する」
リゼルは小さく息を吐く。
—
繰り返す。
何度も。
距離を測る。
動きを合わせる。
—
気づけば。
二人は無意識に同じ動きをしていた。
「……気持ち悪いわね」
リゼルがぼそっと言う。
「何が」
「動き」
カイトも少し考える。
「まあ、分かる」
自分でも分かる。
意識していないのに、合う。
「でも」
カイトが言う。
「楽だろ」
一拍。
リゼルは何も言わない。
—
もう一度構える。
今度は、何も言わずに。
剣が動く。
杖が応える。
炎が走る。
—
完全に揃う。
—
「……いいわね」
リゼルが言う。
その声は、少しだけ柔らかかった。
—
「なあ」
カイトがふと聞く。
「なんでそんなに詰めるんだよ」
リゼルは少しだけ考える。
—
「理由なんてないわ」
そう言ってから。
—
「ただ」
少しだけ視線を逸らす。
—
「離れると、やりづらいでしょ」
—
それは、事実。
—
だが。
それだけではないことを、二人とも分かっていた。
—
訓練が終わる。
「……悪くないわね」
リゼルが言う。
「だろ?」
カイトが笑う。
—
二人の距離は、変わらない。
—
必要だから。
—
そして。
それ以上の理由が、少しずつ生まれ始めていた。




