第7話 ヴァルゴグリーン
カナデは抱えられた腕の中でポカンと口を開ける。
視界に映るのは風景と、赤を基調とした女の子だった。
「へあっ!?」
カナデが奇妙な声をあげると、その女は苦笑して何も言わなかった。周囲を見ると自分がいた場所から離れている。そこにはカケルの姿もない。カナデは女の顔へと向き直り凝視する。
「・・・・・・そんなに見られると、困るんだけど」
顔をそらす女にカナデは息をのむ。
何故だかわかってしまった。ここにいない彼が、彼女であることを。
「か、かか、カケルさん!?」
「・・・・・・うん」
彼女、乙女戦士になったカケルは、カナデの言葉に小さな声で答える。カナデの耳にもちろん聞こえ、驚きで悲鳴をあげる。
「カケ、カケル、カカカ、カッケ、カケルさ、ん」
「とりあえず落ち着け」
「じじ実は、お、女の子だった!?」
「それは違う!!」
カナデの言葉に強い否定を返すカケル。
しかし若干パニックになっているカナデには、その言葉も届かない。
「ご、ごご、ごめんなっさい。ぼぼぼ、僕、カケ、カケルさんのこと、おおお男と、かか、勘違い、してま、したあああああ」
「待て! 違う! その勘違いこそが勘違いだから!!」
「か、勘違い? ・・・・・・はあっ!? ぼ、ぼぼぼ、僕、ほほ本当は、死んでるって、こことと!?」
「そっちの勘違いじゃないから! 心臓に手を当てろ! 生きてる鼓動がそこにあるから!」
地面に降ろされたカナデはじろじろとカケルの姿を凝視する。
「カ、カッ、カカケルさん?」
「・・・・・・うん、ごめんな」
「TSですか!?」
「・・・・・・うん? 今何て言った? 何の略語だ?」
突如一切のどもりもなく言い切ったカナデの言葉に、カケルは首をひねるがカナデは曖昧に笑ってごまかした。カケルは気になりながらも、今の状況に思考を切り替える。
「カナデ、俺は大丈夫だから。むしろここにいるとお前を巻き込む」
カケルはエビルと向き合った。カナデも真剣な顔でうなずいた。そして何かを思い出したようで口を開いた。
「カ、カカ、カッ、カケルさん」
「どうした?」
「こ、この、た、たた、戦いが、終わっ、たら。はな、話たいこ、とがあるっん、でっす」
ここに安倍川がいたならば、この台詞を聞いて「死亡フラグ!?」とツッコミを入れただろう。しかしそういうフラグを知らないカケルはしっかりとそれにうなづいた。
カナデは表情を明るくして逃げていった。
カナデが離れていくのに安心したカケルは、エビルを見て真剣な顔に一変する。
エビルは追いついた緑の乙女戦士と戦いを再開している。カケルはそれに意識を向けながら走り出す。すぐに戦いに移れないカケルは、苦々しい気持ちであった。
(ダメージを与えられない俺じゃ、下手に入っても邪魔になる。少なくとも処女充電が貯まるまでは)
カケルを変身させてから、おいちゃんの姿が見えない。ここにいないトールのところにいったのだろうと推測できる。もしトールがここに来たならば、以前のように互いの技を合わせることで戦いやすくなるだろう。
そこまで考え「くそっ」と嫌な顔をした。
(俺の力は走れば走るほど大きくなる。でも、それには時間をかけてしまう)
時間がかかればかかるほど、周りの負担が大きくなる。そして結局は他人任せな部分が出てしまう。1人で戦っていたときは考えなかったことが、心の中で不安へと繋がる。
カケルの能力は「壁」だ。そもそもの能力が本来サポート型なのだ。だが、本当にサポートになっているのか。そんな思いが気持ちを沈ませる。そんな沈んだ気持ちでカケルはバトルから視線を外してうつむいてしまう。
「・・・・・・・・・・・・ん?」
そこであることに気づき、それを見てカケルは思わず疑問の声が漏れた。
すぐさまギョッとした顔で、エビルと、それと戦っている緑の乙女戦士を見た。
「マズいっ!」
カケルが走り出した。
緑の乙女戦士が再度平手を放つと、エビルの岩の破片が飛び散って転がっていく。それに伴い、少しずつではあるがエビルの体が小さくなっている。
緑の戦士は少しずつでも相手の力を削ぎ落とそうとした。
そのエビルが、嫌な笑みを浮かべた。そしてそれが形になった。
緑の乙女戦士に向かって、岩の破片が飛んでいく。
正しくは、一カ所に転がって集まった岩の破片が一瞬で岩石へと固まり、緑の乙女戦士の死角からエビルに向かって飛び込んでいく。
緑の乙女戦士の反応が遅れる。岩の塊が彼女の視界に大きく映る。
「手を!!」
呼びかけられた声に、緑の乙女戦士は反射的に手を伸ばす。その手を掴むカケル。カケルは自分の持つパワーとスピードで、緑の乙女戦士を引っ張った。
地面に転がるようにして、岩の飛弾をなんとか避ける。
岩はエビルに当たり、そしてその体へと取り込んでいく。そして最初の大きさへと戻っていった。
危機一髪の状況に、カケルは深い息を吐いた。
「砕けた破片は、また元のエビルに戻るってことか」
それはつまり今のままでは埒が明かないということだ。さらに言えばトールが来たときに使おうと思っていた合わせ技「トールの放つボールに、カケルが壁を作る」方法も、岩を砕くだけで解決には至らないだろう。
「つまり、1撃で相手を仕留めるか。それか砕けた岩を、元の体へと戻さないようにしなければならないってことね」
急に聞こえた声に、カケルはその主に顔を向ける。
緑の乙女戦士が仮面越しに、カケルを見つめていた。
「あなたが、校庭で大樹のエビルを倒したときに使った技。あれなら消滅に近い形でエビルを倒せるわ。それまで私は時間を稼げばいい」
初めて聞いた彼女の声に、カケルは息をのむ。彼女は口元をほころばせる。
「私は近距離攻撃型だけど、どちらかというと威力よりも広範囲への攻撃になるの。だから岩の表面は大きく砕くことはできるけど、あの固い岩を一気に崩す自信はない」
「でも俺の攻撃は時間がかかる上に、1撃で倒せるかどうか」
「そうね。砕けた岩が元に戻ることを考えると、私も下手に手出ししにくいわね。でも悩んでる時間もない。あなたのサポートは努めてみせる。私はあなたたちと比べてスピードが遅いから、岩を崩さないようエビルの近くで足止めしないとね」
「それって、危険じゃ」
「大丈夫よ。乙女戦士だもの。多少は丈夫にできてるわ。それと伝えるのが遅くなってごめんなさい。さっきは助けてくれてありがとう」
優しげな、柔らかい声が耳に届く。思わずその声に聞き入ってしまう。
「てめええええええ、こら大地コノヤロウ!!!」
それをかき消す声。カケルからすれば雑音とほぼ同音のそれにイラッとする。
カケルが振り向けば案の定、トールが乙女戦士になった状態でカケルの元へと駆け寄っていた。思わず顔をしかめるカケルはトールに視線が行ってしまい、緑の乙女戦士がトールから顔をそむけたことに気づかなかった。
「何だよ。バカ、コノヤロウ」
「うっせえよ! テメェが勝手にいなくなった後、大変だったんだからな! おいちゃんのテレポート使って消えやがったから、安倍川からは『あいつが人殺しになったらお前のせいだからな』ってマジ切れされて。ミギはテメェの顔にめちゃくちゃ怯えて、イサジからは『トールは人の地雷踏むの本当好きだよね』って呆れられるわ。とにかく大変だったんだからな!!」
トールの怒り声に、カケルは青筋を立てながら聞いていた。だがとりあえず後で安倍川には連絡しようと思った。安心させるという意味で。
「そもそもこっくりさんやり始めたお前が悪いんだろうが」
「あ”ぁ”? テメェ、本気で幼なじみに対して気持ち悪ぃんだよ。ガチでストーカーで警察に届けんぞコラ」
「その前に素行の悪さでお前のが先に捕まるかもな。このなんちゃって不良」
「んだとコラァ!? こっくりさんで使った10円玉。テメェの財布の中に入れてやろうか!?」
「嫌がらせが地味なんだよ。そもそも俺がこっくりさんなんかで・・・・・・」
カケルの言葉が不自然に止まる。
そして今日、トールとミギが行ったこっくりさんのことを思い出した。
こっくりさんを、10円玉の中に入れる。そしてそれを鳥居に戻す。
「そうだ。こっくりさんみたいにすればいいのか」
その発言にトールは疑問の声をあげるが、カケルはそれを無視した。
そして緑の乙女戦士の方へと向いた。
「すいません。やっぱりエビルの攻撃を続けてください。むしろトールの攻撃も合わせてどんどん砕いてください」
緑の乙女戦士は黙ったまま、カケルを見つめていた。
攻撃をせずにエビルのそばで足止めをする。それはとても危険なことだと簡単に想像できる。だから他人の負担を減らせる方法を、カケルは求めた。
「1度だけ試させてください。それからでも、遅くはないですよね。ーーヴァルゴグリーンさん」
カケルの言葉に緑の乙女戦士、もといヴァルゴグリーンはうなずいた。
更新頻度が徐々に落ちていて申し訳ありません。
こちらの事情で時間に追われ、執筆の時間がとりにくくなりました。
少しずつでも書き進めたいと思うのですが、どうしても更新頻度が長くなるかもしれません。
ご理解のほど、よろしくお願いします。




