第十一話 近づくしかない
封鎖区域の空気は重かった。
さっきまでの静寂が嘘のように、地面は抉れ、木々は裂けている。
「……全員、無事か」
レオンの声。
「なんとか……」
ミリアが起き上がる。
セレストは周囲を見渡していた。
「まだ来るわ」
断言。
その根拠は説明されない。
だが——誰も疑わない。
「来るぞ」
カイトが言う。
—
空気が歪む。
見えない“何か”が動く。
「左!」
セレストが叫ぶ。
レオンが剣を振る。
——弾く。
「今の……当たったのか?」
「当たってる」
セレストが短く返す。
「見えないだけ」
—
「厄介ね」
リゼルが呟く。
「どうするのよ」
カイトは少しだけ考える。
—
「近づく」
即答。
—
「は?」
ミリアが声を上げる。
「見えないのよ!?」
「だからだ」
カイトが剣を構える。
「遠くにいるほど分からない」
—
「近づけば分かる」
「分かる保証あるの?」
「ねぇよ」
即答。
—
「でも」
一歩、踏み出す。
—
「やるしかねぇだろ」
—
沈黙。
—
リゼルが一歩前に出る。
「……行くわよ」
—
迷いはない。
—
「はぁっ!!」
踏み込む。
—
衝撃。
—
「ぐっ……!」
カイトが受ける。
見えない攻撃。
だが——
位置は分かる。
—
「そこ!」
リゼルが杖を振る。
炎が走る。
—
空中で、何かにぶつかる。
—
「……当たってる!」
ミリアが叫ぶ。
—
「いいぞ、そのまま詰めろ!」
レオンが指示を出す。
—
「カイト!」
「分かってる!」
—
二人が同時に動く。
—
距離。
呼吸。
タイミング。
—
完全に揃う。
—
「今!!」
「はぁっ!!」
—
炎。
連続。
—
見えない“何か”を削る。
—
「……効いてる」
セレストが呟く。
—
「なら——」
カイトが踏み込む。
—
「もっと詰めるぞ!」
—
「言われなくても!」
リゼルが応じる。
—
さらに距離を詰める。
—
ゼロ距離に近い。
—
「はぁぁぁっ!!」
—
炎と剣が同時に叩き込まれる。
—
——バキッ
—
何かが砕ける音。
—
空気が、戻る。
—
静寂。
—
「……今の」
ミリアが呟く。
—
「壊れた?」
—
その瞬間。
—
「——甘いな」
—
声。
—
振り返る。
—
ゼクト。
—
さっきと同じ場所に立っている。
—
「……あんた」
リゼルが睨む。
—
「今のは“外側”だ」
ゼクトが言う。
—
「本体は別にある」
—
意味が分からない。
—
だが。
—
「理解する必要はない」
—
一歩、踏み出す。
—
圧が変わる。
—
「来るぞ!!」
カイトが叫ぶ。
—
衝撃。
—
さっきより重い。
—
「——っ!!」
レオンが吹き飛ぶ。
—
「レオン!」
ミリアが叫ぶ。
—
「散るな!!」
セレストが叫ぶ。
—
だが。
—
「遅い」
ゼクトが言う。
—
動きがズレる。
—
一瞬。
—
「なっ——」
—
その隙。
—
衝撃。
—
全員が後退する。
—
「……くそっ」
カイトが歯を食いしばる。
—
(今のは……)
—
ただの攻撃じゃない。
—
“ズレ”を作られている。
—
「カイト!」
リゼルの声。
—
振り返る。
—
距離が、わずかに開いている。
—
「詰めろ!」
—
リゼルが踏み込む。
—
距離、回復。
—
「はぁっ!!」
—
炎。
—
ゼクトに直撃。
—
だが。
—
「遅いな」
—
動じない。
—
「……くっ」
リゼルが歯を食いしばる。
—
「まだ足りねぇ」
カイトが言う。
—
「なら——」
—
一歩、さらに踏み込む。
—
「限界まで詰めるぞ」
—
「……やるしかないわね」
—
二人が並ぶ。
—
完全に。
—
「今!!」
「はぁぁぁっ!!」
—
炎と剣。
—
最大出力。
—
——ドンッ!!
—
衝撃。
—
ゼクトが、わずかに後ろへ滑る。
—
初めての変化。
—
静寂。
—
「……いいな」
ゼクトが呟く。
—
「理解した」
—
一歩、下がる。
—
「今回はここまでだ」
—
「逃がすか!」
カイトが踏み出す。
—
「やめろ」
セレストが止める。
—
「追えない」
—
ゼクトは笑う。
—
「次は、もっと面白くなる」
—
そのまま。
—
消えた。
—
完全に。
—
沈黙。
—
「……何だったのよ、今の」
ミリアが震える声で言う。
—
誰も答えない。
—
ただ一つ。
—
「……近づくしかねぇな」
カイトが言う。
—
リゼルが頷く。
—
「ええ」
—
それだけが、分かっている答えだった。




